第13話「行き過ぎた精神的孤独」

「褒められるのが苦手なのは相変わらずね……アヌさんも話が有ったみたいなのに」

「……まあ、話す機会は酔いが醒めてからの方が良いみたいだな。チキは……チキ!」


 まだ来ないかと後ろを振り返ると石畳の上で寝ていた。俺はやっぱりゲインは勿論、チキが好きなんだ。二人が居るから俺が成り立っている。二人が花なら俺は土で在る。二人に栄養を送り、二人に花を咲かせたいのだ。こんなことを想ってしまうのも多分、あの娘の所為だろう……妄想代理は危険だな。まだ一人しか担当していないってのに、こんなにも思考が惑わされて……なんだか愛というものがイツもと違って感じるのだ。極微で甚大な力を秘めていて、かつ果敢無はかなく思えて、触ればぱっとソコに何も無かった如く消える様な、良く見れば虹模様が浮かんで見蕩れるほど美しく離れればタダの水と洗剤が混ざっただけと呆気ない……本当は割りたくないけれど人間の本能か何かでつい割りたくなるシャボン玉の様だ……等という柄じゃない考えが頭を痛めるのであった。


 今日の俺はどこまでも女々しい、子供の頃、死後の世界について考えて眠れなかったあの頃とソックリだ。……もう俺は子供じゃない。恋人が居て、仕事をして報酬を貰い親に恩を返して……これからは自分の金で飯が食えるまで、生活するまで、立派な家を持つまで俺は、俺たちは更に更に成長してゆくのだ。ソレ以上の幸せは有るか、無い!


「ーーーっ!」

 ……という恥ずかしい思考をゲインに気付かれない様、紫煙に浮かばせながらチキを片手で負んぶして帰路に着くとゲインの声が全く聴こえていないことに気付いた……。


「……ア……ごめん、何か変な考え事をしていたようだ……」

「やっぱり独りで考え込んでいたのね。解ってはいるけれど私たちにも共有させてよ。さっきのことで悩んでいるんでしょう、大丈夫よ、アイツは単細胞で脳筋なんだから」

「……ア……ああ、そうだよな。ハハ、酔っ払ったなあ……」


 野郎の事など完全に忘れていた。いや、いつもの俺なら完全に野郎の顔を浮かばせてアアだコウだいっているだろうがさっきは……活き活きとしたあの娘が頭の中に居た。


「アナタがあの量で酔うワケないでしょ、疲れているんじゃない? お薬飲んだら?」

「お薬というな……『ヤク』といってくれ。良いモノのように聴こえるだろうが……」

「良いモノじゃない。私たちはアナタが仕事している間、何錠のんだか憶えてないわ」

「だから良いモノじゃないといっているんだ。依存するなら俺にし――」

「お互い様ね、アナタも上の空だったじゃない。女をなめないで、分かるんだから」



「…………」

 ゲインの眉間に皺を寄せる顔が、何故あの娘そっくりなんだ……。笑っている顔が、何故チキそっくりなんだ……どうして……俺は妄想代理をしていたのではなくて、ただ夢を見ていた?……本当はチキとゲインが合わさったニンゲンが俺は……おれは……。


「うっ……え……オエェ……」


 俺の中の理性がまだ残っていて良かった、飲み込まれそうになった、あの娘に……。これ以上に考えてはいけない、もうあの娘と会う事は無いのだ。もう、考えるな……。


「本当に酔っていたの!? 大丈夫?」

「だいじょうぶ、だ……」

 ・・・ーーー・・・


「んんーっ……。あれ、ーーー、どしたの?」

 しまった、チキを・・・ーーー・・・


「やめろ……」

 電波が繋がって・・・ーーー・・・


「止めてくれえええええええええっ!」



 ガガッ……ビーっビーっビーっ……。『うえぇんっ! 独りは寂しいよ、助けて!』

「…………」

 俺はチキとゲインを置いて赤い屋根のドアを開けるとそこは眩しい光の世界だった。俺の魂をフワフワな綿に詰めて身体が出来ると、ぎゅっと抱きしめてくれる人が居た。



「うん……独りは寂しいよな……。母さん、父さん……どうして俺を捨てたんだ……」



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 女の泣き声が嫌いなのは、俺の心の叫びに良く似ているからなんだよ……。

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