第14話

「葵!!」

戻ってくるなり、竹富さんは向井さんの元へと駆け寄ってきた。

「だ、大丈夫か?」

「すみません、心配をおかけしました……」

そう行って頭を下げる向井さん。

その様子を見て、竹富さんは胸をなでおろしたようだった。

「九十九さん、本当にありがとうございます……」

「いえ、俺は……」

竹富さんは、俺に何度も頭を下げていた。

向井さんが少し休みたいというと、竹富さんは向井さんを部屋まで送る、と言ってその場を去った。

さて、俺もすこし確認をするかな。

俺は三階のあの場所へと向かう。

窓をすこし開けて、下を覗き込む。

懐中電灯を使って照らしてみると、ブルーシートよりもすこしずれた場所だった。

やはりか……。

となると、この場所から少し離れた場所。

つまり、彼の部屋の前ではなく、階段の近くといったところだ。

そんな場所で、彼は殺害された。

階段から突き落とした方が、楽だったはずなのに、どうして犯人は窓から突き落としたのだろう。

確実性を求めたのか、それとも別の理由があったのか。

どちらにせよ、この殺人は計画的に行われたものではないことくらい見当はついた。

死体の隠匿もされていない、3階という微妙な高さから転落させた。

犯人にとって唯一のメリットは、警察が来るまで調査されないことだ。

そうなれば、直接的な証拠もなく、問い詰められることはない。

そう思っていたに違いない。

俺がこうして、調査をしなければ。

向井さんに関しては俺にも非があるだろう。

俺が調査を始めなければ、彼女が監禁されることはなかった。

もし、あのまま見つけられなかったら……。

そう考えるだけでもゾッとする。

でも、どうしても彼と犯人との接点が見つからない。

どうしてそんなことに及んだのか。

樋口さんにもう一度、話を聞く必要があるかもしれないな……。

そう考えた俺は、樋口さんの部屋のドアをノックした。


* * * * *


「怜君のことを教えてほしい……ですか」

「お願いできませんか」

「……」

今朝、亡くなったばかりだというのに、聞くのは酷だとは思ったが、彼のことを知らねば、この事件は解けない。

そんな気がした。

「彼は……よくわかんないです」

「よくわかんない?」

「子供のように無邪気だったり、ぐれた子みたいに乱暴だったり……感情に素直というか」

「ああ……」

俺も人のことは言えないが、結構人を振り回すタイプの子だったみたいだ。

「でも、どうして彼と?」

「そうですね……少し昔の話になります」


―― 樋口 小百合の証言 ――

彼と初めて出会ったのは、高校生の時でした。

こんな私ですから、友人もそれほど多くなく、結構一人でいることが多かったんです。

そんな時、彼が話しかけてくれて。

それからよく話すようになりました。

最初のうちは面倒な人だなぁと思っていたのですが、次第に打ち解けていって。

気付いた時には好きになっていました。

彼が私のことをどう思っているのか、わからなかったんですけど、告白してみて、今に至ります。

高校生の時の彼は、とても無邪気で、よく笑っていました。


「どこにでもいるような普通の子だったんですね」

「ええ。私が知る限りでは」

「それは一体……」

「彼のことを嫌いな人もたくさんいました」

なんとなくだが、わかるような気がした。

彼は他人のテリトリーを気にせず、ずかずかと入る。

それを受け入れる人もいれば、拒絶する人もいる。

感情的な人の話では、よく聞く話だ。

「あ、そうだ。高校の時に撮った写真があるんですよ」

そういうと樋口さんはスマートフォンを取り出す。

電波は入っていないため、通信にかかわるすべてのことはできないが、写真を撮ったり、見たりすることはできる。

お目当ての写真をみつけたのか、樋口さんはその写真を見せてくれた。

「これです。これが私で、怜君です」

「へぇ……ブレザーの高校だったんだね」

その写真は集合写真で、楽しそうに微笑む二人の顔が確かに映っていた。

「……ん?」

その時、俺はある人の姿をみつけた。

「これはもしかして……! 樋口さん、この人は?」

「これは確か……」

その次に出た言葉に、俺は衝撃を隠せなかった。

全てが繋がった。

彼と、犯人と、そして今が。

いまだに動機はわかっていない。

だが、これではっきりした。

犯人は……あの人だ!

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