第46話「フィクションはノンフィクションから」

「そりゃそうだよネ。こっからΒの話をしたって何となく判るだろう。実質アチキが神に

成るまでの話になっちまうから、後はハジメとヒカルコの子供はヘルトというがソコの経緯なんて今更ドウでも良い事だ。お次はヒカルコに照明をあてるネってか、逆に質問したいんだヨ。ただの少女、それも特に学力や頭が良いワケでもないヒカルコ風情が、どうして神であるアチキよりも立派な世界を作られたのかを」

「えっ……! あんなお人形遊び、誰でも出来るわよ!……いいたくないけれど、ただそれこそ妄想がいき過ぎただけの話なんだから……。そんな事、訊かないでよ!」


「ウウーン……。では話をかなり戻そうか、分岐点だといった所を憶えているかにゃ?その妄想がいき過ぎただけとは言い切れないヒカルコの世界、Γ世界がネ。Β世界にだ、

これまた厄介不可解な革命を齎したんだ。それ位のもんを創造したとも、伝わるかネ?


 ちょいとまた、どうでも良いと端折ってしまったが理解させる為に必要な様だから、前の話の続きをするヨ。紆余曲折あってまたΒはまたも親の事を想い寂しさが生まれ、

会いたい顔を見たいという欲望が更に強まったんだ、恋人が居ても親役のアヌが居てもソレらが逆効果さしたのサ。工作ヲタクのラジヲさんに名前そのまんまラジヲという、無限の並行世界の海を電波を使って移動する大層なモノをΒは作らせた。ラジヲさんは

アチキが商売していた所に白熱灯やら缶のコーヒーやら面白いものを作って持ってきた実績はまあ有ったからΒがアチキに都合よく擦り寄ってきた時に紹介してやったんだ。


 そいで人工人間で実験すると……あ、息子さんのヘルトくんも重要人物だった様だ。簡単にいうとネ、最初に出来た試作品ラジヲは本来の目的、Βの思うものとは全然違う

代物で、魂も無い身体だけの人工人間に並行世界から魂を交換するものだったんだよ。ハジメとヒカルコの息子ヘルトがその人工人間の中に損傷の有る状態の魂が入ったのを見てΒは、話と違うじゃないか。とラジヲを改良させた。それでも不具合は付き物で、

Βは色々人工人間に実験させている所をアダムとイヴは、それはなんだ。と見つかって

Βはヤバいと思ったのか咄嗟に、役に立つものです。と答えて誤解させたんだ。その頃

もうアダムとイヴの狂いはΒが作った嗜好品によって少しはマシに成っていたがキミら

みたいに変に生真面目で王の職というものに頓着していたもんだから、その実験に何か意味を持たせなければダメだとΑ世界出身のクセしてΒ世界にすっかり染まっていた。


 親のΑは歴史改竄の為アレコレカレコレと口が巧く、こんな時の隠蔽なんて茶飯事で

狂わしゃ一石二鳥の話だと思っているとアチキは感じているが、子のΒは経験が無いし

教育から何もかんもはΑの初期型プログラムを映しただけの設定上は親である可笑しな

人間アヌからしかされていなく、アヌの教育といったらΒが作った過去のプログラムの

歴史を両手の花と一緒になって知らないフリして再確認する事と、創作の紙芝居くらいだったからΒはそういった処世術が下手糞だった。最初に実験して魂を、交換といえど

空っぽの人工人間だから名ばかりで、魂を並行世界のどっかから損傷付きで強奪をした

ヘルトを王と王妃に見させればヘルトは何食わぬ顔で、コイツらは肉にして良いのかと素っ頓狂なことを当たり前にいう始末。だが、アダムとイヴは自分らが王だと知らないヒトが居る事にビックリしたと共に強い個性を感じた様で、同種だと感じたんだろうかソレを良しとした。ソレとは魂の強奪ネ。王の命令でラジヲさんに袖の下を握らせて、もっと良くしろコレは貢献だ等と投資して、Βの思惑通りいかなかった初期型の機能に

電波を数値ひとつひとつに持たせ世界に括らずどこからも魂の強奪を出来る様になる。



 世界とは色々あるヨ、自分の世界、並行世界、活動範囲だったり現在・過去・未来、東西南北もそう。そんな言葉上の世界をも網羅し同期のオンオフするスイッチを付けて空っぽの脳髄に電波の周波を割り当て多種多様な世界から魂を強奪する同期器ラジヲが完成すると同時に天才ラジヲさんはある事に気付いた。睡眠時に夢を見る訳はラジヲの機能とほぼほぼ一致しているんじゃないかと。これが天才が故の抜けた場所だったネ、

Β世界のことごとくを知り過ぎてしまった事だヨ。天才ラジヲさんは良かれと思って、

のちに王も巻き込み極悪人と呼ばれ天から地へズドンと落ちる事も知らずに、ラジヲで強奪した何も知らない魂を眠らせた夢の中に、もう一度ラジヲを使う、謂わば無限大に混沌として無作為に在る世界の総てを首輪付きの魂に調査させてから戻ってくるまでの行程記録を収録媒体に録る実験に成功した。最初は本当に、より視野を広げようという意味で、個人的な標本として様々な世界の調査をしていた。そこでハッキリ解った事はどんな世界のヒトでもやっぱし……カネを中心に動いているというヒトの汚さだった。というのはアチキの感想だがネ、ラジヲさんは其の人間の汚さを統計学的に肯定された気になり自分の金銭欲を正直にして、その乱暴に、そして巧みに魂を使った調査をして得た収録媒体を王様に献上し、悪代官とその商人の如く、世の中カネですぜと見返りを請うヒトになってしまっていた。Βはそんな事も露知らず、それはなんだ。と見つけ、

ラジヲは、役に立つものです。とΒと同じ事をいえば、アホのΒは、自分が役に立つのだから親に会えるという事だな。と寂しさも相まってかそうとしか思えなく成っていた。


 投資されて良い物を作り発見をして献上する。この過程はどの世界でも在り来たりな仕事の風景だろうと思うが、汚いヒトである王アダムはその過程を知ろうとするんだ。その過程はソーセージ製法の様に知らない方が良いものなのに、王は妙に知りたがる。

天才ラジヲでさえコレだけは知られちゃマズイよと思い、専門用語をワザとふんだんに交えて出来るだけ伝わりにくい説明を始めると王である自分が理解できないアワアワと次第に子供みたいに腹を立てるも、王の職に頓着しているから冷静に成る為に高い酒を飲みながら聴いていれば、ラジヲの複雑な説明が長過ぎて遂には酔っ払ってしまった。説明が終わる頃にはスッカリと良い気分に成られて欠伸をしながら、ハイそれ採用。とラジヲが丁度コレは立派な仕事に成りますという言葉を王から直々に承諾を得てしまうというキレイにも程があるイかれた誤解の連続で生まれたのが妄想代理という仕事サ。


 こうやって人間社会は滅びていくんだと判ったネ、いくらプログラム上の人間でも、

Α世界出身の人間でも、人間が考える事を放棄して右に倣うだけならソレはもはやゴミ

以下なのサ、弱肉強食の中でも人間が武器を持たなければ最弱の部類だろ? ってネ。シュンとするなよキミらは良く考えている、度が過ぎている……ゴメン、話を戻そう。



 ラジヲで魂の交換をすると、首輪の付いている魂がアッチに行った時はそりゃ身体の組織を殺さない様にコッチ側にも魂が無ければ成らない。そしたら身長や体重や身体の何もかもが違ってくる事は必然、それで奇妙な動きになっちゃう所を見て妄想しながら自慰を行っている様だと嘘が下手なラジヲさんはそんな残酷な例えを転じて妄想代理とさっきいった仕事名になったんだけれどネ。その奇抜な仕事名に平凡な仕事をしている人が心を打たれ、しかも仕事内容は寝て夢を見るだけと来たモンだから、次々と転職し爆発的に人気になって流行に、悪い意味での社会現象に成った。元居たΒの造ってきた

人間共の殆どが眼の色変えて帰って来た。Βはもう、それはそれは不服だった、なんせ

プログラムが目まぐるしく改変されてゆくんだからネ。ラジヲさんは当初の目的を忘れ王様方に就いてしまった事で遂に革命児ラジヲさんの手で創造主であるΒの思い通りに

いかない世界に成り果てた。Βはそりゃもう荒れた。プログラミングも追い付かない、

創造しても消滅させても小さなラジヲ一つから新しいのが次々と出るわ入るわ湧くわでアチキも仲間たちもあん時は指をさして笑ったヨ。自分の造った何の変哲もない人間が偶々アタマのよろしい方で、自ら王様を誤解させたのが始まりで、完全なる自業自得。やっぱりカネには勝てなかったゼ……とコレでは終わらないんだ、もうちょいだけヨ。


 Βも歳を重ね巡り巡っての親がおどろおどろしいほど複雑に書き出したプログラムも

ソレによって作られたアヌが無意識に紙芝居形式で判り易く確認できた事もあり、Βは

親の歴史改竄方法をやっとの事で解ける様になった事でラジヲさんが未だヘルトくんを強奪してアチャ~こりゃ失敗ですネ。といっている所に現れ、睡眠時に夢を見るワケとラジヲの機能は一致しているんだとラジヲさんが未来で発見する筈の最大の業績をその段階で……その段階とは未だ魂が損傷付きで強奪が可能になる段階で、教えてしまう。



 Αのやり口を例に挙げなかったが親子ともども似たような手口なんだ。身体が有るか

借りるかの違いだけ、こうやって自分に信用を得させるのサ。ラジヲさんはその段階でソレに気付いて火が点き其の状態で王アダムに仕事とさせて貰い社会現象に成るまでの流れは同じだがネ、ひとつ違う点は並行世界上に存在するΒ世界に革命を齎した完璧な

ラジヲをΒは恋人にも親にも知らせずに自分の家の一番奥にある寝室の端っこに密かに

説明書も一緒に持ち出していた事だ。これでΒ世界の浮気者は不完全なラジヲによって

損傷付きで戻ってくるだけならまだしも……世界もラジヲも並行ではあるが、同列ではないモンだから帰って来られなくなる人が続出した。ウキウキとラジヲを点けて眠り、どっか知らん世界を調査している一方で自身に魂が交換されず身体が死滅してゆく事も知らないで帰ろうとも帰れないし帰って来ないとラジヲさんの収録媒体が意味を為さず恋するあの娘が眼を開けない……とΒの復讐は親のΑよりもえげつなく限度を知らない

犯行があんまりに大袈裟なモンになってしまって自分が恐ろしくなって震えてしまう。


 それに加え、幾ら自分を苦しめた程の完璧なラジヲが直ぐそこに在るとしても、Βは

他人を見てばっかで自ら体験をしていないから疑心暗鬼に成って当初の目的の親捜しも出来ないで居た。親も親だが子も子でばかだヨ。唯一、損傷付きではあるが魂の強奪に成功したヘルから事情を聴こうにも本名すらロクに思い出せないで、呑気に人肉事業に成功し親であるアヌに手を出してウハウハ幸せそうにしているからΒは素直に成れず、

親捜しを始めたのはアヌと喧嘩して飲んだくれて自棄になった時の事、やっとだった。



 長くなっちゃったネ、ここでヒカルコが作ったΓ世界の、ヒカルコの父親そっくりの

ハゲたオッサンに入った、Αの模写とΒの魂が交換されて話は繋がるんだ。ヒカルコ、

お人形遊び、妄想がいき過ぎた……等という言葉だけじゃ説明が付かないんだヨ」


「えっ、私? 説明が付かないったって……私はそんな大層な力なんて無いし今までの長話だって全然ワケ分からないしで……ΑもΒも凄いなあ位にしか」

「何か、隠しているネ? 隠しているよネ?」

「本当に何も隠してもいない……というか今の私たちは隠し事が出来ないじゃない!」


「……タルパ……」


「それだけじゃない。自分の世界を改竄したΒですら、完璧なラジヲを使って親の顔を

見る事しか出来なかったのに、何故ガキのヒカルコにΑのプログラムの複写が出来て、

オッサンを創造し、他の生物の総てを消滅できたのか。アチキはキミらに理解させた、だから対価としてアチキにも理解させておくれヨ。でないと仲間らに顔見せ出来ん」



「……神って、どいつもこいつも本当に頭が固いわ! さっきから強制的に聴かされて居たわよ、でもホントの事をいっているのかどうか証拠が一つも出てこないじゃない!胡散臭い奇麗事を並べ立ててソレを運命とかいっている様なものよ、最初にいっていた並行世界なんて無限に在るんだから、そのΑとかΒとかΓとか居ない世界だって在っても

おかしくないんじゃないの!? 私たちが幸せだった世界だって在るんじゃないの!? まるで私たちが……産まれなければ良かったみたいにいわれても、どうしろと!」


「……正論だネ、アチキも神だなんて糞喰らえだ。だが、残酷かもしれないがアチキは一番キミらが、その世界その世界で幸せに輝いていた所を掻い摘んで理解させたんだ、ソコに嘘はひとつも無い、子供染みているかもしれんが、ちゃあんと命をかけている。だから、それらを三角として三人しか居ないこのΔ世界の中で守られながら、こうして

答え合わせをしているのも理解しておくれヨ。キミら咎めるヤツは居ないワケだけれどこんな時くらいゆっくりとして欲しいヨ。答えを急ぐ必要なんて無いんだからサ」


「だって……そんな理不尽な事いわれたら私もはじめ君も悪者だっていわれているのと同じじゃない……存在を否定されて、有るのかどどうかも判らない、幸せだったかもという可能性、それも気の遠くなる程の事をいわれるだけじゃ……ただの狂った、人語を喋れるネコが妄言を吐いているとしか……。ね、はじめ君。はじめ君……?」



「…………」



「そう、ここまでヒカルコはキツかっただろうが、ずっとベラベラ喋っていた事は総てハジメが証拠を提示してくれる様に、出来るだけ細かくくどく伝えてΑをパンクさせる

事だけに意味が有ったといっても過言じゃないんだ、ヒカルコにはハッタリをかませば

Γ世界に居るΑの存在の有無も確認できたんだし、長ったらしくして本当ごめんヨ~。

アチキは嫌いではないけれど、良くもまあここまでやったと一眠りしたい所だが、未だ踏ん張っているみたいだ。止めの言葉をいってやらないと『なりすまし』をするかもしれん。Αよ、アチキのいったΒ世界の事実は記憶されていないネ? まだまだ足りん等と

言うのならば、この残り百九十九冊のネコ語のメモをアチキが更に読み上げて蓋然性をより豊かにさせても良いんだヨ?」



「僕は……何故……」


「何故なら、被害者を見つけ、陳謝し、殺した理由を理解してくれたからだ。認識可能であるならば、これを復唱せよ。『私はライト、おわりはじめを愛している』」

「私はライト、終わり始めを愛している……ビーッガガッ……ビーッガガ……」


「ちょ、ちょっとノゾミ……いきなりどういう事よ、今まで話した事は本当に……」

「しっ、認識中! 『おわりはじめと私の光る子そみれみあれば、そみれみある時』」


「終わり始めと私の光る子そみれみあれば、そみれみある時……ビーッガガッ……」

「『私は総て終えて死にゆく始め、始めが終わり、終わりが始まる』」


「私は総て終えて死にゆく始め、始めが終わり、終わりが始まる……ガガガッ……」

「『ご主人様ご褒美頂戴、私は良く頑張ったの』」


「ご主人様ご褒美頂戴、私は良く……ガガッ……ビーッビーッ……頑張ったの……」

「ヒカルコ! コレを見てどう思う!」

「え、えと……何が欲しいの?」


「アナタが欲し――」

「よっしゃ捕まえた! 危なかったネ~。むしゃむしゃ」

「えっ! そんな乱暴な……食べちゃって良いの?」

「アチキは便宜的にも神だからネ、ハジメを見てごらん」



「イヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒヒッ! ヒカルコちゃんは我が儘だなあ」


「……私は、いつかどこかで、こんなはじめ君を見た事がある……」


「ごくんっ……。ハジメの正体をヒカルコは憶えているはずだ、この強烈な笑い声を。ヒカルコはハジメの本性から目も耳も背ける為にΓ世界の中でケンカをした、何故なら

自分の理想と違ったからだ。ホラ、このままだとまた同じ事を繰り返すだけだ、そんな未来へと行きたいのならアチキは……余計な世話した只の老婆お節介ネコだナ……」


「だって……どうやってやったか憶えてないよ……ひっ――」

「イヒヒ、イッヒッヒッヒッヒ! ほら、ヒカルコちゃん、入ってゆくよ。ヒヒッ!」

「恐いだろう? 目も耳も背けたいだろう? ここから逃げ出したいだろう?」


「……うん……」

「アチキが長ったらしく喋っていた事に、何を感じた?」



「……まるで……フィクションの物語……」



「その心を正直に、『恐いモノから逃避せよ』! ぐえッ、アチキはっ――」



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