超放置的装置「代理店」

 刑事ドラマなどに、時たま出てくるので、一般にも知られていると思うが。

 警察の隠語で、本庁こと、警視庁を含む都道府県警を”本店”

 各、都市部や、地方に設けられた支部。

 所轄こと警察署を”支店”と、一般的な企業の総称で呼ぶ。

 

 その為、警察の代行で監視を行う、サードパーティーは、”代理店”と位置づけて呼ぶのが相応しい。

 

 公安警察の総本山、「ゼロ」の血を受け継いだチーム。


 学生運動から変貌し、国内で破壊活動を行っていたテロリスト集団、連合赤軍は、公安警察「ゼロ」の内偵捜査によりリーダーを逮捕。

 国内テロの脅威は去ったかに見えた。


 しかし、九十年代。

 カルト教団による首都中心部を狙ったテロ事件以降、それまで公安部の監視対象にならなかった、新興宗教団体は、危険分子として内偵対象に加えられる。


 それにより「ゼロ」に代わる監視チームが必要となった。


 一つの宗教団体に、それぞれ代理店が監視任務に付いた。

 サード・パーティーは複数ある代理店の一つに過ぎない。


 だからと言って、”代理店”と言う隠語が、警察に存在する訳ではない。

 あくまでも、サードパーティーの存在を知る、人間だけに通じる隠語だ。

 

 この”代理店”と呼ばれるチームは、超法規的措置ちょうほうきてきそちに基づいて、任務を遂行している。

 

 その任務はと言うと、怪しいと思われる人物をデータ上でリストアップし、上層部に提出。

 公安部は、その情報を元に内定をするかどうかを判断する。

 ”代理店”の職務は、事件が起きる前段階。


 ”事件性”を見つけることだ。

 

 と、言うのが立て前ではあるが、実のところは、その方針はここ数年で変わってしまった。

 

 全国の都道府県警に設置された公安警察は、各々が集めた情報を、公安警察の元締め。

 警察庁企画課に属する、公安部に報告する。

 集められた情報は、優先度の高い情報から順にランク付けされ、より重要性の高い情報を提出した陣営は、賞が与えられ、一つのステータスに繋がる。

 

 そこで、各陣営は治安を揺るがしかねない、機密を提出するのだが、治安の安定した日本で、治安を揺るがす情報など、そうそうお目にかかれない。


 それは、有限会社ミズーリことサード・パーティーも同じだ。

 サード・パーティーも、集めた情報を、まず、警視庁公安部に報告する。

 報告した内容が、警視庁で重要な情報だと判断されれば、それは警察庁企画課に上げられる。


 が、サード・パーティーが送る情報は、世間でも社会の隅に追いやられた、カルト教団の監視。


 報告する情報と言えば、

「今日、集会場に信徒が数名入った」

「新しい信徒が入信した」

「今日は活動がない」など。

 素人が聞いても、重要性など感じられない。

 

 故に、サード・パーティーの報告は、警視庁公安部で止まり、その先、警察庁に上げられることは無い。

 警視庁はリストを見もせず、パソコンのファイルに圧縮して保存するだけ。

 上層部から見れば、サード・パーティーの役割は、生身の監視カメラ。

 ただただ、ボケた年寄りのごとく、公園に群がる鳩を眺めるのと同じ。


 言うなれば、”超放置的装置ちょうほうちてきそうち”だ。

 

 カルト教団の立ち上げに伴い、作られたサード・パーティーは、発足当時、五~六名の体制で配備され、必要に応じて人員を入れ替えていた。


 そして、監視対象であるカルト教団に、社会的脅威が低いと判断されると、その監視の重要度は下がり、人員は縮小され、常駐していた公安部の係員は、警視庁や警察庁に戻っていった。


 しかし、事が起きた時、監視の目を解いたことで、事態の対応が遅れ、事件を見過ごせば、世論は警察を糾弾する。

 その不安から、上層部はチームの後継として、係員を一人残した。

 

 それが滝馬室だった。


 社会的驚異の気配がない団体を監視するなら、一人でいいかもしれないが、世間の目から、サード・パーティーの本質を隠す為には、会社としての業務を併用して行わなければならない。


 会社の事務に手が回らなくなると、滝馬室が上層部に、人員の補充を申請した。

 すると、よりにもよって公安以外の部署から、係員を派遣してきた。

 

 機密性が高い情報を扱う公安部が、窃盗犯専門の優妃や生活安全課の加賀美など、部外者を派遣したのは、組織内で”代理店”の認識が、どういうものかよく解る。

 

 あくまで、はぐれ者集団の文句を、機密という言葉で封じてるに過ぎない。

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