ネコとコイ

カゲトモ

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 クローズの札を店先に掛けて扉を閉めた途端、意図せずに扉が開いた。勝手口の扉が。

「わっ!」

 背中越しに斉藤君の驚く声が聞こえた。それに続いて聞こえたのが「お邪魔するわよ」という声。顔を見ないでも分かる、店の裏にあるオネェスナックのママ、ミケだ。

「何か用かよ」

 振り向きざまにミケ向かって言うと、その表情に固まってしまう。

「ちょっと、言葉遣いには気を付けてよね」

 デカい図体の猫耳オネェの隣には同じく猫耳を着けた細い女性もとい、女性に見える男の娘が居た。ミヨだ。

 どうして? 即座に浮かんだのはクエスチョンマーク。なぜここに居る?

「俺は今日ママにヘルプを頼まれて来たの。困っているから出て欲しいって」

「俺・・・」

 小さく斉藤君の声が聞こえた。以前ミヨにからかわれたことがある。やはりその姿で「俺」は違和感があるか。もう慣れたけど。

「俺だってママに沢山お世話になったからそれくらいはするよ」

「いや、それは分かったけど。ミケは一体どうしたんだ。おい、ミケ?」

 いつもの覇気がまるでない。返事がない、屍のようだ。

「昨日辛いことがあって、それでも店は開けなくちゃいけないからって、無理して働いてたんだけど、どうしてもはなちゃんと話したいからって言うから連れて来たの」

 いや、連れて来たのって言っても。

「おい本当に大丈夫か。どうした、何があった?」

 悪態を吐き合う仲だとしても、ミケとの付き合いは長い。こんなにぐったりと項垂れているのはよほどの事があったからなのだろう。

「はなちゃん・・・」

 答えた声は虫の息のように絶え絶えだった。これは相当だな。

「斉藤君、悪いんだけど水入れてもらえる?」

「あ、はいっ」

 ミヨと共にカウンターにミケを座らせた。ぐすっと鼻を啜る音が聞こえた。

 泣いているのか。

「大丈夫か?」

 斉藤君からグラスを受け取ってミケの前に出してやった。ミケはそれを受け取ろうとせず、グリンッとこちらを向くと勢いよく抱き付いてきた。

「はなちゃぁぁぁああん」

 相変わらずバカ力だが、今回は見逃してやる。

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