「ワルキューレ」家宅捜索騎兵隊(4)
事態は大詰めを向かえる。
狭い扉を、寿司詰め押し込んで来る、十人のスーツを着た刑事達。
ブラックやブルー、ダークグレーなど、スーツこそ統一されてはいないものの、皆、オールバックの髪型で足並み揃え、呼吸を合わせたかのように、鋭く睨みを効かせる。
各々がかもし出す気迫は、集団になると一体となって、それまでの、殺伐としていた空気すらもを殺す。
滝馬室達を含め、この場の詐欺グループも、突然のことに呆気を取られる。
先頭の刑事が、室内にいる集団の顔を一通りみまわすと、大きく息を吸い、好戦的な姿勢で声を張る。
「動かないで下さい。強制捜査を行います」
この窮地に、市民の味方。
正義の申し子と呼ぶべき、警視庁が現れるとは、まるでオペラか時代劇の山場。
しかし、詐欺グループの家宅捜索に居合わせるとは、タイミングが悪い――――。
金髪で黒ジャージの男が、詐欺グループのメンバーに向けて言う。
「おいおい、また警察かよ。ついさっきも、警察の人間が来たぜ?」
男は、こちらを見ながら、あざけり笑うと、メンバーもつられて肩で笑う。
次に見せた表情は、野獣のような顔。
熊か虎のように吠え、スーツの集団に詰め寄る。
「ナメてんのか!? コラァ!!」
その勢いに加勢したモヒカン頭の男。
しかし、犯罪捜査のプロは、これぐらいの怒号ではひるまない。
捜査員である彼らより、背丈の大きい相手を凝視し、睨み合いの勝負を挑む。
高みから見物し、髪を結んだ眼鏡の男は、この状況を楽しんでいるようにも見えた。
「ねぇ? 強制捜査なら、令状とかあるの?」
その一言を聞いた先頭の刑事は、険しい表情を崩すことなく、スーツの内ポケットに手を入れて、淡々と先を進める。
「裁判所から得た、令状もあります」
十人の捜査官の中でも、一際、ポマード塗りたぐり、オールバックの頭が油のように光沢を放つ、先頭の刑事は、三つ折りの紙を広げ、ジャージの男に書面を見せる。
ジャージの男は突き出された紙に目を通すと、先ほどまでの威勢はどこぞへ忘れ、態度を改めて、紙に穴があくかと思うほど食い入り、血相を変え一言。
「本物?」
それを聞いた詐欺グループの皆が、ざわつき、明らかに動揺が広がる。
滝馬室も、遠目でその令状を見て確認する。
”捜査差押許可状”と書かれた書面には、以下の内容が記載され、それぞれの蘭に手書きで記入されていた。
被疑者の氏名。
捜索する住所。
押収する物。
家宅捜索の手続きをいた司法警察員の名前
そして、でかでかと裁判官の氏名の横に、赤い判が押されているのが見えた。
紛れもなく、日本の司法制度が、受諾したことを示す内容だ。
法的に認められた、この令状の執行力からは、逃れられない。
とは言え、家宅捜索を行う際、捜査機関は事前に訪問すること通告するのだが、詐欺グループが行方をくらますことを懸念して、抜き打ちで来たというところか?
髪を結ぶ眼鏡の男が、机の上にあるメモ用紙を、片手で掴み、ゆっくり丸めようとする動作を、先頭の刑事は見逃さなかった。
「動かないで! この場にあるものは、全て証拠として押収します!」
家宅捜索の場合、何が犯罪者を有罪に追い込む、証拠になるか解らない。
一例そ上げるなら、児童ポルノを売りさばく、違法業者に家宅捜索行った捜査員が、現場のゴミ箱に捨ててあった、レシートの購入日から、違法なDVDの出荷日を割り出したということある。
壁にへばりつく滝馬室は、せめて営業に来た、一般の会社員のような様相を見せる。
滝馬室は状況を整理した。
「”捜査二課”か?」
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