第45話「ヒト語を教える種族を間違えた」
「無視して続けるよ、次はΒの話。Αとヒカリの間で産まれたΒはまるでアダムとイヴだ
よネ~じゃなくて、これが本当のアダムとイヴなんだ、人口魂のネ! ああ、人工魂と呼ぶと人工の何かを魂かけて作る職人さんみたいだから人工の魂といえば伝わるかい?
再人類創造のエデンの園は、Αの世界/Βの世界、と別れちまったんだ。Αの世界は
人間以外の動物がお盛んな世界で大量のΑがハエの様にブンブン飛んでいる世界だけど
Βの世界はΑが翻した本の一ページの中で分岐して出来たお陰で人類はやり直せる様に
成り、Β人類創生とでもいおうか、ヒカルコ念願の哀しい世界からおサラバ出来たサ。
ここで一寸アチキの生い立ちも、手前味噌ではありますがサラッと挟みますよ。話に関わりは十分あるのでネ~っへっへっへ。実はアチキはΑ世界出身なんだ、ケダモノが
謳歌してΑがブンブン飛んでいる世界で、極普通の黒ネコの両親から特に面白味もない
私様に産まれた何の変哲もないの黒ネコが、わたくしノゾミと申します。食生活だって他のネコと比べても何にも変わらん詰まらん成らんネコでした。アチキ自身の分岐点は神に成ってから判ったのだけれど、アチキは何気なく若さ余って散歩をしていたらば、美味しそ~な香りがして、もちろん普通の黒ネコだったからそりゃあソコに行くさネ?
歩けば歩く度に良い香りが増してゆく、こりゃラッキーってヤツだ。と思ったら当然でそこはひっそり隠れ潜んで美味しい肉を焼いている人間様の生き残りの集落であった!
アチキ以外のケダモノも少なくも居たが其の分、集落に居る人間も少なかった。だがアチキは黒ネコ、集落に片足入るより先に罵声を浴びせられたり蹴られたりで、嗚呼、黒ネコの宿命哉、人の残酷さが故に。と心の中で黒ネコ歌を詠みながら肉に成る覚悟を決めた時、後ろからアチキを優しく抱き抱える人が居てネ、ブン投げられて命拾いかと思ったが、妙に温かい手で撫でながら、なんとまあ家にまで入れてくれるじゃないか。
そいつがフミアという猫生で一番にお世話になった方だった……勿論Αは寄生済みで
集落の人々からは嫌われていたフミアもといΑは気付かれない様に余り外に出ず食糧は
集落の中に居るまだ出来てない家畜をコソコソ盗み出したものだ。そんな少ない食糧をアチキに食べさせる前にΑはアチキにヒト語を一言ずつ覚えさせ、いえるようになれば
やっと褒美として食べさせてくれた時のあの肉は余りに美味いもんだからアチキ必死に覚えた。たまにマタタビをくれた時はもう……と、ゴメンよちょっと昔話も過ぎたネ。まあそうやっていたら未だふにゃふにゃではあるが出来るもんで、今こうしてアチキは人語を喋れるようになったっていう昔話でした」
「……僕の居る世界に人間は居なかったんじゃなかったのか?」
「そのフミアの目的は何だったの? ネコに言葉を覚えさせる意味が解らないわ」
「さっきもいった通り並行世界は無限に在り、其の分Αも居ると考えて間違いは無い。
集落に居た人はΑを良く知り、Α除けなるものを身につけて居たんだ。頭に鉄みたいな
紙を被っている変な人間の集落だなと当時は思っていたが、意外とΑは気分的に動いて
居るらしく、その鉄みたいな紙は気に入らないと、少しだけ待ったを掛けられる程度の効果は有った様だヨ。しかしフミアは面倒臭がりだったのかその鉄紙を被らずのんびり過ごして隙だらけの所、Αはすかさず獲物を狩るハンターの如くフミアの脳髄に侵入し
久々の御馳走みたいに長居していた。Αがアチキにヒト語を習得させたのは残酷な話で
ネコを人間の脳髄に近付けて寄生できるなら行動範囲も広がる筈という実験をしていたみたいだけれど、ばかだよネ~。容量が足りない事に気付いて止めたんだ、見るからに頭の大きさを見れば判るもんなのに本当にばかだヨ」
「いや……さっきから僕を馬鹿馬鹿いっているけれど、そんな事した憶えはないよ」
「……ババアが懐古に浸ってると思って聞いてくれヨ、アチキだって若かりし頃だ……
どっちも馬鹿だということは承知しているサ……ハイ、話を戻すよ。Αはこの実験には
意味が無いと判断し、フミアの脳髄に穴を残して出てゆき、当然その集落の人間、頭に鉄紙を被った人も、待ってやったぞ。と言わんばかりに全員に寄生して、思考が急変し自殺や共食いや殺し合いが起こる。フミアもひっそり首を吊って死のうと首に縄を結び台を蹴る。アチキにその意味が判らなかったが声に応えてくれない事くらいは判った。
アチキは元々ネコであるから、むげちなしにもう餌をくれないんだな位に思わないで外に残った家を漁って餌を探していると、少女がアチキの横を素通りしてフミアの台を戻して足場を作っていたその少女も感染済みで名前をノゾミといっていた事をシッカリ憶えている。アチキの名前はそっから、何か良い感じの名前だなと思って採ったのサ。
その後フミアもノゾミも心中したんだけど、Αは致命的な失敗をしたのは存じの通り
ネコであるアチキに人語を憶えさせたのが運の尽き、勝手気ままに仲間や子供のネコにお遊びで教えちゃったら直ぐに広まったサ。集落は完全に汚染されたがノゾミと同様に生き残ったヤツは少くても居て、さきのハジメとヒカルコの如く愛し合い快楽に狂ったアダムとイヴという名の夫婦が、後にΒ世界のアダムとイヴになる存在なんだけどネ、
チキとゲインと名付けられた二人の子供を残して心中して集落は全滅。人間が消滅した世界に用は無いとΑはページを捲り、取り残されたアチキら猫がチキとゲインの面倒を
見るようになった……まあアチキの昔話で重要な部分はコレくらいだ」
「アダムとイヴが死んでいるのなら、その長い昔話に意味はあったのか?」
「……チキとゲインって、ーーーの恋人だけど……」
「まあまあ焦るな焦るな。ヒカルコちゃんは偉いネ、ちゃんと聴いてくれている様だ。どうせ結論からいってしまえばキミら混乱してピーチクパーチク暴れるだろと思っての枕ってヤツだよ。大丈夫、ゴールは一つしかないからネ。そうでもないか? ウウン!
アチキの昔話は終い、話はやっとΒについて戻る。ΒはΑとヒカリの子供であるのは
忘れていないと思うがヒカルコのいう通り正式名称はΒでも、ーーーと名付けられた。
ただうるさいしややこしくして話がとっ散らかるから判り易く、ここではΒと呼ぶヨ。
Βは人間と人工の魂の合いの子でΑみたいな歴史を改竄する力は無い。だが親が親、
何かしら普通じゃあ有り得ない力を持っているワケで、その力とはプログラミングさ、現実的にいえば創造と消滅という事になるネ。親であるΑは懲りずにΒの居る世界上の
人間を同じく滅亡させ次の世界へと行ってしまうんだけど、Βは付いて行けずヒカリと
ハジメとの赤ん坊Βちゃんは皮肉にも製作者であるハジメが作ったおどろおどろしい程
物凄く難しいプログラムの壁が隔てているから未だ若いΒは解決策を知らず知らされず
独りぼっちの置いてけぼりになる。プログラムの中はプログラム言語の白とソレ以外の
黒しか無い。Βはとりあえずと赤い色を作ってソレを屋根として家を拵え、プログラム
雨風を凌ぎながら矢張り独りは寂しいと空の一点に自分の身体と全く同じプログラムをワザと小さな丸に凝縮させてモノとし、これをライト様と呼んで独り事の相手にした。
成長していく内にまた寂しくなり、ライト様の要領で人型を作って、それらに意味を持たせようと格好のよろしい奇麗事を並べ立てソレに縋らないとやっていけなくなり、寂しさを紛らわす様々な用途の嗜好品を作って満たすもほんの一息、寂しさはどんどん湧いてきて紛い物の人間と飲みながら昔を振り返ってみれば……俺は誰から産まれた?
と、そりゃあそうだ。原型が無いΑ、ヒカリが母親だとしても出産したワケではない、
例えるならば既存のプログラム上に新しいプログラムが発生したという事になるから、自分で作った酒に酔いながら昔を辿ったらば親の顔なんて存在しないも同然であった。
誰にも育てられていないどころか親の顔すら見たこと無い事実に一回でも気が付けば酔いが覚めても頭から離れず付いてきて寂しさが増す一方で、最初に作った赤い屋根の家を基点に静かな町アシンメイク、城や教会や市場がある都市アンダカントを作って、それを人工の人間を作る理由にした。いっぱい人間を作って作ってある事に気が付く、
Βはヒトの姿形を知らないから幾ら作っても似たような人型しか作れなかったんだネ。
寂しさというものは何であれ感情あるもの総てを狂わすほど甚大な創作力となる様で
Βは昔のプログラム、それもスーパーハジメが独自に開発した混沌としたプログラムを
必死に掻き分けて辿ると、製作者ハジメとヒカルコのデータ、永遠の少女Αという今や
懐かしいヒカルコの姿形が見つけた。これはΒ至上最高の資料であり個性であり魂で、
実験として人工人間アヌという適当な名を付けて、当然Αの歴史改竄能力を消し少女の
姿形と魂だけ映すと、ここで改めてハジメの変態さが浮き彫りになる。永遠の少女Αは
男性器が付いていたんだヨ。おっかし。アヌは股から一物がニョキニョキッと生えたが女性器は消えないで可笑しな人型になり、Βが本物の人型に気付くまで胸を張って人と
決め付けてたんだから可笑しいヨ~。Βはアヌを親として、人間のデータもとれたから
真似た少女二人を恋人にした、ここでチキとゲインが登場。そして城が在るから王様と王妃が必要だとアダムとイヴを作った……判って来たかい?……アダムとイヴも、その子供であるチキもゲインもアチキもΑ世界に居た筈だよネ、どうしてΒ世界にΑ世界の
同じ名前で同じ姿のものが居るのか、キミは知っている筈だ。いっておくが旧約聖書は
Βの素敵な落書きだ。Βはプログラミングが出来るから落書きを事実に成せるのサ」
「えっ……さっきアダムとイヴは死に、チキとゲインは猫が面倒をみる様になったっていっていたじゃないか。たとえ僕が馬鹿なΑでも、それはちゃんと憶えているよ」
「私は、Βとチキとゲインを知っている……けど! 私はΑじゃないわよ!」
「ウン、ややこしいんだけれど聴いておくれよ。城に居る方のアダムとイヴはΑ世界の狂った、チキとゲインを産んで狂って心中した二人なんだけどネ、二人が心中しないで生きている世界も当然あるワケ。二人がチキとゲインを育て、ネコの面倒を見て……等という世界も確かに在るのも当然なワケ。でも現実は残酷でネ、二人はチキとゲインを産んでから死のう殺そうとせず、Αにヤられて狂った状態で二人は子供を抱きながら、
アチキら人語を喋れるネコを引っ提げてΑ世界を旅したんだ。当初の目的はとは、とあるネコがどの動物の肉が美味いかといい出し、アダムとイヴは狂っているし、ナイフでも持たしたら恐いモン無しじゃないかという猫界の企みが有っての旅であったんだよネ。
こんな存分さはネコらしいだろう。あん時は楽しかったヨ~、アチキが一番美味いと
未だ思う肉は子羊だネ~懐かしいナ~。まあ旅の思い出はこれくらいにして、ある日、
Α世界の隅っこにドアを見つけたんだ、作ったのはΑなんだけど、感染済みの二人には
Αは獲り付けず開けられず、ネコも開けられなかったが……人間であるアダムとイヴは
逞しく恐いもの無しに開けてサ、ビックリしたヨ、ドアの向こうは闇の中に光る数字やプログラム言語で埋め尽くされている、さっきいったΒ世界へと続くドアだったんだ。
そん時アチキら喋れるだけでヒト語は読めなかったから良かった。腐っても人であるアダムとイヴは文字列を見た瞬間、Βの命令を直ぐ理解してドアの向こうに走り出し、
文字で出来た城の中に閉じ籠った。アチキらは狂っているからとか、もう用済みだとか肉欲しさにΑ世界に戻るヤツも居たが、アチキはけっこう情が濃い性格で、二人の事は
勝手にしろと思ったがネ、その閉じ籠ったドアの前に捨てられたチキとゲインが、妙に気になっちまってサ……二人は歩けるくらい成長していたから、ゆっくり歩を合わせて
歩いて二人の食べ物を確保しようと文字の中を歩いて、文字の塊を食べて毒味をするとこれは葉っぱの味。これは肉の味。等とアチキは段々と世界の事情が理解できてきて、都市らしい所に着くと人型の文字群が沢山いて一寸かじってみると平手で背中をパンと叩くもんだからどの世界でも人間は人間なんだなと、今思えばアチキは人懐っこく知的好奇心旺盛だったナ……なんてナてへへ。二人は歩き疲れてヘトヘトになっていたからこんなにヒトがわんさかうるさい所じゃ危険かと思って、もう少し人里離れた場所まで頑張れ頑張れと応援してやりながら着くのは、件のオンナオトコのアヌのバー辺りサ。
二人を段ボールだと思われる所に入れてやり、アチキは都市で毒味をしながら食糧を漁って咥え、何度か持っていくと何故かひとり文字人間が増えていやがった、そいつは
Βだったって所でやっと話は繋がるんだ。アチキはヒトより敏感な五感で知らず知らず
Β世界のプログラム言語を理解していて、アダムとイヴの様にアチキも命令を理解して
指定された場所に無意識に三人分の段ボールまで用意していた。つまりはΒの思う壺に
ズッポリはめられていたというワケ、こわかったネ~。だから失楽園したアダムとイヴ王様と王妃の子供がチキとゲインでありΒ世界の魂の所在ある者はΑ世界出身の人格、
Βの思惑通り総てがアダムとイヴから産まれた事にアチキらネコを除き成っちゃった。
つまりΒはチキとゲインを絶対的な将来の恋人として変身して段ボールの中に潜み、
寂しさからの解放を約束する様アチキに命令言語を段ボール自体に書き込んでいた……
という事で逆に、その命令段ボールが見つからなければチキとゲインは死んでいたと。
幼く自我も芽生えていない当時、何も知らずただ歩かされただけのチキとゲインは、まあ捨て子だと思い込むわな、Βもそれに同調して三人でぴーぴー泣き喚いて、記憶を
消したアヌに拾われる。いってしまえばΒ世界はソレまではネ、ソレまではだけれど、
Βの思い通りになる世界だったヨ。そりゃね~、Α世界出身のアチキたちも、アダムも
イヴも、いけしゃあしゃあと黙って命令に従うだけじゃあないとネ……。何でここまでヒカルコにどうでも良い事ばかり教えたかというとね、そのアダムとイヴの名付け親はヒカルコで、アダムとイヴにしたらヒカルコは祖母でハジメは祖父にあたるんだよネ。ずっと憧れていた名前を孫に付けたんだヨ! 良かったね~ぱちぱちぱち~」
「……並行世界だし未来の話だし、正直、実感も何もないわよ……」
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