クラウドファンディング

 表向きは事務OLだが、素顔は勤勉な女性刑事こと、天野・優妃との話ばかりに気を取られ、この男の存在を忘れがちになってしまう。


 加賀美・じんはパソコンから目を離すことなく、ズレ落ちる眼鏡のフレームを指で上げると、くぐもった声で内容を伝える。

 

「僕の方でも、ネットの情報をかき集めて、要点を接合してみたのですが、詐欺の手口は、おおむね、海外にある土地を被害者に購入させ、その土地から、湧き出る水を、ミネラルウォーターとして日本で販売すると言うものです。そのミネラルウォーターの売り上げの一〇%を、毎月、顧客に還元すると言うのが、この詐欺の手口です」


 滝馬室は関心する。


「さすが、サイバー捜査官」


 彼がサード・パーティーへ異動してから、一年近く経つが、必要事項以外、あまり話をしない。

 そんな調子なので、年齢、左遷前の部署以外は、この眼鏡の根暗警察官に関する情報が乏しい。

 心の内に、どんな想いを秘め、この左遷組の巣窟に、どれ程の不満があるのか計りかねる。


 滝馬室は何気ない疑問を放る。


「しかし、被害者も、おいそれと土地を買うとは、気前がいいなぁ」


「土地の購入は、販売元が複数の購入者を募り、資金を出し合って購入する、と言うのが殺し文句です。被害者は、複数の購入者の内の一人と言う、安心感が働き、結果、詐欺グループの口座に振り込む訳です。相手は時間と金の余裕がある老人達。もしくは、パートタイムか内職の代わりになる稼ぎを求める主婦」


「何だか、クラウドファンディングみたいだなぁ」


 加賀美の真向かいのデスクにいる、優妃が一言添える。


「水を売るだけなら、ウチの会社も、同じようなものですけど」


 滝馬室が反論する。


「ウチはちゃんと、信用出来る業者を使って、仕入れてるから違うよ。一緒にしてもらっては困る」


 警察が日頃から発揮する、”捜査力”を駆使して情報収集を行い、選んだ仕入れ業者だ。

 信用度は、警視庁のお墨付きと言う事だ。

 

 サイバー捜査官こと加賀美が、話を切り返す。


「実体を掴む為、早急に詐欺グループとのコンタクトが必要です」


 こちらから、アプローチをかけるのは、簡単だ。

 被害者から聞いた番号に、電話して、そこから相手の送信元を調べればいい。

 

 しかし、詐欺グループの視点で考えれば、いきなり連絡されて、法に触れている物を買いたいと言われれば、当然、怪しまれる。

 下手すると、番号も所在地すらも変えられて、足取りが掴めなってしまう。

 

 こう言う場合、警察では、被害者の協力を得て、詐欺グループと電話でのコンタクトを取ってもらう。

 あるいは、都が配布している、分厚い電話帳に、偽りの電話番号を乗せて、詐欺グループが網にかかるのを待つ。

 あくまでも、怪しまれないように、向こう側から見つけるように仕向ける訳だ。

 

 だが、潜入任務中の上に、警察としての身分まで変えられている。

 捜査権を凍結された滝馬室達には、これらのことは出来ない。


 サイバー捜査官の眼鏡が光。

 

「こんなこともあろうかと、目立つように、情報をこちらから発信していたんです」

 

 滝馬室の脳天に疑問符が浮く。

 

「発信?」

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