僕 / Α 第三章 コーヒーブレイク

第27話「世界を越えた恋愛考察」

人生とは

何事も巧く行っても全部が全部うまくいく道理は無い

何事も巧く行って全部が全部うまくいく時も在るのだ

それでダメなら崖へも海へも

誰も縛られる謂われは無い

だから恐いよ、どこまでも

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 僕がヘルから初報酬を貰って一週間位が経った。報酬の額は新築の一軒家が建つほどだったらしく、チキもゲインも、それから僕も驚きで腰を抜かしたのも今や懐かしい。


 とりあえずカネの事は置いておいて葉巻はタバコよりも鎮静作用が在るらしいので、僕も吸い方を教えて貰い、先とお尻をナイフで切り暖炉の火で点け三人で異国の香りを味わい吸っては吐いて落ち着きながら、ありあまる行方の知らないカネを話し合った。



 結論は意外な所に終着した。このボロ家には思い出が随分と在るので、それは子供が出来てから。アヌに借金の返済をしようと三人でバーに持って行くと、最初は嬉しそうであったが、次第に眉間にしわが寄ってきて「大人の都合が有るから……」と、何故か半分しか貰ってくれなく、どうやらヘルとの関係を保ちたいが為に、借金がある事実を消したくない様であった。報酬をくれた本人に返すのは失礼だと考え、僕たちの結論は「お金を少し贅沢に使いながらいつも通り暮らす」という妥協点に至ったのであった。



 そして僕はヘルに何とも言い難い力を認められ、家畜共に「本当に肉に成りたいか、自棄になって取り返しがつかなくなったか」という問いで一体ずつ名誉を確認してゆくアルバイトを、より良い肉を作る為にと只、家畜の悩みや迷いを聴いて僕なりに説いてみるという所謂カウンセリング的な仕事をしているのだが、銘々の考えを聴いている内しばしば白黒フラッシュバック現象が起きたり、口が妙に巧くなったり、いつか記憶の既視感が湧いて出てきたりして解ったのだった。僕は確かにこの世界の人間ではなく、ヘルと同じ世界に生きていたワケでもなく、僕は今まで、並行世界を旅とは名ばかりの浮浪をして、恋愛をして子供を作り、その世界その世界に僕が居た証拠を残して来た。


 その旅の仕方、並行世界の移動の仕方はまだ把握できていないが恐らくそんなことをすれば頭がおかしくなり、僕の産まれた世界も記憶も、何もかもを一つ前か其の前かに行った世界に置き忘れたか自ら投げ捨ててしまったかの不埒者である僕の確かな事は、ロリータコンプレックスであり、狂人であり、変態でありで……今居るこの世界以外の世界から忌み嫌われて追放されてきたという事と、真っ白と真っ黒のグラデーション。


 そんな僕は忘れっぽい事も確かなので、せめてはココの事を明確に書き記しておく。


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一、アシンメイクには僕、チキ、ゲイン、アヌ、ヘルしか外に出られるものは居ない何

  故なら他のものはラジオによって妄想代理という迷路の中に居るからだ.妄想代理か

  ら起きられたとしても人格が入れ替わる可能性が有るという設計ミスが在り、その

  上、設計者は国外逃亡を計り行方不明という記事が新聞に載っていたので罰せられ

  ず、迷路の攻略法すら未だ解らず仕舞いである為、アシンメイクはもはや眠りの町

  となった.

二、妄想代理とは、元々は脳髄に在る電波とラジオの周波数を合し通し共鳴させた電波

  を真空管で処理して、その周波数と同じ他世界に行き生物の妄想の中の生物に成り

  すまし、何を考えているか、どう生きているか、どういった世界なのか等を妄想代

  理を終えてラジオのスイッチを消すと同時に設計者の研究所にある円盤型の記録媒

  体に収録され、アンダカントに元いた国王に内密に提出して他世界の文化を視野に

  入れて、取り入れて良いか悪いかを判断する為の仕事だという事が設計者の逃亡と

  同時に前国王が自白した。設計者のラボを前国王の使いによって見つけると、収録

  する機械は滅茶苦茶に壊されており前国王も機械の構造は理解出来ていなかった様

  で、その為、妄想代理の中から抜け出せてないようになったのではないかと懸念、

  逃亡した設計者は世界をぶち壊そうとしている極悪人(僕は未来人なのではないか

  と思う)ではないかと国民が憤慨し前国王は皮肉にも未だ一回も使われていない城

  の中に在る万が一に備えた拷問部屋に入れられ、現在も拷問尋問等を実施中である

  との事.

三、個人的な見解.この世界の人間の寿命は殺されない限り永遠であり、赤子は僕の記憶

  に在る限り普通の姿であるが、満期(だいたい百歳だと思われる)になると外見は

  女は肌も髪質も優れたいわゆる少女の姿、男は脂や筋肉の質が良い成人の姿(アヌ

  は例外、他にも居るのだろうか?)で維持されるが、脳髄の成長は無限のようでそ

  れは不変である(ただし学ばなければ何も成長しない)(そりゃそうか)僕はこの

  世界で初めての記憶喪失者であるとも書いておく(裏面に続く).


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四、歳は三百六十五回ねむれば一歳ふえるという大雑把な感覚で在るのはこの世界に時

  間という概念が無いから.ぐっすり眠れば一日経過という感じで良いらしいだからア

  ルバイトはいつ行っても良いし、いつ起きてもいつ寝ても良い.

五、ムッシューモールス(紙面のみこう称する)とゲインとチキのかなり長い間に子が

  産まれないのは、ゲイン曰くタバコ、酒、薬の所為で(特にチキ)生理不順になっ

  ているからであり、初潮は遠い昔に体験したとの事。親であるアヌはその辺も教育

  したといっていたが、ムッシューモールスはアヌに強く反抗していた時期があった

  (あまり深く訊けなかったので曖昧)らしく、チキとゲインを巻き込む形なったの

  だろう。女性の身体とは難しいものだ、男は酒タバコ薬等をやっても余り精子に影

  響はない(あるかもしれない、曖昧)のに、女には生理というものがあり、それが

  出来ていないと妊娠できないと勉強になった(顰蹙も買った).

六、この町だけなのか、この世界だからなのか、アシンメイクもアンダカントも洋風か

  と思えば和風な所もあったり、和洋折衷チグハグであって、良い意味で前衛的な、

  悪い意味で馴染みにくい世界である。アシンメイクはどちらかといえば道は綺麗な

  石畳である点で洋風より?アンダカントは嗜好品が流行っているようで危なそうな

  薬局、フリーマーケットも在るみたいだが聞いた話であり、未確認。もちろん酒屋

  タバコ屋そして喫茶店のような安全な嗜好品屋もあり、パンだとか野菜や肉(人肉

  以外も)のような食品もあり、アシンメイクが眠りの町であるからして、アシンメ

  イクから一番近い町、否、繁華街はアンダカントであるので、僕たちには欠かせな

  いところだ.ヒトの姿は洋風であると書き加えておく.黄色人種やヒスパニック、混

  血等は未だ確認できず.(僕たちは全員白人、黒人多し).

七、アンダカントは名の通り(ヤバいカルトを連想した)宗教が盛んである。立派な城

  や教会のようなてステンドグラスが綺麗な大きい建物が沢山あった..そして、この

  世界は一神教であって、その畏敬されている神の名は....__________

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「ライト様! ああっ! ライト様、ライト様ぁ!」

「ビックリした。いきなりどうしたのよ?……これ、何て書いてあるの?」

「ライト様! うう、嗚呼、ライト様ぁ!」

「ーーーってそんなに信仰あつかったかなー」


 この世界で崇められている神の名は、この窓から見える、穏やかな光を与えてくれる月の形をした「聖母ライト様」であるとは畏れ多くエンピツなんかでは書けなかった。聖母ライト様がアダムとイヴを産んだとされているのだ。僕は何故か「ライト」という名が美しく清らかに感じ、その名を聞いた瞬間その場でライト様にひれ伏して参った。

 メモに集中していても我を忘れ、その名を呼んで参りたくなる程なのだから参った。メモは……いや、もう今はっきりしている要点は書き記せただろうから、もう十分だ。


「ライトさま……嗚呼!……聖母ライトさま……」

「はい、出来たわよ。サンドウィッチとコーヒー」

「嗚呼……ライト様、命を頂きます……」

 人肉も美味しいものだ。最初は怖くて食べ難かったが味は塩漬けにされているからか塩梅良く、美味いのだ。考えてみれば牛も豚も鶏も皆、人とは違い何の事情を喋らせず幸せかどうかも解らずに、無言で弱肉強食と称し屠殺され肉に成るのだ、人肉にはその残酷さが無いと考え頂いている。前世の記憶を基にこれを作り、未だ根強く売れているヘルのいう通りで、本当に狂人は世界次第で偉人に成れるというワケであるのだった。



 一方、僕もスッカリとこの世界に染まったものだ……とアンダカントで大絶賛の一番高いコーヒーを飲みながら、大人っぽく頬杖を付いてみてフウっと息を吐き思い返す。僕は彼女たちに救われたのだ。この世界も僕の存在を認めてくれた様で素直に嬉しい、仕事だってちゃんと出来ているとヘルのお墨付きの僕は……チキとゲインに恩を返せて居るだろうか……という一抹の不安は感じるが、やれる事はやっている筈……だろう、お金も算段できている。が……僕が思うに多分『愛』は最近、二人ではなくこの世界の調査をしたくて家を出て色々と探索して、そうでなくてもアルバイトをしているから、アヌやヘルと居る時間の方が自然と多くなっていた事は確かであり、二人も自ずと僕の記憶復活やカネの事を思ってか背中を押すだけになり、恋愛感情が薄らいでいるのも、確かめてみなければ判らないが、愛情の眼差しで見つめ合う事すら、あの時のゲインがもよおした時以来セックスすらキスもしていない事は明らか……。そこには、僕の事を未だ気持ち悪いと感じているのだろう……という自信の無さもある……が、僕も男だ。


「チキ、ゲイン。真面目な話だ、僕の事を今どう思っている?」

「うーん……こればっかりは仕方ない事なんだからね……」

「そうそう、仕方ない事! 良いじゃん、割り切ろーっ!」


 チキは元々あまり嫌悪感を抱いているとは思わなかったがゲインはあの時を見て居てそもそもあのラジオが悪かったワケだけれど電源は未だ点けっぱなしにしていて……。


 あの時ゲインと推理した事、あの時アヌがいっていた事はもう忘れても良いだろう。既にこの世界に僕が存在しているという事実が有り、それは変えられないワケで、ただその上に恋人が二人いる事実が乗っかっているからして僕の本当の仕事は報酬を貰う事ではなく、恋人と心底から恋愛するという事であるのだが、僕は機械のような恋愛しか記憶にない。偶然に出会い、運命だとか感じ、少女の家に行ってみれば少女の方が僕を愛してくれていて……という受け身な恋愛だったのだ。でも、そういう事になると……

「僕が……二人を愛していないから……?」

僕は愛されていた。当然に愛されていた。だから愛し方を知らなくとも、どの少女にも身を委ねれば結果的に愛せられていた。どんなに気持ち悪くても、どんなに無茶でも、どの少女も涙を流して喜んでいた。どの少女も、どの少女も……。記憶はまだ完全ではないが、今の状況の反対であったという感覚は本当だろう。現に僕は……二人を見ても性的衝動すら、興奮すらしなく、居るのが当たり前という感覚に陥ってしまっている。


「そうね。最近、愛を感じていないかもしれないわ」

「えっ! いや、愛しているよ、当たり前じゃないか、僕は二人の恋人であり――」

「だってーーー、誘ってもこないしさーっ」

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