第4話 ねぇ、私のモノになってよ!

自殺程度で地獄に落ちるわけがないこの私が今ここにいること。

それがすべてを物語っている。

それほどの美しさが地獄の鬼に通用しないはずはない。

告白してきた男だってみんな、「君はこの世に舞い降りた天使だ!」って言ってたもん☆

だからそう。

これこそが償いになるのだ。


鬼に告白するのは初めてだが、これで落ちないはずはないだろう。

案の定、鬼は顔を赤らめて……。


「あらやだぁ~! 可愛らしい子ねぇ~ でも、ざ、ん、ね、ん♪ 

 アタシ男にしか興味ないのよねぇ~ん♪」


(なんですって???)


私の心の中は直前の贖罪を吹き飛ばすほど荒れ狂い、同時に怒りと嫉妬が支配した。

贖罪をかかげ、消したはずだった。

だがこの毒は心の奥底で確かにあったのだ。

この世の男どもが私の前にチョコを差出し平伏すたびに、表向き、いや自分に対してもかもしれない、偽りの憂いと冷静さを示すのとは裏腹に、自分の美しさを支配の手段として用いることの快感が確かにあったのだ。

自らの美しさの毒への依存は、目の前の鬼を、あー二丁目の住人か、とか脚色するなんてこともなく、ただただ存在を全く認められないほどにまで自分の思考を支配していたのだ。


(あぁ……そういえば彼もこの私の絶世の美しさという毒を呑んではくれなかったんだっけ……)


衝動的な思いが掘り起こしたある過去を私は思い出す……。


$$


「ねぇ、私と少し出かけない?……ちょっと、返事位してよ!……もしかして……私のこと、嫌い……?」

「……」

彼はいつもこんな調子だった。

私から何か話しかけても、いつも無反応。

脈なしである事ははっきりと分かりきっていた。でも、彼は、スタイルも良いし、ファッションセンスも完璧であった。

その証拠に、彼の前を通り過ぎる人々は、必ずといって良いほど彼の方へ視線を向け、全身をくまなく見る位であったし、中には、彼のファッションを真似る者も居たほどであった。

そんな彼のことが、私は気になって仕方が無かった。

最初に目撃してからというものの、心の中にはずっと彼がいた。

所謂一目ぼれという奴なのであった。

そんな彼に、私は何回も話しかけてみた。

何度も何度も。

だけど、彼が答えてくれることは無かった。

私は、そんな彼の煮え切らない態度に痺れを切らし、彼に真意を問いただすため、又、彼と出かけることによって、自分の中の、彼に対する独占欲を満たすために、一度、強引に彼の手を引っ張り、無理やり連れ出そうとした事がある。

しかし、その時、すぐ近くに居た中年の男性に、

「君! ソイツにそんな乱暴な事しちゃ駄目だよ! ソイツは丈夫そうに見えて、結構繊細なところがあるんだから……。それに、そもそも、いつからソイツは君のものになったんだい?」などと言われ、結局彼を連れ出すことに失敗してしまった。

しかし、この男性が言うように、彼と出かけるには、彼が私のものであるという事を周囲に証明しなければならなかった。

そして、その証明をするには、彼の口からそうであるということを言わせた方が良いというのが、当然の結論であった。

だから、私は、いつも彼のもとに通って、こう言ったものだった。

「ねぇ、私のモノになってよ!そして、私と一緒に出かけようよ。ずっと突っ立って、○まむらのマネキンやってるだけじゃつまらないじゃない……」と。

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