010話 魔法使いを探せ


 時を同じくして。

 マルー達は、リンゴがやって来たらしい場所から延びる線を見つけ、その跡を辿りながら歩いていた。


「リンゴーっ! いたら返事してーっ!」


 先頭を歩くマルーの声が反響する。しかし、リンゴの声は聞こえてこない。

 小さく息を吐いたマルーは肩を落とした。


「そんなに心配することねえと思うぞ? こんな風に歩いた跡を残せるくらいだし」

「リンゴのじゃなかったらどうするのさ! さっきのオオコウモリより強い敵が残したものかもしれないよ?!」


 振り返りざまに声を荒げたマルーに、ボールは難色を示す。


「さっきからお前なにかっかしてんだよ」

「してないよ!」

「してるじゃねえか」

「してないってば!」

「まあまあ落ち着いて! 喧嘩しても何にも変わらないんだから」

「喧嘩じゃないです!」

「喧嘩じゃねえし!」

「……明らかに、二人共、喧嘩腰だよー?」


 エンに仲介され、リュウ特有の間の抜けた声もかかる。


 しばらく流れる沈黙の中、マルーとボールは顔から力を抜いていった。


「喧嘩じゃないよ、ねぇ?」


 しゅんとした様子で見つめてくるマルーに、ボールは片手で頭を抱え、大きく息を吐いた。


「ったく。何でそんなに心配なんだよ、あいつの事」

「だって、リンゴがこの前、暗い所が苦手だって言ってたから、心細いんじゃないかって」

「そんなに怖がりなのかい? 僕にはそう見えなかったけどなあ」

「リンゴは強がりなんです。本当は臆病で、よく泣いてばかりで、それから……」


 マルーが立ち止まった。彼女の行く先がなんと、左右二つに道が別れていたのだ。しかも、今まで道案内をしてくれていた線の跡が途切れてしまっている。


「どうしよう。これじゃあどっちに行けば良いか分からないよ」

「いや、これは近いぞ――マルーちゃん、この分かれ道をよぉーく見てごらん?」


 よく分からないまま、エンに言われたマルーは目を凝らしてみる。すると、地面から、浮き出るように何かが見えてくる。


「……あっ! 足跡がいっぱい!」

「よく気が付いたね。これを辿れば、大抵の遺跡では間違いなく! 一番重要な箇所に辿り着くことができる」

「じゃあ、この足跡を辿れば――!」

「そうだね。あの魔法使いもいるかもしれない」

「だったら進みましょう! リンゴと合流しなくちゃ!」

「よし、皆もうひと踏ん張りだ!」


 より一層生き生きした様子で、エンが足跡を辿り始め、マルー達もそれに続いた。何度か分かれ道に差しかかったものの、足跡は一方向に続いていた為に迷うことなく進む事が出来た。


「お、あの先は十字路。足跡は……真っ直ぐに延びているね」


 エンが十字路に向かって歩いてゆく……はずだった。突如彼はたいまつを放り出し、進むはずの道から外れ去ってしまったのだ。

 何があったのか? 三人がエンを追いかけようとしたその時、どこからか大波が押し寄せるような地鳴りが響く。


「この音って――!?」

「知るかよそんなもん!」

「二人共ー見てー!」


 リュウが指差した先。そこではマルー達の道しるべをかき消す足々がたいまつに照らされていた。


「あの足、骨で出来てるねー」

「出来てるねー、じゃねぇって! あいつら、エンさんが曲がった方向へ走ってるぞ!」

「それってつまり――!」


 エンが危ない! そう認識した三人は落ちたたいまつを拾い上げ、慌てて新しい足跡を追う!


「あのがいこつさん、兜を被って――兵隊さんみたいだねー」

「お前は何でそんな呑気でいられるんだ!」

「とにかくどうやってあの“がいこつへい”を倒す!?」

「倒すよりまずあの人と大軍を引き離さねぇと!」

「それなら僕に任せてー、ほいっ!」


 リュウが、がいこつへいの大軍に向けて手持ちの槍を投げつけた! 大軍からぱりん! と乾いた音が響く。


「誰かに当たったみたいー」

「……動きが止まったな」

「ぜ、全員こっちに向いたよ!」

「おー武器構えたー」

「おいおい……こっちに来るぞ!」

「とりあえず逃げなきゃっ!」


 三人は真逆の方向に駆け出した。がいこつへいの大軍は足音を轟かせながら迫る。


「いつまで追いかけられていれば良いかなー」

「――マルー! ずっと逃げている訳にはいかねえぞ! どうするんだよ!」

「どうするって! あんなに沢山相手に出来ないよ!」

「皆伏せるんだ!」


 突如かかった声で三人は反射的に身を伏せる。瞬間、彼らの後ろから、乾いた音達と熱気が迫ってきた。


「皆! 大丈夫かい!?」


 音と熱気が治まった頃、後ろから投げかけられた言葉を合図に立ち上がる三人。振り向くとなんと、がいこつへいの大軍が無様に崩れ落ちていたのだ。

 そんな亡骸を避けながら、エンが三人に近づいてくる。


「ありがとうございます師匠! 助かりました!」

「いやあ、無事で何より! はいこれ。リュウ君の槍」

「ありがとうございます――今、どうやって兵隊さん達を蹴散らしたんですかー?」

「大きいホノオで一発! それだけさ」

「魔法一つで一気に倒したんですか!?」

「さすが師匠ー!」

「いやあ、まあねえ! ハッハッハッ――!」


 マルーとリュウにおだてられたエンが高らかに笑ったその時、笑い声をかき消すような爆破音が響き渡った。


「何だ今の音は!」

「あっちから聞こえた気がします!」

「もしかしたら、リンゴがいるかもー?」

「行ってみようぜ、マルー」

「うん、行こう!」


 マルー達は、爆破音を聞いた時の記憶を頼りに駆けてゆく……!


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