第9話 ゴブリンの特訓と神の残滓




ミューの通う学園は一年時には様々なカリキュラムが組まれ一つの教室で学び訓練をするが、二年時には途端に自由になる。朝のミーティングで稀に実戦授業のような全員で受ける授業が告知されるが、それも月に一度あるかないか分からないほどである。




二年時は、ほぼフリーの時間を使い学園内の施設を使用したり生徒同士で訓練をして高めあう。時に教員に指導を頼むなど様々な方法で魔獣を倒す力や知識を蓄え、卒業が懸かった最終試験の成績次第では騎士や宮廷魔術師への道も開く。このフリーの時間の使い方でその生徒の将来が良くも悪くも大きく左右されるのだった。




そしてミューと言えば、今までこのフリーの時間は図書館を使って勉強に全ての時間を費やし、魔獣の種類や魔術や魔法陣に関する知識を存分に蓄えていた。全く己の身体能力を磨かないでいたその高いツケを、ミューは現在支払っている真っ最中だった。




「も、もう無理です、、、。限界です!!これ以上は本当に死んじゃいます、、、。」




『ミュー、本当に限界の時は喋れんゾ もウ一本』




「鬼!ゴブリンさん鬼教官!!」





小鬼ゴブリンだからナ。鬼にもなれル』




「そんなうまい事、こっちは聞く余裕なんて無いんですよ!!」






実戦授業のあと自分の知識の強みを武器にしたミューだが、教員の指摘通りその身体能力の低さが大きすぎる弱点になっていた。授業の後も何度かディスクとの模擬戦を行い、ディスク1人が相手ならゴブリンさんとの連携で難なく勝利出来るものの、ディスクが召喚獣の闘牛ブルートを召喚した時は例外なくミューがやられてしまい負ける結果になってしまった。ゴブリンさんがミューを庇えば攻撃ができず、ゴブリンさんが攻めに行けばミューが狙い撃ちに合う。




ゴブリンさんはこれを解決するために最低限ディスク並みの相手に対して、守りを固めて耐える事をミューの課題とした。ミューが耐え切れるだけの力があればゴブリンさんの動きにもパターンが増え、作戦の幅も大きく広げる事が出来る。




冒険者になれば数的不利な戦いも経験する事になるだろうが、今のミューでは駆け出し冒険者でその短な生涯を終える事になるだろう。それを防ぐために実力者のディスクと打ち合えるようになって貰わなくては困るとゴブリンさんは心を鬼にしミューを走らせた。





「はぁ、ハァ、一本おわりましたぁ〜」





『よシ、よく頑張ったナ。ミューは逃げる事なくやり遂げたノダ。これでまた強くナル』





「そ、そうですかね!!私もっと頑張っちゃいます!」





親を早くに無くし、あまり誉められたことの経験のないミューは、やり遂げると必ず誉めてくれるゴブリンさんとの訓練に、少しだけ達成感とは違う快感の様なものを見出していた。この快感がなければ直ぐに根を上げ、地面に倒れ込み起き上がる事がなかったに違いなかっただろう。





『そうカ、ならば今から組み手ダ』





「ゴブリンさんの鬼ッ!!」





こうして地獄の様な肉体改造訓練は日々続けられ、

そのあまりのスパルタぶりに他の生徒はドン引き、

学園の名物のような扱いを受ける事になるのは時間の問題だった。





「そういえばゴブリンさんって武器とか使わないんですか?」




組み立ての後に行う"型"の練習中にミューはふと疑問に浮かんだことをゴブリンさんに声をかけた。組み立てや"型"を知っている事から無手の使い手、何らかの流派を納めているのだろうとは思ったが好奇心が勝り質問した。




『我は剣を使ウ。大剣、バスターソードと呼ばれてイたカ?』




意外な事にゴブリンさんは剣を使用する戦闘スタイルであった。




「大剣!?今までディスクとの訓練でも一度も剣なんて使ってなかったので、てっきり投げ技や拳系の武術流派だと思ってました!!」





『拳も得意ダ。元は拳や体で闘っていたしナ。ある時に神の残滓が我に"チカラ"を与えたのだ。それが我が使ってキタ大剣であっタ』





「前に言ってたスキルみたいなやつのことですね!!それって今この場ど使えたりしますか!?」





以前話に聞いた"神の残滓"という聴きなれない言葉に知的欲求が刺激されミューの知りたいスイッチが入ってしまった。




『型の途中なんだがナ、、、。見せねば集中できそうもないか。よろしイ』




型の動きをやめゴブリンさんは少し足を開き手を目の前に伸ばした。力を内側から練り上げているせいか、ゴブリンさんの存在圧で空気がピシリと固まる。




「来イ!!」




今までとは違い、ミューの心の中に聞こえる声ではなく、空気を震わせ風を断つかの様な鋭くも低い声が唸る様に放たれた。ミューは思わず息を飲みその瞬間を見逃さないよう食い入る様にゴブリンさんに集中した。そして、、、





『ム?来なイ??』





先程の唸る声とは裏腹の少し気の抜けた声がミューの心の中で聞こえたのであった。




『すまなイなミュー。役目を終えたからか、この世界に来たせいカ分からぬがどうやら来なイようだ』




「も、もう!いきなり声を出すものだから驚きましたよ!!普通に喋れるんですねゴブリンさん。神の残滓を見れなかったのは残念ですけど大丈夫ですよ!!冒険者になった時はゴブリンの剣を買わなきゃですね!!」





『人の言葉ヲ喋るノハ苦手なんダ』





神の残滓を目の当たり出来なかったのは残念だったがゴブリンさんがいざとなれば喋ることが判明しただけでもミューにとっては収穫があった。

「ゴブリンさんの本物の声ってあんな感じでちょっと怖い感じなんだ」と思いつつ、中途半端に終わっていた"型"の練習に戻り己を高めるのであった。













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