第3話 重罪だわ……

「ほんと、ばっかみたい」

冷ややかにそう吐き捨てると、私は血の池に背を向ける。

ここで立ち止っていても何も解決しそうにない。

行くあてなんてないけれど、とにかく離れよう。

こんな見るに堪えない光景を視界に入れ続ければ、きっと私まで壊れてしまうだろう。

そうして足早に立ち去ろうとする私の前に、不意に毒々しい緑色をした巨大な何かが立ちふさがる。

ゆうに3mは下らない、頭から角を生やした人型のそれ。

「……っ!」

失念していた。

先程遠巻きに見えていた鬼が、いつの間にか目の前にまで来ていたのだ。

私の顔から血の気が引いていく。

地獄における鬼の役割なんて、小学生でも知っている。

今から私は、一切の呵責も躊躇も感じないだろうそれに、機械的に痛めつけられなければならないのだ。

生前犯した罪を償うために。


$$


「これ、受け取ってください、お願いします!」

ああ、もうやんなっちゃう……。

これでこのような言葉を聞くのは、87回目。

今日は3月14日。そう、ホワイトデー。

バレンタインデーに男どもにチョコを渡した覚えは無いのに、なぜか学校中、いや、地域中の男が私に貢物を渡してこようとする。

中には、私のあだ名と掛けて、チョコを渡そうとする人もいるくらい。

面白いとでも思ってるのかしら……。

私はそう思うと同時に、何故、こんなにも男共が群がって来るのかを考察した。

私の成績がオール5だから?

いや、それだったら、隣のC組の秀才メガネちゃんも沢山貰ってるはずだけど、そうじゃないし……。

だったら、私が生徒会長だから?

でも、先代の生徒会長も女性だったけど、特に貰ってる様には見えなかったし……。

これらから導き出される答えは……。


私の美貌。


そう、私が美しいから。

そうに違いないわ。

それだったら説明がつく。

ああ、私の容姿が端麗なせいで、すでに彼女が居るような男までもが私に貢ごうとするんだわ……。

私ってば、なんて罪作りな女なの……。

こんなにも沢山の男の人生に干渉してしまっているなんて、重罪だわ……。


$$


私は、前に、幾ばくかの冗談を含めつつも、そう思ったことがあった。

しかし、私が私の美貌を罪だと、少しではあるといっても確実に思ってはいたのだから、これは確かに罪なのだ。私は、この罪を償わなければならない。

でも、どうやって……?

私の美しさという咎と、それを償うために、目の前に居る鬼を倒すということ……。

これらをどうつなげれば良いっていうの……?

鬼と対峙し始めてから、対処法を考えはしてみたものの、ある一つの方法を除いては、他に思いつかなかった。

私は、それを実行に移すために、鬼の方を凝視し、そして、一つ深呼吸をした後、こう言った。

「私と付き合って下さいっ!!」

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