第48話「俺が犯人です。ですが、良いのか?」
私はずっとフィクションの主人公に成りたいと願ってきた罰なんだろうな、と思う。文字通り力不足で、頭不足で、自分で妄想した世界をどう説明するかが……出来ない。
だって、何となく妄想した世界に居て始まりなんて無く、当然、世界はずっと続く。そんなぼんやりした世界を説明するったって、本当は全部の問いを、何となくです。と答えたい、いや、それが正解なのだ。何となく出来た世界なんだから模範解答なのだ。
でも現在その模範解答が許されず……Α、Β、Γ、Δと並べ立てられ、それらに関連性が
在る事が自分でいっていて判り、そのいっている自分は誰かと問うならば、そりゃあ私月極光子つきぎめひかるこであるというただソレだけ。しかも今まで一寸も考える暇なく脳髄を通さずにベラベラ無責任きわまりなく喋っていた私が喋ると、自分の事が良く解って来た……。
「わかった。私、頭が悪いのに考え過ぎているからワケが判らなくなるんだ」
「そうだネ。こんなに気持ちが良いのに、外に出てからずっと眉間に皺寄せて黙ったと思ったら案の定だったのかいナ。少し吐き出してみたら良いんじゃないかに?」
「うん……ちょっと口に出してみる……。私の産まれた家庭環境は最悪で、それは私とレイプ魔の父の所為でママがストレスに耐えきれず、私がうけた教育は余り良いものでなかったのは確かだったけれど、その分、私は自分で手に取った本によって沢山の学ぶものが有ったというか、本が殆ど。フィクション然りフィクションみたいな歴史然り。私はそれが度が過ぎてしまって身体での教育が受け付けない我が儘な子に育って来た。
逆にいえば私はそれ位しか狂人の要素はなく、歳を重ねる毎に自己顕示欲が高まって誰かに認めて貰いたくなるというのは普通の事だと思っているけれど……そうね、私はそれほど自由に生きていたから、その立場を好んでいた事もあって友達も作らず電柱に私の想いや考えの旨を貼り付けて世間に認めて欲しかった、偉いねと、唯それだけを。
馬鹿と天才は紙一重という言葉は正しくて、あの頃は本当に馬鹿だった。順序という手順を知らなかった。あの頃の私は解っていなかったからペタペタ色々と迷惑をかけて警察が来たのは当然の事で、そりゃあ異常者とも見られるわ……。でもそのお陰で私はあの病院に入って奇しくも、いや、運命みたいにはじめ君に出会い、別に顔も何も好みじゃないのに私は、極自然にはじめ君の事を意識していて、ノゾミの話を聴いた後だと会うべくして会ったみたいだけれど、その頃は本当……正直、ドキドキと吊り橋効果で運命だと感じていたわ。だって私は運命なんて胡散臭い言葉が大嫌いだったんだから。
そう感じたから、はじめ君と話をして、してみれば何だか妙に考えも気が合うものでタルパ、悪魔の証明、シュレーディンガーの猫、マクスウェルの悪魔、ネゲントロピーと……私が知っている事や知らない事でも人によって解釈が違う事や、論議ごっこする事が、苦手な筈のコミュニケーションが胸躍らすほど凄く楽しかった。はじめ君が時折見せる狂いや疑心暗鬼でさえも成るほど面白いと、人間多種多様と……だってフツウの個性の無い人生の道を何も考えず歩いてゆく人間より、個性的でワザと獣道を掻き分け
往く普通じゃない経験を積んだ人間の方が、絶対に考え方も何もかも面白いじゃない?
だから私もあえて阿修羅道である狂人道を歩くよう心掛けて、もっと狂おうと手本のはじめ君に向ける意識を集中させてゆく内にどんどん好きになってゆく愛という感情が気持ち良く感じて、それまで愛するものは本しかなかった私が初めて人を愛するという気持ちに触れられて、異性であるはじめ君を見る目が段々と変わっていった。母性さえ生まれたのか、私が不安定な時にはじめ君が支えてくれる様、はじめ君が不安定な時は私が支えてやりたいと思う様になり、度々面会に来るママなんてもはや眼中になくなり私の眼に映る人がはじめ君のみと成ろうとした頃、はじめ君は私に……まだ早い性欲を手段や経歴はどうであれ芽生えさせたから私はもう虜になって狂い始め、狂人道に片足やっと入ったかという所で、それからメッキリはじめ君の姿が視界から消えて、興奮や欲求が最高潮に達していた私は鼻息あらく眼をまん丸くしながら探し回った……でも、はじめ君が居るはずの場所に居ない、在るべき場所に無い、日常が非日常になった。と絶望しながらも可能性は〇じゃないと信じ続けて探し回った……信じていたから……。
結局どこを探せど瞳孔が開ききった狭い視界にはじめ君のひとつも映らないけども、めげず諦めず記憶の中に存在しているはじめ君を瞼の裏に映して喋ったり、お似会いの風景をはじめ君の周りに描写したり、そこに私の姿を投影しながら自分を慰めていると
……そうよ、そうだわ、これこそがこの世界の始まりだわ!」
「ほ~う、極限状態の脳髄が産み出した世界と。でもその脳髄は死んだヨ」
「魂をも刻む、怨念とか劣情で出来た世界だとか!」
「ウン、調子いいネ。だが矛盾が生まれちまった、キミはΔ世界でハジメの本性を見て
ここに避難したはずだ。ハジメの本性さえも愛おしく想っていたんだろ?」
「そうよ。だからこの世界にトラウマが居るの! 私はずっとあのビル群の向こうから磁力の様な、引き寄せる力を感じているわ! ホラ、噂をすれば! 蜃気楼の中に眼を凝らしてみてよ! 人の形が歩いているのはノゾミにも判るでしょ!」
「……判るネ。頭が眩しい人の形が予定調和の如く、うわっ!」
「わっ、えっ、そうか!」
私と胸に抱いて心地良さそうにゴロゴロしていたノゾミが蜃気楼の影は手を広げると磁石をカチリとくっ付ける様に一瞬で引き寄せられた。懐かしいハゲ頭は顔を怒らす。
「お前はドコまで自分勝手なんだ! 明らかに説明不足も過ぎている、瞬間移動なんて俺に一回でも教えたか! ヤッパリ最初の地点に戻っているじゃないか!」
「ふふっ、また会えたわねΒ。いえ、ビーっビーっビーっ」
「なぜ俺の名前を知っている! お前には話していないはず……」
「そうね、私の名前も知らないでしょ。私の名はヒカルコ。眩しく怒っている神であるライト様から産まれた娘よ。今やっと、過去と未来が混ざり合い、現在と成ったのよ。独りぼっちは気が狂いそうだったでしょうけれど、私も狂いそうになりながら進化してココに戻り、アナタにとって都合の悪い存在、ノゾミという証拠を連れてきたわ!」
ノゾミを熱いアスファルトの上に立たせるのは可哀想なので私の胸に蹲っている顔を
Βに見せると、よほど都合が悪いのか条件反射みたいに掴んで無言で壁に投げ飛ばす。
「……にゃはは……。Βのいう通りだ、全く痛みを感じないヨ」
「お前!……ドコまで話した、ドコまで聴いた!」
「かくかくしかじか」
「…………」
「そんなワケなんだにゃ~。チミはΒの残骸といって良いだろう、運の尽きだネ」
「……という事は、俺はチキとゲインの元に帰られるのか?」
「いんや。もう遅いヨ。そしてチミを消す事も容易いんだ、それは自分で決めなさい。この世界でアダムと成るか、今までの頑張りもむなしく消滅するか」
「ノゾミ、その質問はまだ早いわよ! アナタの親であるΑとはじめ君は今、何も無い
Δ世界で、愛し合っているのか励まし合っているのか懐古を楽しんでいるのか判らない
……けれど、アナタはズルをしてココに来て歯車は狂ってしまった……。今のアナタはずっと歩いて疲れただけだけれど、ΑをΔ世界に閉じ込めて、はじめ君をΒ……アナタと
交換すれば、Αの歴史改竄の力とΒの創造・消滅の力でΔ世界は始まり、このΓ世界は
元に戻って……私がイヴと成り始まるの……」
「お前ら、何をいっているのか判っているのか? 俺が何をしたっていうんだ」
「Β世界を崩壊させた。親の顔みたさだけにラジヲを使っておまえはココに来たんだ。
偶然じゃないよナ? 何故なら夢を見るワケはラジヲの機能とほぼ一致しているという事を知った状態のラジヲさんが作った完璧なラジヲ、おまえはプログラミング出来る。初体験でも目標を定める事なんてカンタンだったんじゃなかったネ。だがおまえはΑが
二つ居るとは露知らず、ヒカルコが作ったお人形のΑに焦点を当ててしまったと考えれば
可能性は極限まで絞られるというのがアチキの推理だ。どうだい違うかい」
「……元々、お前がラジヲを作らせたんだ――」
「いいかいアチキは怒っているんだ。おまえは一度ラジヲに身を滅ぼされ兼ねなくなり自分で書いた聖書の禁忌、自分で戒めた自分にしか出来ないプログラム改竄を犯して、
Β世界の人間の被害を甚大なものにした。おまえだけが犠牲になれば被害は一人に済み
悲しむヤツは確かに居るがテメエが書いた聖書によればちゃんと神と成れただろうサ。それでもテメエはテメエでケツを拭かなかったから、天才ラジヲさんを欺き今や極悪人と呼ばれ逃げるしか選択肢は無く海の藻屑に、国王アダムさえも拷問中となったんだ。テメエがどれほど寂しかったかもちろん知っているサ、ただ世界の創造主として余りに自分勝手、こんな少女風情のヒカルコよりもずっと自分勝手だと知りながらノウノウと寂しかったからとしか考ずに散歩していただけだろうがテメエは!」
さっきまでの喋り方が嘘みたいにしっかりと喋るノゾミの胸中がようやく分かった。ノゾミは私とは真逆に、本当に人間が好きだったんだ。ノゾミはΑ世界の記憶も携えて
アダムトイヴとの冒険でΒ世界に来て二人の子供を守ってきた。Βの事もΒ世界の事も、
私よりも良く知っていて、馴染みのラジヲさんにラジヲを作らせた自分に負い目を感じ悔やんでいた事をΔ世界で遠回しに告白していたんだと。私はあの時、そんなノゾミを狂ったネコと、余りに非道い事をいってしまった……無限に混沌としている並行世界を這いずり回って様々な人間の死を見て二百冊のメモを書いてきたノゾミに対して……。
「ノゾミ……ごめんなさい……本当に……そんなに考えているなんて思っていなくて、あの時、非道い事いってしまった私に……生きてゆく資格なんて……」
「ヒカルコ、大袈裟。してアチキは今ネ、ーーーの返答待ちなんだ。もっというかい?飛び回っている本物の親のΑに移ったとしても、おまえは母親ヒカリ、娘のヒカルコ、
そしてΑの創造主ハジメの顔すらも見られなかっただろう。この世界に居るジッとした
ヒカルコの寂しさの極限状態から生まれたΑ´に移ったから先に行ったΒは大満足した。
おまえはΒの残骸Β´とでも呼ぼうか、アチキはΓ世界の事を理解出来ていないが、Βは
並行世界上でΓ世界からの脱出に成功して落ち着き、アチキはちゃんとワケを聴いた。
アチキは自殺して幽体と成って並行世界を飛び回るΑを追い掛けていたが本物の方に
移っていたらおまえは惨く痛い想いもしていただろう。お前の親はその痛みに耐えかね自分を保ち為すべき事を為そうと、仕事には終わりと報酬が在る、自分は自分では無いと考えてしまう程にまで自己喪失していたから、アチキは誰にもなりすませないよう、頑張らせないよう、悲しませないよう、なんも無いΔ世界の中に製作者であるハジメと
Αとヒカルコを一緒に殺し閉じ込めて、その上でハジメとΑを切り離したハジメは現在は
路頭に迷っている事だろう。だからサ、分かるだろ? おまえがやっと、初めて親孝行出来る世界がΔ世界なんだヨ。そこで親の身体と家を拵えてやりなさい」
「…………」
Β´は頭を掻いたり眼が泳いだりとしていて迷っていたみたいだったのが、親孝行と
いう言葉を聴いた瞬間、空を仰いで胸一杯に呼吸して心の揺らぎの一切が消えた様だ。
「……チキとゲインは元気か……?」
「ああそりゃモチのロンだ。それに加えヘルと仲が直り、アヌは家のドアをこじ開けて真実を知ろうとしているヨ。そこまで至るのにΑ´さんは凄く頑張り、本物と似た様に
自分とは何なんだという疑問に陥り、それでもなお頑張った結果なんだ。Α´さんも、
早く羽を休めたいんじゃないかネ」
「Α´とは……あの赤い屋根の家に居た惨たらしい二人の死体の事か……?」
「えっ……あの赤い屋根の家……本当に死体が居たの? はじめ君が殺した父母……。だってドアを開けたら病院に繋がっていたけどノゾミ――」
「まあアチキが胸を張っていえる真実はここまでだネ~。まあゆっくり考えてくれや、アチキは疲れたから成果が出るのをタイヨウさんの光を受けつつ待つことにするヨ」
私の、例え極限状態で出来てしまったかもしれないけれど、あくまで妄想世界にさえ今度は並行世界の存在が表れた……私にそんな力も無い筈なのに、あの時そうだろうな
という唯の予想がΒ´の口から具体的に出て、でもその予想が外れた為に私は死んだ筈。
混乱してしまって目を瞑り、目を開けると真っ白な世界の中の真っ赤なりんごを見て、アダムとイヴ……創世記みたいだなと考えた筈、未来と現在と過去が一致していない。
「ねえーーー、ここは二人ぼっち世界の筈でしょ、どうして死体が居るの……?」
「……お前が作った世界なんだろうココは。神だって本当に二人いてさ、俺の良く知る神は火照る身体を冷ましてくれたから、ライト様の怒りでこんなに眩しいワケじゃないと、ヒカルコのいう通りだったと詫びをいおうとしたら、お前は消えていた」
「だって私は……あのポツンとある赤い屋根の家が怪しくて戸惑い、アナタが一目散に可能性を見出そうとドアを開けたら、私はベッドで寝ながら妄想していたから……」
「……お前は、本当にヒカルコか? ずうっと俺と話していたヒカルコか?」
「どういうこと……私は!……誰だって自分が自分であるなんて証拠なんて――」
「違う、お前もラジヲを使って妄想代理しているんじゃないかと訊いているんだ」
「は……は……ラジオなんて誰でも持っているわよ、用途は音声を聴く為の……」
そんな……私が……私もラジオを使って?……でも、それならこの世界は誰が作ったといえるの?……違う……確かにΒ世界のラジオと私の居た世界のラジオは用途は全く
違う様にいっている……私は馬鹿な頭で考えるからダメだとは……さっき解ったんだ。
「ふう……いいえ、違うわ。この世界の創造主はわたくし光子であるのは確かなのよ。世界が違えばモノの用途も違ってくる、考えだって、その死ねば神様に成れるみたいな宗教だって変わってくるわ。アナタは同一世界を自らの手で変えた。そうよね?」
「……ああ、そうだ……」
「私は正直アナタも、Βであっても好きだったわ。最初はびっくりしたけど、私の話を
ちゃんと聴いてくれるどころか反応して素っ頓狂な事を考えてくれるのは楽しかった。でもね、居るべき場所に居て為すべき事を為す、という事は全うな人生なんだと思う。それに親孝行したいなんて私より偉いし素敵で羨ましい心よ。私は親を攻撃してきた、だからいえる事なの。私はアナタの幼い反面教師に成れたのなら、私は本望よ」
「……ヒカルコ……」
いっている内にこのΒ´と、互い名乗らないにも関わらず悠長に喋りながら二人ぼっち
世界を闊歩していた頃の記憶が鮮明に蘇ってきて、意に反して涙が溢れてしまい詰まりながらも胸を借りていってやった。あの頃は何も考えていなかったな、楽しかったな。そんな思い出を作ってくれたハゲ親父は私を優しく抱いてくれたので私は恥ずかしさのひとつも感じずに強く抱き返す……青白い患者服は暖かく、お日様の匂いがした……。
「……じゃあ、もう良いかに?」
「……ああ、親孝行してくるよ」
「ちょっと待って、お別れのキスくらい……させて」
「……ああ、そうだな……」
ハゲ親父は私に目線を合わせ、私は目を瞑る。唇に震えた感触が出来た時プツプツと音がすると思うと更にバキバキバキバキ音がして私は恐くなって閉じる瞼に力を入れ、唇の感触に集中した。口の中に舌が入ってきて驚き目を開けるとソコには見知った眼、はじめ君の眼があったのでまた眼を瞑って、私たちは舌を絡め合い存在を認め合った。
「イヒヒッヒッヒ、本当だ、キスするごとに世界は変わってゆくんだよ!」
「違う、はじめ君、私たちはもう変わらない。私たちはこの世界のアダムとイヴよ」
「えーでもさっき……アレ、脚から血が伝っているよ、もがなくたって良いのに」
「……どうして、こんなに、都合良く……」
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