第10話 ゴブリンさんとミューの成長



「なんだか最近、筋肉が付いてきた気がします」



『ム、結果が出てきたカ』



相変わらず訓練に勤しむ2人な姿はすっかりと学園の名物になっておりその姿を眺めに稀に生徒が訓練所に用も無いのに顔を出す事もあった。



「冒険者としては良いんでしょうけど、、、女の子として考えたら何だか微妙な気持ちです」



ミューはゴブリンさんと出会う前の自分と今の自分を比べてため息をつく。あの頃と比べたら随分と逞しくなった。逞しくなってしまった。



勉強しかしてこなかった細い腕は剣をしっかりと振れるほどの筋力を手に入れ、腹筋も割れ始めた。

極め付けは走り込んでいるこの足。とにかく訓練では下半身を重点的に鍛えたために、

昔とは随分と違う足になってしまった。

あり大抵に言えば太くなった。



「それもこれもあの先生のせいです、、、」



『武術の展開をしながらの訓練ダナ。初めは酷いモノだったが続いてみれば大きナ収穫に繋がったナ』



「うぅぅう、、、忘れてください!!」









話はミューとゴブリンさんの訓練が学園の名物になり始めた頃まで遡る。



相変わらずその日もゴブリンさんとミューは厳しい訓練の真っ最中だった。いつも通りと少し違ったのは、走り込みの途中で来客があった事だろう。



「おー やってるなー ミュー」



「はぁ、はぁ、、あっ!先生」



相変わらず気の抜けた声の教員にミューは走り込みの最中という事もあり息を切らしながら返事をした。そしてゴブリンさんは教員を一瞥した後、

『一旦、休憩にすル』と言いミュー教員の時間を作ったのだった。



「かなり頑張ってるなー ディスクとの実戦授業は良い方向に傾いたみたいだなー」



「改めて自分の弱さを実感しましたから。そのかわり強みも発見できたので、それがモチベーションになって今頑張れてます!!」



「そうかー 精進さしろよー」



そう言いながら教員はミューの身体を観察し、顎に手を置いて少し考えたたかと思えばなんて事のない質問をしてきた。



「ミュー お前武術の展開はできた筈だよな?」



この世界に存在する脅威に対抗する為の人類の武器。それが魔術と武術になる。その歴史は古く、

数千年前の亜人戦争。その更に前の時代に生まれた1人の魔族によって開発されたと言い伝えには残っている。



魔術は外部から、武術は内部からこの世界に漂う力を利用して様々な現象を発現させる。そうして長い間に研鑽と改良がなされた"術"は、教えて貰えれば誰でも多少は使える程に、この時代では身近なモノになっていた。



「使えますけど、実践レベルじゃ無理ですよ?

武術は魔術よりもっと苦手なんです。瞬間的に展開出来ないですし」



魔術のような火を出すなどの外部に干渉とは術とは違い、武術は自分の内部に使用する所謂

"身体強化"の術である。そして戦いの中で瞬間、瞬間に武術を重ねる事により人を超えるスピードやパワーを手に入れる事ができる。ミューはこの瞬間的に武術を展開するのが極端に下手であった。



「良い方法があるぞー 武術をなー 展開しっぱなしにするんだー 切らないないうに集中しながら訓練してみろー 武術が切れなきゃ最低限はミューでも戦えるだろうしなー その方面でやってみろー」



「武術を切らさずに、、、わかりました!!」



「初めは難しいと思うがなー 名だたる冒険者は常に武術を展開してるー これが出来れば、お前も

一流に近づくかもなー ただ武術を展開したままで訓練しすぎると、身体に負荷がかかりすぎるから程々にしとけー」



そう言うと満足したように教員は訓練所を後にした。適当そうに見えて案外、生徒のことを考えている教員の言葉を、ミューはひとまず試してみることにした。



『話はすんだカ?』



「はい!ゴブリンさんちょっと待っててくださいね!」



ミューは身体に巡る力を意識して武術をゆっくりと展開する。心臓から身体全てに力を流しこんだ。

身体は軽くなり、力が湧いてくる。武術は無事に展開された。



「お待たせしました!」



『気配ガ変わったな。武術カ?』



「はい!武術を展開し続けながら訓練してみろと

言われまして、試してみようかなと!!」



『わかった。いずれはソレをするつもりでいタ。

体も多少出来てきた頃ダ。訓練を再開するゾ』



「はい!!」



そうして軽くなった身体で残りの走り込みを続ける。明らかに先程よりも楽であり、スピードもあがり息が切れる様子もない。その体の変化に「武術ってキチンと使ったらこんなに凄いんだ!」とミューは感動しながらも武術が解けないように気を張った。



解けそうになれば一旦止まり息を整え集中。

そのルーティンを繰り返し1日がかりの訓練をまだ日も明るい昼過ぎにはミューは終えてしまった。

「凄い!解けないようにする方が私得意かも!」

と内心また自分が得意な事を発見して笑みがこぼれた。



『よくやっタ。今日はもう終わりダ』



普段なら「やっと終わった」と一息つく所だが

今日のミューは一味ちがった。今ならなんでも出来るという高揚感が心を支配し



「何言ってるんですか!?時間はまだあります!

もっとやりましょう!!つよくなるために!」



とゴブリンさんに訓練の続行をお願いした。

ゴブリンさんは少し渋い顔をして考え、

『早イ所デ経験するのも良いカ、、』

とボソリとこぼしその願いを承諾した。



こうして夕方までガッツリと訓練を終えて

2人は家までの帰路についた。

その日の夜のこと未だ興奮しているミューは



「ゴブリンさん!明日もビシバシお願いします!」



と訓練の後だと言うのに嘘のように元気だった。

そんなミューをぼんやりと眺め『明日があればな』

と意味深なことをゴブリンさんは呟き床に就いた。



次の日の朝。ミューを悪夢がおそった。

身体を動かさせなくなってしまったのだ。

詳しく言えば動かせるのだが、少しでも動かせば

身体に耐え難い痛みがはしるのである。



「ご、ゴブリンさん!身体が凄い痛いです!

私何か病にかかったかもしれません!!」



声を出した時の微かな動きでも痛みが走り、それに体が反応しまた動いてしまい更に痛みが走る。

永遠の地獄のような時間の中にミューは囚われていた。



「どうしましょう、どうしましょう、、、」



ミューは自分の状況に危機を感じパニックを起こしていたがゴブリンさんの一言で落ち着きを取り戻すことになった。



『筋肉痛ダ』



「え!?」



ゴブリンさんの言葉に思わずききかえしてしまう。



『それは筋肉痛ダ。武術を使い続けながら訓練ヲすれば慣れてないモノは皆そうなル。教官から無理はするなと言われなかったカ?』



「そ、そう言えば程々にと言ってました、、、」



『そうだろうナ。ミュー覚えておくと良イ、

"力を手ニした時コそ冷静に"だ。昨日ハ興奮であまり話を聞いテ居なかったからナ。教訓とするとイイ』



「はい、、、」



そういうとゴブリンさんはミューの学園での制服をそっとミューの目の前に差し出した。



「え、、、いや、、、身体が痛いので無理です。

無理ですよゴブリンさん、、歩けません」



『我が担いでイこウ』



「きょ、今日は学園に行っても出来ることありませんよ!!」



『ビシバシお願いしますと言ったのはミューだゾ』



「そ、そんなーーー!!」



こうなったゴブリンさんは折れてくれないと

観念したミューは悶絶しながら制服に着替えて、

担がれながら学園に行き、その恥ずかしさに2度、力を手に入れても調子に乗らない!と心に決めたのであった。







「あの日の事はもう思い出したくありません」



『誰しも失敗をシテ大きくなル』



ミューとゴブリンさんが過去の話に花を咲かせていると珍しく2人に来客がきた。



「あ、あの!すいません!!」



「ん??どうしました??」



声をかけてきた人物はミュート同じクラスのナーコだった。あまりナーコとの交流はないものの、クラスメイトという事もあり無下にも出来ず、それなりに対応する事にした。



「あ、あの、実はその、、、

次の長期休みに、私と魔獣退治してほいんです!」



その唐突なお願いに困惑したものの、ゴブリンさんは『魔獣カ、、。実戦になるナ』と考えこんでしまった。ミューはナーコの申し訳なさそうな態度から、何か事情があるのでは?と思い質問をすることにした。



「魔獣退治って、何かあったんですか??」



「じ、実は私の村が最近になって魔獣に悩まされていて、ギルドに依頼は出してるんですけどなかなか受けてもらえなくて、、、それで、、ミューさん最近強くなってるって聞いて、、、。あのゴブリンもディスク君を倒せるくらい強いですし、、、」



なるほど、ゴブリンさんの力を借りたいのか。と

ナーコが話しかけてきた理由に、ミューは納得をつける事ができた。できることなら手伝ってあげたいが、ミューではなくナーコの本名はゴブリンさん。

なのでゴブリンさんにどうするのかと目線を送ると



『ミュー、実戦ダ。本物の命のやりとりヲしに行くゾ』



そう言っていた。

こうして、ミューとゴブリンさんの長期休みを利用した、魔獣との実戦が始まるのであった。

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