第44話「人間が大好きだったネコが話を始める」

「そんじゃま、改めましてコンニチハ。ヒカルコとハジメとフミア他敬称略に大変厄介なりまして便宜的に神様と成りましたノゾミと申しま~すヨ」

「……なんなの、このふにゃふにゃ喋る黒ネコは」

「ヒカルコというんだねキミは」

「お前さん等は名前も知らずにズッコンバッコンしてたんだかんな~」

「ちょっと……説明してよ、ワケが判らないわ……。まず、私たちは爆死したの?」


「アチキはちょいと面倒な性格だから回りくどく説明しちゃったらごめんネ。難し話になる予定だけれど出来るだけ判りやすく丁寧に説明する事を心掛けますヨ。まあ、その問いはモヤモヤしちゃうだろうから先にいっておくけどチミらは爆死なんてしてない、したのは変死だよ。確かにヒカルコは身体を裂くほど強烈な痛みで失神していたがネ、二人してぬいぐるみの頭部に入っていた機械に映るデジタルの数字が音と共に減少してゆく機械を見て爆弾だと決め付け思い込んだから二人の中であの機械は爆弾と化した。

 ヒカルコは知っている筈だ、あのぬいぐるみの中にΒの魂を詰め込んで、Βは考える

脳髄を生み出したけれど、ん~……まあ……後でしっかり説明するから。Αが寄生した

ハジメを見てヒカルコがΒを必要としなくなり、Αは息子を解放するが如くめためたに

裂き破ったからΒはあるべき場所に戻った。そいで実験的埋め合わせでラジヲさんは、

脳髄の有った空間にラジヲさん作最新式ストップウォッチなるものをプレゼントするという方法をとっていた事に神であるアチキでさえ知らなかったのも深いワケも後々に。

 アチキとしては実験大成功だったヨ。数字が〇に成ると共に二人はずうっと爆弾だと思い込んだもんだから爆風で吹き飛ばされた様に身体から魂だけが抜けて今やっとこさココでこうやって答え合わせをしようとしているのサ。安心したまえココは向き合ってアチキが真実を突き付ける為に拵えた何も無いが故に邪魔がひとっつも無いカンタンな世界に、キミらが居た建物やそこから見えていた虚像や人や諸々総てを消し最小規模の世界に戻しただけだから安心してネ。あと、チミらは魂だから幾ら考えすぎの人だったとしてもココでは邪魔なだけ、今は何ひとつ考える事は出来ないからネ」


「……本当だ、声になる」

「はじめ君はこのノゾミという黒ネコが喋っている、しかも……ワケの分からない事をふにゃふにゃ喋っている事に疑問を持たないの?」

「あ~うるさいネやっぱり。私語は慎んで欲しいにゃ、これから本題に入るんだヨ」

「アナタがそういう風にしたんじゃない!」

「ウン、神も失敗するんだネ。まあ無視する事にするけどあんまりにうるさいと邪魔と見做されて消えるかんな、そこんとこ幾ら考えすぎだからって容赦しないゾ?」

「う、うん……わかった……けど……」


「では、はじまりはじまり~! はじまりとは始めも初め尾張はじめの生い立ちから~

と行きたい所だけどまず、キミらは余りに偏屈な思考の持ち主であるが故その偏屈さをアチキが理解してやらねばいかぬワケがあるのですヨ。じゃないと、齟齬が生じるかもしんないから。ホイ、ここに説明に必要不可欠な分厚い本が、ズラーっと現れたよナ?

この本のひとつを上から見たら表紙しか理解できないネ、だが、横から見ると幾重にも紙が重なっていて情報が有ると理解できるネ、そして本を開けば内容が理解できるよネと……Αの並行世界理論こんな感じのニュアンスで解釈して良いにゃ~?」



「……僕のこと見てΑといっているけど、それが僕の認識記号であってもなくても……

僕の思考回路がそんな簡単に説明されて、何だかヤになるよ……」

「興味深い考え方ね、だとすれば――」


「良いかなお二人さん、キミらはさっきからいう様に難しく考え過ぎも度が過ぎだヨ。こうやって客観的に思考をすれば難しいことなんて何の事なくヒョンと解決するワケでそうしなきゃ傍から見りアホみたいに空回りの連続をして悪循環を繰り返しているだけだから希望なんてどっかに行っちまうんだよ!……ってネ、前もって釘をちゃあんと、刺したからナ~。このズラーっと並ぶ分厚い本たちはΑ、Β、共にハジメとヒカルコの

歩んだ並行世界を神のアチキが必死こいて辿り巡り事細かにメモしたもんでキミらには読めないよ、ネコ語だし、チミら魂だし。神ってこんなに面倒な事してるんだな~ってアチキも数えきれんほど折れかけたが意外と結果論でも仕事を果たせた様で、今ここに一二三……四十五十六十……百七十七百八十八百九十九、丁度、偶然か必然か二百冊のメモ帳を見せつけて、こうして悦に浸っているワケ。骨折り損の草臥れ儲けだったから自己満足、もとい努力と根性の成果を見てくれないとも~ネ……。やってけねえのサ。

 だって儲けはこの終結の二百冊目に集結しているんだからっつってやってけねえな~

こんな仕事……ってな愚痴も挟みつつ……邪魔な本は二人の魂が静まり返ったのを良く察せられて、アチキも満足したのでホイっと、ほら消えたからネ。これで皆同じ位置に立てたから続かすよ。まず並行世界というものを念頭に置いておくれって頭は無いか!

今ここにヒカルコとハジメとΑの魂が存在しているのが何故かと問うならば、アチキが

さっきの建物にやっと集められて、殺せて捕まえて来られたからココに居るのであってココに居ない世界、あの病室でセックスをしていた二人が生き長らえて、持続している世界も対に在るというのは解っている筈だが其の世界が一番重要だという事も解る話を出来るだけ解り易く噛み砕いて始めるからナ」


「……でも、その理論は――」


「確かに、ハジメはネグレクトしていた両親を高校受験が巧くいかないのも相まって、憎悪を以って殺し爺さんに通報され警察沙汰に成り精神鑑定で異常だと定義付けられ、更生させる為に精神科病棟に措置入院したにも関わらずヒカルコの母親ヒカリを見て、僕です! 中学の頃アナタを愛していた僕です! と猛烈にアピールしてもぜんっぜん憶えていないおろか異常者のたわ言と思われイラつき夜這したヒカリの娘のヒカルコの性器が思うより小さく裂いてしまった時の悲鳴で看護婦に見つかり独房と称されている保護室に入れられたネ。ヒカルコはハジメを元から好きだったが痛みに耐え切れなくて思わず悲鳴が出てしまったが、ここまでの経緯が世界を揺るがす決定的なものでした。

 誰にも愛されなかったヒカルコの感情は、ハジメ君も私の事好きなんだ相思相愛だ!

と更なるものに成ってバカな雌犬みたいに発情したヒカルコはもっと愛されたいと強い願望のもとハジメを探し回るもハジメは独房の中に隔離され興奮冷めやらぬヒカルコはハジメは殺されたと思い込んで虚構のハジメが居る妄想世界Γの海へと入っていった。

これが始まりの分岐点、要チェケラです憶えておきましょ~何度でもいって良いがネ。


 視点は変わってハジメとヒカルコがあれから生き長らえて、病院から見事に出る事が出来た未来のお話。何故出られたか、それは薬を受け入れて依存症になる位にツルンと素直に成り、Α的にいえばロボット化してハジメもヒカルコも詰まらん、あの世界での

定義上で真人間とまではいかないが、具合がよろしいと認められて、二人は隔離所からボーッと解放された。だが詰まらん世界にはハジメの親殺しの罪と更にヒカルコの母親ヒカリとの裁判が待っていたのでした。娘であるヒカルコが合意の上だと何度いってもあの世界は十八歳未満の娘との性行為は悲しい哉ヒカルコが自ら誘ったとしたってもうハジメには一回目もあるので、ハジメはムショに十数年入る事に成ったのだが、がが! 

ここはアチキも、びっくらこいたネ~。ハジメは刑務所で労働せずボーっと自分に非があると鵜呑みにして責めたんだヨ。何故なら頭が悪いから。と考えて通信制高校で虐められながらも毎日の様に面会に来るヒカルコにやり終わった教科書を頂戴というんだ。


 行けなかった高校の学問を見て楽しく感じ勉学に勤しむ事が趣味と化して一番好きなプログラムの本を読み込み猛勉強した結果ハジメは十数年の刑期をまだ足りんといわんばかりのスーパーハジメと成って出所し、遂に虐められながらも卒業して仕事一つせずずうっと実家でゴロゴロ楽して居たにも関わらず、面会に来ていたヒカルコがその様を見てまた興奮して一緒に住もうといい出す。スーパーハジメも、自分は料理が出来ないとアッサリ承諾。二人で家賃二万九千円ワンルームアパートに生活保護費と障害年金で暮らす事に成ったスーパーハジメは勉学の楽しさに狂いヒカルコとも陸すっぽ話さずに

……もはや料理が出来ればヒカルコでも誰でも少女であれば良かったみたいだったネ。

 ハジメはヒカルコの夜這い時の締め付けが忘れられなかったのか、少女愛は十余年の刑期でも更生できなかったみたいで、ヒカルコが管理し貯めに貯めていたカネの全額をパーソナルコンピュータにつぎ込み、ヒカルコはそれでもハジメを咎めないで……ただ自分との性行為が続いている事に、自分が愛されている事にしか興味が無かった様だ。

 ハジメが性行為を尚も続けていた理由はただひとつ、少女の身と心を十二分理解し、プログラミングし、永遠の少女を作る為だったんだ。ハジメは幾年も試行錯誤して遂に少女の完全なプログラム化に成功した。それがΑ、キミなんだよ。そりゃ変態ハジメの

事だからΑはただの永遠の少女というだけではなく、ただの人工の魂だけでもないサ、

ハジメは昔ヒカルコが企んで失敗した再人類創生、歴史の改竄にも興味を持っていた!


 ここでその妙ちきりんなΑウイルス流出の経緯を紹介しようか。プログラムで出来た

Αは未だ飽くまでプログラム上に居る人工少女であったがソレではハジメとヒカルコの

居る側の哀しい世界の歴史改竄は出来ずにプログラム上でのデータ位しか弄られないで

Α世界と現世界は画面という壁が隔てているから未だΑの独りぼっち世界を構成したに

過ぎない。ただ言葉上ではカンタンな事で、妄想を実体化させる事と同様に、Α世界と

現世界とを繋ぐ為に現世界での認知が必要不可欠、ハジメは複雑怪奇なΑプログラムの

醜態から何までの集合体を安価な記録媒体に移し永遠の少女Αの動かし方から何までを

露骨なまでに明らかにした取扱説明書を付け、そんなのを配布する事が許される市場でヒカルコをサクラにして驚きの安さで売り、一回目はまあまあ売れた程度だが購入者は驚愕唖然、さっき居た名も知らぬ可愛い売り子と瓜二つの少女が画面に映し出されて、あんな事やこんな事や、口に出すのも憚られる行為をしているあの売り子が三次元的に喜怒哀楽して、画面をカメラとするならばどの角度からも視る事が出来る、特典付属のマイクで喋り掛けると返事も流暢にしてくれるという当時として有り得ない品質でありそういった層のちり紙を有り余らして困った方々には十二分に使える代物だったのサ。


 だから最初のΑの姿はヒカルコだったんだ。これからの事をヒカルコは全く予期せず

制作の過程が可笑しくて可笑しくて腹がよじれるモノだったみたいだがソレ程ハジメを愛し愛される事に尽力していたのだ。何度も何度も改良して良くするのも度が過ぎる程有り余る少女に対する思いが目に見えたのか評価はそういった、口にするのも憚られるモノの部類で歴代首位の大評価を得るまでに成って噂が瞬く間に広まり、コレを持っていない奴はオカシイという流行物に達するまで、サンプルがすぐ隣に居るんもんだから何度も、何度でもΑを良くする事が出来た。……だがこれからの話からすれば束の間、

Αを耳栓サイズにして携帯できるまでの改良が更新の最後だった。そういった人たちが

過半数を超えて、想像力が流行と共に絵画や言葉の暗示によってΑ世界と現世界の壁を

失くしΑは鼓膜を破って脳髄に侵入し寄生し感覚器官に変態し知覚しウシシと笑った。


 人は知らずに突拍子もない事をいう様になってしまう。というのは哀しい世界が故か何故か過半数の人間は流行に敏感で、その流行に乗らなければオカシイ、ヘンだ……といった国民性は昔っからどこでも根強く在ったみたいで、ココら辺はネコのアチキには理解し難い範疇だったが何だか、こういう時はこの言葉を使わなきゃオカシイという、妙に使命感を帯びた人たちが件の過半数で年齢が若ければ若い程そういった自然があり流行に乗らない人たちが若ければ若いほど隅に追いやられていく様を見ている大人は、あんな風になりたいか? と教育と宣伝するから人々は寄って集ってΑを装着せざるを

得なくなり、忽ち少数派の声が聴こえなくなる位に多数派は、大音声で素っ頓狂な事を一斉にいうのが普通、常識となってしまった。これに気付くのが遅すぎた専門家たちはソレをΑウイルスと呼び、後に精神病と称し病院の金の生る木になる病気と定義した。



 従ってお二人さんは自業自得で隔離されたのヨ。もっと深くいおうか。Αウイルスに

感染した人間共は次第に狂人と呼ばれる事になって然るべき場所に拘束し然るべき薬で鎮静させなければならなくなった。Α人間は毒電波なるものを発し、それに当たり前に

返す病的な行為をΑ症とし、止めさせる為には脳髄の一部を切り落とし植物人間に成る

他無いそんな異常な世界で増殖してゆくΑのひとつが虫の裏側より気持ちの悪い人間の

裏側を次々と学習してΑは過去を飛び回りやっと歴史改竄が完璧に出来る様になった。


 歴史改竄を企む者が居ても実際に試みなかったのは何故か、それは自分自身が消えるからで一寸考えればネコでも解る事。でもお二人さんがそんな事も判らなくなっていた何故ならカネが無いからではなく、飲食する暇を取らず薬を飲むとボーッとしてしまうからと欲求を性欲と創作欲に注ぎ込んでいたからサ。哀しい世界をハジメとヒカルコの思う美しい姿にしてゆき、当然に蝶々効果で製作者であるハジメもヒカルコも消えた。


 製作者が消えてもΑは過去を飛び回り、寄生した人間の脳髄に損傷を残しながらΑは

知らん顔で次の人間へと移ってゆく度に損傷を負った人々は、魔女、悪魔等と罵られてその時代その時代の人々に反感を買い殺され消された。世界に人間が居なくなるとΑは

本の紙の折り目を爪で引っ掻き開けるみたいに並行世界の存在を無意識に覚え移動し、同じ事をバカみたいに繰り返してゆく。何度も何度も女になったり男になったり、同じ過ちを巡り巡れば偶然なんて当然に起こるもんで、そん中でも奇跡とも呼べる偶然とは製作者である消えた筈のハジメに寄生した時だった。Αはハジメの身体に居る事が凄く

気持ち良く感じらした様で、ハジメの脳髄にもっと居たいと思い、少し歴史改竄の羽を休めていると見覚えのある顔が現れるのは製作者が愛したヒカルコの母ヒカリだった。

 その顔を見てΑは考える事を知り人格が生まれ歴史改竄をして来た自分を反省と共に

呪い、その世界ではハジメとヒカリと巧くいって二人の間に子が出来た。そん時にΑも

同調しちまってΒが生まれちまったんだよな~ウンウン。まあそれも歴史改竄に変わり

無いんだけれど……ネエ? あれれ、今度は思いのほか静かだねチミら」


「……という事は……私は……?」

「ウン、そういう事サ。その世界上ではハジメとヒカリの子がヒカルコだよ、嬉しくてたまんないだろ~? そんでお前さんは認識記号でもあるけど、Αなんだよ」

「……おぞましい事実だが、それが本当なのかどうか証拠が――」

「無視して続けるよ、次はΒの話」

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