041話 必殺技への手綱



「起立。礼」


 ありがとうございました、と教室中に響いてすぐに生徒が廊下へ雪崩れ込む――滞在二日目の授業が終了したのだ。


「さあ、今日こそ手掛かり掴むんだから。分かってるわよね?」


 言いながら隣の席に振り返るリンゴ。しかしその席はもぬけの殻と化していた。


「ボールぅ!? あいつどこ行っちゃったのよーっ!」


 彼女の叫びは容赦なく教室の外へ。一瞬その場で止まった生徒達だったが、それは名前を呼ばれた本人も一緒だった。


「何か俺呼ばれた気がするんだけど」

「こんなに人が行き来してるんだぜ? 簡単には探せねえって!」


 なら良いけど――そう呟いたボールが通り過ぎた道を気にかける。しかし遠くから聞こえたラックの急かす声で彼は我に返った。

 ごった返す生徒の中で声の出本を探してみると、階段のある方向でひょこひょこと挙がる手が目に映る。それに向かって人混みを掻き分ければ、挙げた手を腰に当て息をつくラックが見えてきた。


「しっかりついてきてくれよー。捕まったかと思ったぞ?」


 ほら早く行こうぜ! と、ラックは行き交う生徒を躱しながら階段を降下。ボールはそれを階段一段飛ばしで追った。


「で? 先生とはどこで会うんだ?」

「とりあえずは図書館! そこから別の場所に移動だってさ」

「別の場所か――」


 会話を交わす二人が雑踏に消えてゆく。

 そんな事など露知らず、リンゴはボールの名前を呼びながら今いる階を駆け回っていた。


「せっかく朝約束したのにまた一人で手掛かり掴まなきゃいけないなんて」


 はやっていた足は次第に落ち着き、果てに彼女はその場の壁に寄り掛かってしまう。


「ボールもマルーもリュウも、授業に夢中になる事は良い事よ? でも、ちゃんと分かっているのよね? 事件を解決させなきゃいけないって」


 一人息をつき仰いだ先は、計らずも、マルー達のクラスが先程まで授業をしていた実技室だった。




「さあ二人共! 打ち込み台に向かってまずは魔法よ!」

「うん!」

「よーし」


 柏手を打ったレティに返事をしたマルーとリュウが構える。


「本に載っていた要点は押さえてる?」

「もちろん! 私の魔法は――」


 マルーは高く人差し指を突き立てた。


「ラクライ!」


 声とともに振り下ろした指で前方から炸裂音が轟いた。音が落ちた場所を見れば、打ち込み台の上部から黒煙が一筋。


「やった! 成功したよ!」

「僕も行くねー」


 一方リュウは右手で手刀を作り、左肩元にそれを寄せている。


「えりゃあああ!」


 手刀が空を裂けば彼の先で打ち込み台が大きな音を立てて揺れた。


「すごい! 傷がいっぱい付いたね!」

「上手くいったわね、“タツマキ”の魔法!」

「うんー」

「あれ、嬉しくないの?」

「そんな事ないよー? けど、実感が沸かないなーって」

「何度も使うのよ! 実感が湧くくらい!」


 声を上げたレティは得物を打ち立てていた。


「さあ! 今度は武器を持って必殺技の練習!」

「そうだった! 技を放てるようにする為に、魔法を練習してたんだった」


 懐から何かを取り出したマルーはそれを上に放りディレートと唱える。すると中空で剣が姿を現した。


「昨日放ったあの技をいつでも放てるように練習しなくちゃ」


 そうしてマルーは剣を、鍔が胸元に位置するように刃を上へ。


「……本にも書いてあった。“天から地へ振り下ろすような動き”には、天にいる神様の力を借りる、という意味が込められてるって。だから高く突き上げるの。この剣に、フェニックスが来てくれるように!」


 来い! フェニックスっ! ――室内にこだましたマルーの言葉は、フェニックスの代わりに沈黙を連れてきてしまった。堂々と剣を掲げた彼女に、リュウもレティも含めて目を丸くする。


「あれ? 来い! がいけなかったかなあ?」


 一身に浴びてしまった視線を振り払うようにマルーは、言い方を変えながら何度もフェニックスを呼ぶ。しかしフェニックスが来る気配は皆無だ。変化の訪れないマルーへの視線は、露骨にも冷めたものへと変わってしまうのだった。


「言い方は関係なさそうだねー」

「そうね」


 レティと相槌を打ったリュウは再び打ち込み台と向き合った。彼の両手にはマルーと同じように出現させた槍がある。


「とりあえず、さっきの魔法とおんなじように槍を構えてみてー、っと」


 ゆっくりと、漂う空気を撫でるように彼は槍を持ち上げる。


「あのモヤ……まさか!」


 近くにいたレティの目が捉えたモヤは後頭部に構えられた鉾にまとわれている。それを意識してか否や――リュウは一喝し振りかぶったモヤを投げ付けた。刃の如く变化しながらモヤは風切音を連れ打ち込み台で発破!


「何今の音!?」


 響いた音にマルーはもちろん、周囲の人々も振り返らせる。発破させた張本人が開いた口を塞がずに見つめる先。上下が斜めに真っ二つとなった打ち込み台があった。


「すごい……すごいよリュウ! たったの一回で、すぱん! って――!」


 駆け寄ったマルーは反応しないリュウに四方八方から声を掛けるも見向きされることはない。彼は使った武器を両手に持ったままぼうっと眺めていた。


「初めての魔法に初めての技……慣れない魔力消費で疲れが出たのかもしれないわね」

「そういえばリュウはこれが初めてだったや。魔法とか技とか」

「うんー。初めてだったからー、どうしようかなーって」

「どうしようって、何を?」

「なるほどね」


 二人が首を傾げているところにレティが割って入ってきた。


「悩んでいるんでしょ、今放った技につける名前を!」

「そー。それー」

「まさかリュウ、名前を考えるのにずっと夢中だったの? ……」

「すぱーんて打ち込み台が切れてるから、多分あの時、刃みたいなのが出たって事だよねー?」

「ええ。途中で風の魔力が刃を象っていたわ」

「ということは……」

「ねえ二人共! 私も混ぜてよー!」


 技の名前を考えている二人に割って入ろうとするマルー。


 そしてあの二人も、特別授業を受けるべく図書館へ足を踏み入れようとしていた。


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