第2話 私もう死んでたんだった……私のおバカさんっ☆
ずっと、ずっと……生前の私の感覚から言えば、永遠という表現を使っても差し支えないほどの長い時間を、である。
「……どうしよう」
なけなしの空元気を振り絞ったヤケクソなテンションも今や完全に冷え切ってしまい、私は唇を震わせながら一人途方に暮れる。
ここに留まっていても仕方ないのは目に見えていた。
「とりあえず前進あるのみか……」
私は、一歩一歩地獄の冷酷さを身に感じながら進んでいくことにした。
どれ位歩いたのだろう。既に足は棒のようになっていた。
「疲れすぎて死にそう……って、私もう死んでたんだった……私のおバカさんっ☆」
そんな独り言を呟きながら、ふと横を見ると、遠くの方に血の池地獄があるのが目に入った。
「あそこに行けば誰か居るかも……」
私はそう信じながら、そちらの方へ歩みを進めていった。
案の定、血の池地獄は人で満ちていた。しかも、居ないと思っていた鬼もここには居た。
「血の池地獄……暖かそうだけど、一回入ったら最後、ずっと苦しい思いをしながら入ってないといけないんだもんなぁ……あれ?」
血の池地獄にしては、中に入っている人の表情が明るい。どういうことなのだろう。入っている人全員がドMってことは無いだろうし……。
「おい、ねーちゃんも入っていけよ」
不意に入浴中の老人から話しかけられた。
「入るって……これ、血の池地獄ですよね……?」
「血……? 何言ってんだ、ここはただのトマト祭りの会場なだけだぜ?」
「トマトですって……?」
辺りを見渡してみると、人々は熟したトマトのようなものを投げあい、潰れたそれが溜まって池になっていることがわかる。
恐る恐る池に近づいてみると、なるほど、確か良いにおいがする。
そう。私の大好きな。
血の。
「ほら! ねーちゃんもこっちの仲間入りだ!」
そう言いながら、老人は池に引きずり込もうとする。
その男の、本来は眼があるべき場所は洞になっており、全身の肉は爛れ落ちている。
よく考えれば、あの暗闇だけが地獄な訳はないのだ。
こういった地獄らしい場所もあっておかしくはない。
うん。忘れていた。
「残念だったわね。私はそちら側 ではないの。」
そう言って、男を文字通り一蹴する。
可哀想な人たち。自分たちの臓物を嬉々として投げあう姿は、滑稽ですらある。
投げ合っているものトマトと思わなければ、心が壊れてしまうから。
……もう守るべき心なんてありはしないのに。
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