雨の日に

コトリノトリ

雨の日に

 窓の向こうで雨が降っている。

 雨って、なんか気分を鬱々させる。

 音が、匂いが、その温度が、私に君を思い出させる。

 やんで、と叫んでもやまない、やんでくれない。


「これだから、梅雨はいやなんだ」


 そうぼやいて、私は外に出た。

 傘をさして、街を歩き出す。

 そんないつもの風景も、雨が降ると感傷的に映る。

 塀の上のカエル、水が滴る電線、湿った空気。

 その全てが君を思い出させる。

 君の泣き顔を。

 全てを忘れることなんて、出来なかった。

 そんなこと、そんな悲しいこと、出来るわけがなかった。

 こんな天気だ。

 いっそ、思い出してしまった方がいいのかもしれない。

 あれは五年前。

 私が高校生だった頃の話。

 どこにでもある初恋の話だ。

 その年、私は君と初めて出会った。

 同じクラス、隣の席。

 ありふれた出会いをした私達は、すぐに仲良くなった。

 小学校も部活も、好きな教科も授業も先生も違った君が、私には新鮮に映った。

 どんなに話しても飽きなかった。

 そして、私はいつしかそれが恋だと気づいた。


「まみってさ、あきらくんと仲良いよね?付き合ってるの?」


 そんな何気ない友達の一言が私の心をざわつかせた。

 それから、いつも通りに君と話せなくなった。

 君の目を見ると、声を聞くと、その仕草を見ると、鼓動が速くなった。

 頬が熱くなった。

 そんな自分が恥ずかしくて、私は君からにげだすようになった。

 そんな私を君は追いかけた。

 そんな君を私はもっと好きになった。

 どうしようもなく。


「まみが、好き、だから、付き合ってください!!!」


 追いかけてきた君が放ったその一言は私を驚かせた。

 その衝撃で、思わず泣いてしまうほどに。

 嗚咽で何も返せない私を、君は優しく抱きしめてくれた。

 この時間が止まればいいのに、なんて初めて思った。

 それくらい幸せな雨の日だった。

 私達の関係が進展するのは何故かいつも雨の日だった。

 付き合った日も、初デートの日も、君がいなくなった日も。

 高校三年生になったある日、私は君に呼び出された。

 君は私を見るや否や、強く抱きしめた。

 痛いよ、と君の胸を叩いても離してくれなかった。

 やっと離してくれたと思ったら、君は何故か泣いていた。


「別れよう、俺たち」


 激しい雨音のせいにして、聞かなかったことにしたかった。

 私はただ立ち尽くしていた。

 順調のはずだった。

 何も喧嘩なんてしなかった。

 何もいけないことなんてなかったのに。

 君の後ろ姿が涙で滲んでいた。

 追いかけることはしなかった。

 その後、少しして君が高校を自主退学したことを知った。

 どうして別れたのか、どうして退学したのか。

 私は君のことを一つも知らないまま、高校を卒業した。

 あれから、雨が降ると少し期待をするようになった。

 あの時みたいに、君が私に挨拶してくれないかって。

 私が好きだって言ってくれないかって。

 そんなことありえないのに。

 あの時、私がどうしても君に言えなかった言葉があった。

 恥ずかしくて、恥ずかしくて、結局一度も私は言うことが出来なかった。

 今なら、今の私なら、言えるから、ちゃんと伝えるから、だから。


「あきら、大好き」

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雨の日に コトリノトリ @gunjyo

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