第6話「やっと長い旅が始まる」
……なんで?……どうしてこういう時だけ私のいう事を信じてくれるの? 何故か、今のこの子の事がちょっとだけ好きになりそうになった。なりすましだとしても、案外ロマンチックな一面もあるんだなと。さながら私は世界救世主のヒロイン役みたいで、私と遊んでくれそうで、もう少し位このまま付き合っても良いかなと思ってしまった。
「ふふっ……ではこの神をどうやって鎮めるか。その方法を探しに行きましょうか!」
「何処へだ?」
「行く当ての無い旅ってのも乙じゃない? この世界は広いわ、何の障害も無いんだし私も全部が全部理解している訳じゃないけど絶対に私たち二人しか居ない行楽日和よ」
「行く当てが無いなら意味が無いのと一緒じゃないか。絶対に二人という証拠も――」
「ここでジッとしているつもり? もう一人のアナタはいっていたわ言動行動する事に意味の無い事など無いとね。この世界に危険なんてひとつも無いんだし、そろそろこの風景も飽きてくる頃合いでしょう。明るいのは怒りだとしても、暗いよりは良い筈よ」
行く当ては……一応ある。この子の実家だ。実家の有無で、この子の思う所が知れるといっても過言ではないだろう。この子が死ぬ前に知っておきたい、第二歩を踏み出す絶好のチャンスなのだ。この子が実家を「邪魔」としているのならば消滅している筈で逆に実家がどんな形であれ残っているとしたら、まだこの子には罪悪という感情ゆえに人間性……正気が残されているという事になるのだ。ここから実家は遠いかもしれないけれど、話し相手がいるなら話は別。今のこの子なら実家が在ったとしても何の躊躇もせず解体してくれるだろうし、中に居るであろうこの子の親を見せてどういった反応を示すかでまた話は二転三転してくるのだから、私はもう面白くなってきて仕様が無い。
「ほら、早く行きましょうよ! 着いた所が目的地ってもんよ!」
「イヤだ」
「え……私がこんなに今まで出した事のない元気な声でお願いしたってのに?」
「自意識過剰が。もう世界が滅ぶのは秒読みだ。そんな時に『行く当ても無い旅』……見てみろ、ここからずーっと同じ建物しか見えないんだぞ。やってられるかよ」
「……じゃあアナタは何をしたいのよ……」
「このベンチに横になったまま、想い出の感傷に浸りながら、ここで最期を迎える」
せっかくこの子の発言で火が着いた計画が台無しになる様な事をいいやがる。イヤ、この世界はまだ生き続けるけれど、そうホイホイと思ってること全部連鎖反応みたいに進むワケないか……。でも、この子が「今の設定の」この子で居ていられるのは時間の問題、それこそ秒読みで更に、今の私は正気でないほど知的探究心で頭が一杯なのだ。
「……あー、もう解った! ここから飛び降りてやる! 期待して損した。お前なんか自分に酔って滅亡の時が来るのを待っていれば良い! 全部、ぜーんぶ私の所為よ!」
落下防止の金網を登って立ち上がり不安定な足場を見せつけると彼は立ち上がった。これは実験だ。あの子がなりすましで在るのならココから落ちても平気な事をちゃんと解っている筈だから助けに来ないだろう……だがこの子は、よせ! と立ち上がった。
「ほらほら助けにおいで!」
バンジージャンプのように、勢いを付けて手足は真っ直ぐに、地面に向かって飛ぶ。落下感……に勝る爽快感! クルリと回って背後を見ると、彼も数秒後に落ちて来た。実は私はどれだけ離れようとこの子が私の方に来てくれなければどこまでも離れ離れに出来るが、でもこの子は自分から飛び降りた、自分の巣になろうとしていた場所から。時間差でバンバンと二人で道路に小さな隕石が落ちて割れたみたいな穴を作りながら、骨という骨を砕き腸も脳髄も総てぐちゃぐちゃな身体が再生し下水道から這い上がり、顔を見合わせて腹から笑い合う。こうして私たちは生まれ変わって、賽は投げられた!
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