アライアンス=捜査二課

 諏訪警部補から質問が投げかけられる。


「で? どうだ。何か掴めたか?」


 滝馬室は聞かれても、返す情報を持ち合わせていないため、しどろもどろになる。


 諏訪警部補は叱責する。


「おい? 面倒なことさせといて、何も掴めてないのか? 何やってたんだよ。ボケ老人みたいに、ボォーとしてたのか?」

 

 釘を刺され、バツが悪そうに苦笑いをする。

 ふと、もう一つの懸案事項を思いだし、滝馬室は、頭を押さえながら困った顔で返す。


「実は……面倒ついでに、一つお願いが?」


 *****

 

 女刑事、天野・優妃は、恩人となった、諏訪警部補への興味が尽きないでいた。


「諏訪警部補は、捜査二課の方だったんですね?」

 

 滝馬室が先輩刑事、諏訪・幹成みきなりに懇願して、自身の部下を取調室から解放すると、諏訪警部補の後を、親鳥の後を追う、ヒヨコのように二人は付いて行く。


 刑事の身分を偽ったまま、取り調べの追求を受けるのは不敏だと思い、彼女を解放をさせたが、今思うと、何かと口うるさい優妃を、取調室から解放したの失敗だったと、後になって滝馬室は後悔した。


 おそらく優妃は、詐欺事件の捜査に、加わることが出来ると踏んで、諏訪警部補に取り入るだろう。


 滝馬室を取りまく状況が、よりややこしくなる。


 優妃は、知識欲の餓鬼がごとく、諏訪警部補に質問する。


「捜査二課だと、知能犯や詐欺を対象にした部署ですね?」

 

「あぁ。それ以外にも、汚職、企業絡みの犯罪も捜査の対象になる。日々、移り変わる経済犯罪と渡り合う為、捜査員は、株式や不動産投資に関する知識を学ぶのさ。おかげで、仮想通貨にも強くなった」


「さすが、狡猾こうかつな相手と渡り合う、頭脳派集団ですね」


「経験と知識が物を言う、捜査一課の課長が、ノンキャリアなのに対して、論理と情報の組み合わせが不可欠な、捜査二課の課長がキャリア組なのは、その為だ。将棋のように、机の上で何十もの差し手を導き出し、犯人ホシの先手を封じる。犯人との知恵比べだな」


「では、諏訪警部補はキャリア組なんですか?」


「いや、現場で叩き上げられたノンキャリアだ。そのせいか、未だに部署をタライ回しにされる風来坊だよ」


「警察で花形と言えば、重犯罪を扱う、捜査一課ですけど、知能犯罪を扱う捜査二課も、出世としては有利ですよね?」

 

 刑事の仕事に返り咲きたい優妃は、ズケズケと質問するが、尊敬の眼差しを向ける、女性警察官に、諏訪警部補もまんざらではないようだ。

 諏訪は、誇らしげに答える。


「まぁ、そうだな。経歴では言えば、申し分ない肩書きさ」


 諏訪警部補は付け足す。


「二課には三年近く在籍しているから、今年の人事で配置替えになるだろうよ。だから、今回のギサ(詐欺)で犯人ホシを上げて、ハクを付けたいんだがな」


 一通り、優姫の質問が終わると、逆に諏訪警部補が質問する。


「お前さんも、”代理店”なんだろ?」

 

 警部補の何気ない質問に、優姫は目をそらし、右頬にかかるボブショートの髪で顔を隠す。


「えぇ……まぁ……そうです」


 彼女は、歯切れの悪い答え方をした。


 その返答に、滝馬室は反射的に睨みを効かせる。


 俺が日々、一般人を装いつつ、暑い日も寒い日も、足で人脈を広げ、その裏で、警視庁へ上納する情報を収集しているというのに、不満顔を見せるとは何事だ!


 スズメの涙ほどしかない情報を、かき集めるのに、どれだけ苦労していると思っているんだ?


 諏訪警部補は、こちらを親指で差し、会話に滝馬室を巻き込もうとする。


「二課の仕事がやりたいなら、”こいつ”に聞けよ?」


 優妃は、不思議そうに滝馬室を見た。


「タキさんですか?」


 話に巻き込まれたくない、滝馬室は、強引に話をそらそうとする。


「す、諏訪さん。詐欺グループの方は、どうですか?」


 諏訪警部補は、滝馬室に視線を移して返す。


「ん? 気になるか?」

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