016話 初仕事が終わって



 サイクロンズは飛空艇フライトに乗り込むと、遺跡があった砂漠地帯を離れ、ファトバルシティへと飛ばす。到着までの間、マルーとリンゴは、操縦席に一番近いスペースのダイニングテーブルで談笑していた。


「初めての仕事、大成功で良かった! それに!」


 マルーはリンゴに、左手首のブレスレットを見せつける。


「新しい五大戦士がリンゴなら、私、とっても心強いよ!」

「そう言ってくれるなら、嬉しいかなぁ――」


 にっかりと笑うマルーに、リンゴはマルーと同じブレスレットに手を添えながら応えた。


「あたし、もっと頑張っちゃう!」

「じゃあ私、もっともっと頑張る!」

「だったらあたしは、もっともっともーっと頑張らないと」

「それなら私は――」

「おいおいキリないだろ、そんな事言ってると」


 マルーとリンゴの五十歩百歩の競い合いは、ボールの一声で止められた。彼は、テーブル備え付けの椅子に腰掛けると、二人にも――落ち着かないからと、座るように諭した。


「にしても俺聞いてねえぞ、リンゴが選ばれたって事。すっげえ大事なことじゃねーか。なあ?」


 ボールが操縦席の方へ声を飛ばす。すると、飛ばした方向からリュウがやって来た。


「えっとー、何の話ー?」

「――リンゴが五大戦士に選ばれたってことだよ」

「ぇええー!?」


 大きく身を引いたリュウだったが、元の姿勢に戻るとリンゴへ拍手を送ったのだった。


「リンゴ、おめでとー!」

「ほらこの反応。リュウも聞いてなかっただろ?」

「でもリュウはあたしに、おめでとうって、言ってくれたわよ? あんたも何か言う事があるんじゃなくて?」


 強要するかよ――と愚痴をこぼしつつ、ボールは目をそらし頭をかいた。


「まあ……おめでとう、だな」

「ふふっ! 二人共ありがとうっ!」


 お祝いの言葉をいただけたことで、リンゴは大変に満足した様子だ。とその時だった。

 ぎゅぅ、と。全員のお腹から音が鳴った。


「皆、お腹が空いてたんだね」

「ひとまず落ち着いたもの。無理もないわ」

「それに、もうお昼の時間過ぎちゃってるもんねー」

「ほんと、いつまであの遺跡にいたんだか――」


 言いかけたところでボールが、あ、と声を漏らした。


「もしかすると、あっちもこの位時間が経ってるんじゃね?」

「うんー。きっとそうだねー」

「そうだねー、じゃないわよ! こいつの言っている事がもし本当だったら、あたし達は、お昼を過ぎても家に帰って来ていないってことになるわよ?!」

「あ、そっか! お母さんに心配させちゃう!」

「だから、そういう時間になっちゃってるの! どうにかして元の世界に帰らないと――」

「おーい。俺の名前、“こいつ”じゃないんですけど?」

「そんな事どうでもいいわよ! あんたも帰る方法考えて!」


 “あんた”でもねぇんだけど? という文句が聞き流される中、フライト内では、元居た世界――アースへ帰る方法の思案が始まった。文句を無視されたボールも、帰る方法を考え始める……。


「って。帰る方法、こっちに来る前に言ってたじゃねえか」


 と、ボールがマルーに指を差した。


「その、左手のブレスレット。それを使えば帰れるって」

「あ、戦士の証か! これをどう使えば帰れるのかな?」

「ほーい。ここに行く前のラビュラさんみたいにー、円を描いてみたらー?」

「そっか! へぇえーーーんしんっ! みたいな!」

「おいおい。それじゃあまともに円描いてねえだろ――もっと、こーんな感じじゃねえか?」

「こーんな感じ?」


 いやいや、と、ボールがもう一度片腕を回してみせると、マルーもそれに従い腕を回す。


「……こんな調子で帰れるのかしら?」


 近くでリンゴが、運転席からリュウが見届ける中、ボールとマルーの動きは徐々に変わっていった。声は荒くなり、脚は肩幅以上に開き、周りから見てとれない程腕を回していた。


「ううー目が回りそうー」

「まじまじと見ないのリュウ……って! あんた操縦席にいなくて大丈夫なの!?」

「大丈夫ー。自動運転モードっていうのに、設定してあるから――あれ? マルーとボール、終わっちゃったみたいー」


 リュウの言葉でリンゴが二人に視線を戻すと、彼らはしゃがみ込み、息を切らしていた。


「張り切り過ぎなのよ、全く」

「こんなに、腕を回したのに!」

「全っ然ダメだ……」

「動きだけじゃいけないんじゃないー? さっきの変身ポーズみたいに、掛け声をつけるとか――」

「そっかそれだよ! 転身するときも何か叫んだし!」


 マルーはあごに拳を添え、目を閉じた。


「――分かった! どう叫べば良いか!」


 瞬く間に目をガッと開けたマルーが早速、腕を大きく回す!


「見て! マルーの目の前が光っているわ!」

「同じだー! あの時とー」

「 開け! アース の世界を 繋ぐ 扉! 」


 一喝したマルーが手を前に出すと、その勢いを引き継いだように光の円が現れた!


「すっげえ! やったじゃねえか!」

「うん! ピカン! とひらめいちゃった!」

「これで帰れるわね!」

「うん、帰ろー。お昼ご飯は何かなー――」




 こうして、四人は無事、元の世界の“風の森”に戻ってくることに成功。昼食を済ませることに決めたサイクロンズは、それぞれ帰路につく。


「お母さんただいま!」


 どうやらマルーも家にたどり着いた様子だ。


「おかえりなさい! ちょうどお昼ご飯ができたところよ。手を洗いなさい」

「はーい――あれ? お昼ご飯、今できたの?」

「もうすぐ12時ですもの。マルーがお腹を空かせて帰って来るかなー? と思って。ね?」

「ありがとうお母さん!」


 手を洗ってくる! と洗面所に向かうマルーは、首を傾げていた。


「もうすぐ、12時?」


 マルーはこれまでの出来事を頭の中で巡らせた。

 確かに向こうでは長い間を過ごした気がするのに、ここではあまり時間が経っていないみたい。まさかお母さんが冗談で――というわけじゃないよね。と、考えると考えた分、マルーの頭の中が散らかっていった。

 やがて手洗いを済ませ、居間にやって来たマルー。大きめに切られた野菜達とお肉がたっぷりの焼きそばが、ダイニングテーブルに二皿置かれていた。そんなテーブルを見下ろすように掛けられた壁時計は、母親が言っていた時間を指していた?


「まさか!」


 マルーは飛ぶように自分の部屋へ向かう。走らないの! という母親の注意を気に留めず、彼女は部屋に入ってはあらゆる時計を手に取り、机に広げた。


「これも。この目覚まし時計も! ――あの壁時計も、どれもこれも12時を差してる!」


 今度の彼女は部屋を飛び出し素足のまま玄関を開けた! と同時に隣でも玄関が開く。

 開けた主は健。彼もかなり慌てている様子だった。


「今そっちは何時だ!?」

「12時になるところ! 健は!?」

「俺も同じだ。12時になる」

「そっか。同じなんだ……でも!」

「ああ。フライトで世界一周してから遺跡探検で……7時間前後は向こうで過ごしているはずだ」

「ということは――」

「ここと異世界じゃあ、時間の経ち方が違う……」

「 !! 」


「「 うぇえええええええええええええええーーーーーっ!? 」」



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