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「あたし振られちゃったのぉ!」
うーん、だろうな。そうだと思ってたよ。
「慰めてぇぇぇ」
「はいはい」
慰めろったって俺が出来るのは話しを聞くことと酒を作ることだけだ。
「言いたいこと、全部吐き出してけ」
「はなちゃぁぁぁあん」
「分かった分かったから、鼻だけは制服で拭くなよ」
胸元からハンカチを取り出してミケへ渡してやった。アイシャドーを溶かしながらミケは想いの丈を吐き出していく。
「あたし、本当に好きだったのよ」
誕生日に手作りのお菓子を作って渡すと言っていた片思いの彼のことだった。偶然、本当に偶然、それを見掛けてしまったらしい。
彼には妻子がいたのだ。
奥さんは普通の、どこにでもいそうな女で、小さな子供が居たそうだ。
俺の店にも何度か足を運んでくれていた人だったが少しも結婚していることに気が付かなかった。指輪もはめてなかったし。
ちょっと天然ですぐに誰とでも気さく話すような優しい人だった。
「そうか、辛かったな」
彼のその優しさがミケを翻弄したのだ。
「うん」
ミケは思いやりのある奴だ。きっと一生彼には想いと告げることはないだろう。そして、多分ここでその思いを断ち切りたいと思っているはずだ。次に進む為にも、今度彼が来た時の為にも。
「気が済むまで付き合うから」
「あ゛り゛か゛と゛う゛」
その晩はミケの店からも俺の店からも酒を出して飲み空かした。帰ってもいいと言っていたのに、斉藤君もミヤも付き合ってくれた。
「あたしたちの新しい門出に乾杯するわよ」
「はいはい」
難しい人生を歩んでいると思うけど、ミケの生き方は格好いいなと思う。昔から思っているがこれは一生言うつもりはない。
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