アクト=裏付け(3)

 首都高速の下、玉川通りをミニバンで走り、渋谷駅南口のバス・ターミナルを横切って、西口の正方形に作られた歩道橋をくぐると脇道へ。

 そのまま恵比寿方向進むと、道路は極端に狭まくなり、人の混雑が密集する裏通りへと、深く入り込む。


 渋谷区の裏通りは少し曲がると、二股、三股と別れ、左右で道はそれぞれ、下り坂や上り坂と、道筋が幾分にも別れる。

 この近辺まで来ると、電柱や建物壁、シャッターと、至る所に落書きが描かれ、現代アートの青空美術館のような町並みになっている。


 通行人に注意を払い、速度を落とし走行すると、目の前に、ビルやマンションにひしめくように、茶色い一〇階建てビルが見えた。

 ビルのすぐ下には、大きな駐車場があるため、都合よくミニバンを止めるっことが出来た。

 

 ミニバンの運転席から優姫が降りると、滝馬室も続いて降りた。


 尋ねる場所はビルの五階。


             【押尾不動産】


 室内に入ると、不動産屋の店主が笑顔で応対する。


「はい、いらっしゃい。どんなお部屋をお探してすか?」


 不動産屋は、白のワイシャツの上に、ワイン色のカーディガンを着た、五十代の男。

 髪こそ白髪で覆われているが、肌は浅黒く焼けており、金縁の老眼鏡をかけている。


 不動産屋は開いた手を目の前のソファーかざし、滝馬室と優妃を座るよう、もてなす。


 部屋の中央にテーブルがあり、テーブルを

両脇から 挟むうに革張りのソファーが配置している。


 二人がソファー並んで座ると、不動産屋も対面するソファーに座った。


 優姫は女らしい一面を出す。


「彼と同居出来る部屋を探しているんです」


 そう言うと、彼女は優しく、滝馬室の腕に

手を置いた。

 不動産屋は、金縁メガネから、目玉が突き抜けるのではないかと思う程、驚いて聞く。


「ほぉ! これは随分と、年が離れた旦那さんですねぇ~」


 優姫は手を振って、慌てて否定する。


「いえ、結婚はまだ何ですけど、ゆくゆくはしたいと思ってます」


「いや~、彼氏さんが羨ましい! こんな若くて可愛らしい彼女さんがいて!」


「そんなことありませんよ。今、一回り二回りある年の差カップルて、以外に多いんですよ。ね?」


 顔を赤らめ、初々しさを全面に出す、優姫とは対象的に、滝馬室は表情が引きつり、腹筋が痙攣するような感覚から、声がかすれる。


「そ……そだねー」


 普段、ミズーリのオフィスで、警察官のなんたるかを啄木鳥きつつきの如く、せっ突く彼女に恐怖を感じている為、女性らしい優妃が気持ち悪く思え、吐き気すら覚える。


 二人は前日訪れた、マンションの三〇五号室が、詐欺グループの拠点だと当たりを付け、脇を固めるべく、物件探しを通して部屋や周辺情報を集めていた。


 優妃の、あざとい恋人芝居に、落ち着きをなくした滝馬室は、室内のインテリアに注意を向ける。


 自身が座るソファーは、革張りでありながら、なめらかな手触り、人肌触れているような錯覚さえ覚える。

 座りごごちは、腰を下ろした際、自重を支えゆっくりと綿に沈んでいく感覚だ。

 かなり高級な物だと解る。


 棚の上に置かれた、硝子のアンティークは、半身を上げる馬を模した、ガラスの彫刻。

 ガラスでありながら、首筋や前足、後ろ足は見事な曲線を描き、躍動感を表現していた。


 それ以外にも、滝馬室は不動産屋が身につけている、銀時計に注意が向く。


 磨かれた金具のベルト。

 丸身をおびたベゼルに、文字盤は黒に白い針。

 三の倍数だけを表記した数字。

 何より、目に止まるのは、文字盤に描かれたブランド。

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