第16話

翌日、俺たちを迎えに来た船の無線機を使い、警察に連絡。

警察はすぐにヘリコプターで来た。

俺達は一連の流れを警察に説明し、椿さんは自首。

そして、今まさに椿さんがヘリコプターに乗り込もうとしていた。

「啓太……」

「竹富さん、今までお世話になりました」

「必ず戻って来い。この洋館のシェフはお前しかいないのだから」

「でも……」

「私はお前を許す。世間がどう言おうと、お前は私の息子のようなものだ。だから……必ず戻って来い。私は、ここで待っているから」

「……はい」

力強い返事をすると、椿さんを乗せたヘリコプターは空高く飛んでいく。

竹富さんは、ヘリコプターが見えなくなるまで、ずっと見ていた。

「いってしまいましたね」

「そうですね……」

竹富さんは寂しそうにつぶやく。

「今、聞くのもあれなんですけど、どうして彼や向井さんを雇ったんですか?」

「……彼女たちは父親がいないんです。葵に関しては、両親がいない」

「それって……」

「ああ、母子家庭で育った啓太と、孤児院で育った葵。私は彼女たちの父親代わりをしていたつもりだった」

「どうしてそんなことを?」

「よくはわかりません。私も昔は、家庭があって妻も子供もいました。ですが、離婚することになって、子供には父親がいない生活を強いてしまった。そんな私の……せめてもの罪滅ぼしのつもりだったのかもしれませんね」

「……きっと、いい父親だったと思いますよ。彼にとっても」

「そうだといいのですが……」

「自信を持ってください」

「そうですね。……もう時間ですか」

「ええ……。なんだかこの3日は短いようで、とても長く感じました」

「もっとゆっくりしてもらいたかったのですが……。すみません、こんなことに巻き込んでしまって」

「いえいえ、俺も立ち直るきっかけになりましたよ」

「そういえば、彼女。九十九さんと一緒にいた」

「春奈さんですね」

「彼女のこと、大切にしてあげてください。赤月村の生き残り同士じゃなく、一人の女性として」

「はい、必ず」

俺はしっかりと返事をする。

確かな覚悟を込めて。

「九十九さ~ん!!」

「おや、およびのようですよ」

「もう時間か……」

「この度は本当にありがとうございました」

「いえ、こちらこそ」

「また来てくださいね」

「百合の花が咲き誇る季節に、また来ます」

俺は竹富さんと握手を交わす。

「それじゃあ、俺は行きます」

竹富さんに別れを告げ、俺は春奈さんの元へと向かう。

今となりにいる彼女を守ろう。

そして、百合の花が咲く季節に、また来よう。

そう思いながら、俺は船に乗りこんだ。


* * * * *


「うげっ……」

「やっぱり船酔いしましたか……」

春奈さんに背中をさすってもらいながら、俺はまた悶えていた。

「春奈さんが血を克服したから、俺もって思ってたんだけどな……」

「あの時は、本当に夢中でしたから……」

「でも、もう大丈夫でしょ?」

「普通には。さすがにスプラッタ系の映画とかはまだ……」

「あれは好みの問題だと思うよ……」

「あら、恭介君……船弱いの?」

「ええ、まぁ……っぇ!」

「ああ……。さすがの探偵さんでも、苦手なものはあるか」

「俺は探偵じゃなくて、フリーライターです……」

「はいはい、わかったわよ」

真田さんも加わり、港に着くまで、俺の船酔いは収まることはなかった……。

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