043話 行方 / 後編



 すっかり日が傾いたスペルクシティ。その街に建つ魔導学園内では、そこかしこで武器や魔法の振るわれる音がする。


「そおおおいっ!」


 一声と共に槍は振り抜かれ、その軌道と同じ形の刃が出現しては打ち込み台をつんざく。それを見守ってから構えと息を解いたその人に向け、一つの拍手が送られた。


「技の勢いも上々! 完成してきたわね、リュウ!」

「本当? それなら良かったよー」

「だけど峠は越えていないわ。動きながらでも安定した勢いで技が出せなきゃ完璧とは言えないわね」

「確かに。僕ももちろんだけど、相手も動くんだもんねー」


 辺りを見回し始めたリュウの目には真っ先にマルーが飛び込んだ。


「こぉおおおおおおおいフェニックスぅうううううううううううううううっ!」


 近くにいたマルーは未だ必殺技の言い回しを気にしている様子。一向にままならない進捗にレティが息をついた。


「もうマルーったら、そんなにフェニックスが大事?」

「大事だよ! 私のパートナーだもん!」

「パートナー、って何?」

「え、この言葉の意味知らないの? んーと…………なんて説明しようかな……」

「パートナーは、相棒みたいな意味じゃなーい?」

「そうだよそれ! リュウさすが!」

「じゃあつまり……」


 マルーとリュウの会話を理解したらしいレティがもの問いたげに変わる。


「どうしたのーレティ?」


 そうリュウが声をかけても思考にふけるままなレティ。静止するしかないマルーだったが、そんな彼女に向けてレティは指差した。


「あなたの相棒は、五大戦士の一人が従えていた守護生物。ってことで間違いないわよね?」

「守護生物って、何ー?」

「フェニックスの事を言っていると思うよ? リンゴの杖にいたキャニスも、自分の事を守護生物って言ってたし――」

「リンゴまで……あなた達って、まさか――!」

「ねえーーーっ! 三人共知らなーーーい!?」


 レティが口を突こうとした刹那に響いた声。それに振り返ると、引き戸を押さえながら全身で息をするリンゴがいた。


「すごい汗だよ。どうしたのリンゴ?」


 マルーに言われた滴る汗を腕で拭いかけ、リンゴは止まる。


「いないのよ」

「何が?」

「いないのよっ! ボールとラックが!」




 時は放課後の始まり頃へ遡る。

 彼女らの通うクラスがある階でボールとラックを見失ったリンゴは、各階隅々まで彼らを探し回った。しかし彼らは一向に見つからない。園内の人気が少なくなったとしても二人の姿はなかった。


「並んで明らかなあの身長差よ。ひと目見たら絶対分かるのに」


 昇降口でリンゴは腕を組んだ。


「あと二人が行きそうな場所は……図書館? でも図書館で特別授業なんて……」


 するわね――そう結論づけたリンゴが学園を出ていく。


「特別って言うくらいですもの。この場所以外で授業をすることだって、あり得なくはない話だわ」


 かつかつと図書館に向かってゆくリンゴ。道程が真っ直ぐであるが故、周りを見ずとも足を運ぶことが出来てしまう。その為に彼女は知らなかった。


「そういう意味でも手が離せねえのか」

「俺達の為にそこまで――!」


 笑みをこぼすラックとそれを横目に微笑を浮かべるボール。この二人とリンゴはすれ違っていたことに。


「ん? あいつ何してるんだ?」

「おいおい、わざわざ見つかりに行くような事するか? また色々言われるぞ?」

「……それもそうか」


 そう言ったボールらが小さくなってゆく事も露知らず、リンゴは図書館内へ入ってゆくのだった。入って早々に、あの、と彼女は受付嬢へ声をかける。


「ここで男子生徒二人組を見かけていませんか? 身長差あって、小さい方が黄色い髪で――」

「ラック君のことですね、見かけましたよ。それこそついさっき、ローゼ先生と一緒にここを出ていったばかりですよ」

「なんですって?」


 リンゴは真っ先に図書館の外へ顔を出した。しかし景色は、芝に敷かれた石畳の一本道が広がっているのみ。彼らの気配は微塵も感じられなかった……。




「その話からすると、学園の教室を借りて授業を行っていそうね」

「でもどの教室もそんな気配がなくて……だからお願い! あたしと一緒に二人を探すの手伝って!」

「もちろんだよ! 行こう!」

「練習どころじゃないねー」

「まずはこの園舎の最上階から最下階まで。四人でくまなく探すわよ」


 こうしてマルー達は、ボールとラック二人の探索に乗り出した。全員で同じ階の教室に目を凝らし、二人を見かけなければ一つ下の階へ――延々とこれを繰り返した一行だったが、一階にまで来ても彼らの行方は掴めなかった。


「残りは地下の、魔導専攻専用実技室ね」


 十字路の中心に集まった一行。レティが地下へ続く廊下を見据える中、リンゴから性根のない声が漏れた。


「行かなきゃ駄目なの、レティ?」

「当然でしょう――って、あなた地下は探していないの?」

「だって、あの暗がりよ? 背筋が凍ってしょうがなくて、なかなか進む勇気が持てなかったのよ」

「そういう意味でも私達を呼んだって訳ね」

「ええ。というか、分からない? この、嫌な予感というか、侵入させたくないって雰囲気が滲み出ている感じ?」

「分からなくはないわね。でもこの感じはいつ来てもそうよ」


 いつかは慣れるわ、とリンゴの心配を切り捨てたレティが地下へ歩き始めた。


「二人を見つける為だよ。行こう」

「ごーごー」


 マルーは意を決して、リュウは間延びした意気込みを携えてレティに続く。呆気なく取り残されてしまったリンゴはやむなく三人に続くのだった。


 道のりには明かりを取り込む窓など一切ない。まとわりつくひんやりとした空気が四人の緊張感を高めていた。その感覚は階段を降りきっても変わらない。むしろ一人の声によってそれは密着して離れないものになってしまった。


「せ、先生っ!?」


 声を上げたのは一番前にいたレティ。すぐさま彼女と並んだ三人の目に飛び込んだのは、すっかり面変わりしたローゼが膝を落としたままこちらを見る様だった。


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