第13話

「向井さんがいなくなった!?」

春奈さんと真田さんを部屋まで送った後、慌てた様子の竹富さんにそう告げられた。

「こんなことは初めてで……」

「と、とりあえず落ち着きましょう。いつごろからいないんですか?」

「最後に見たのは、15時くらいです」

となると一時間以上いないってことか。

これが普通の町なら、出かけているだけだと考えられるが、ここでそれはない。

出かけた……というのではないのなら、彼女はどこへ消えたのか。

「……俺も探してみます。向井さんがいつも何をしているか教えてください」

「わかりました……!」

竹富さんはたどたどしくも、しっかりと教えてくれた。

それを聞き終えると、俺は一つずつ調べていく。

「ここでもないかっ……!」

既に半分を探し終えたが、向井さんの姿はない。

一体、どこにいるんだ……!?

嫌な予感がする。

人が消え、人が死ぬ。

それは嫌というほど見てきた。

もう見たくない。

そんな気持ちが俺を焦らせる。

「くそっ! ここにもいない!!」

「ど、どうしたんですか……?」

廊下で地団太を踏んでいると、後ろから声を声をかけられた。

振り返ってみると、そこには樋口さんがいた。

「樋口さん! 向井さんの姿を見てませんか!?」

「み、見てませんけど……」

「やっぱりか……」

「向井さんがどうかしたんですか?」

「いないらしいんだ。この屋敷のどこにも」

「外に出てるという可能性は……」

「この暗闇で外には出ないと思う。街灯なんかないし、向井さんが仕事を放ってどこかへ行くなんて考えられない」

「……わかりました。私も探してみます」

「ありがとう! ……それにしても、部屋から出られるようになったんだね」

「いつまでも、泣いているわけにもいきませんから」

……女の人って強いなぁ……。

いつまでも引きずっている自分が情けなくなってくる。

と、感心している場合ではない。

向井さんを探さなければ。

「それじゃあ、頼んだよ! 俺はあっちを探してくるから!!」

「は、はい!」

俺は、樋口さんに別れを告げると、部屋を探し始める。

頼む! 無事でいてくれ……!!


* * * * *


「くそっ! どこにもいない!!」

全ての部屋を探しおうぇたというのに、向井さんをみつけることはできなかった。

考えられる可能性は、この洋館の中にいないか、すでに……。

いや、マイナスの方に考えるのはやめよう。

まだ殺されたと決まったわけじゃない。

本当に、どこかへ出かけている可能性もなくはないのだ。

向井さんだって人だ。

気分転換に散歩するくらいあるだろう。

それに、こんなことがあった後だ。

いつもと違う行動をとってもおかしくはない。

そう自分に言い聞かせる。

そうであってほしいという願いを込めながら。

一旦、落ち着いて考えよう。

洋館の部屋はすべて調べた。

これだけ調べたのだから、洋館の中にいる可能性はないだろう。

そうなれば、洋館の外ということになる。

この洋館の周りで、洋館と関係がある場所……。

「……そうだ、ブルーシート!」

竹富さんは”この洋館のどこか”からブルーシートを持ってきた。

そのブルーシートがあった場所は調べていないのではないか?

そうならば、どうしてその場所を調べなかったのか。

鍵があったから?

この時間にその場所へは行かないから?

どちらにせよ、調べていないのなら、調べる価値はあるだろう。

そう思った俺は、竹富さんの元へと走った。


* * * * *


「ブルーシートは倉庫の中にあったものを使いました」

「その倉庫は調べましたか?」

「いえ……。鍵はありましたし、一度近くまで行ったのですが、いなかったので……」

「なら鍵を貸してください。俺が調べてきます」

「わ、わかりました」

竹富さんは、急いで倉庫の鍵と懐中電灯を持ってきた。

「あそこは電灯がないですから、これを持っていってください」

「わかりました」

俺は鍵と懐中電灯を受け取る。

そういえば、ここの電気はどうやってまかなっているのだろう。

そんな疑問が浮かんだが、今は後回しだ。

倉庫の場所を聞くと、俺は急いで倉庫へと向かう。

既に日は落ち、洋館から零れる灯りだけがあたりを照らしていた。

俺は懐中電灯のスイッチを押す。

わずかな範囲しか照らせないが、灯りがないこの状況下では、心強かった。

しばらく歩くと、目的の倉庫をみつけることができた。

ぼろぼろで、いかにも廃屋といった感じの倉庫だ。

もしかすると、この倉庫も民家だったのかもしれない。

ならば……。

そんなことを考えているひまはない。

俺は頭を振り、余計な考えを振り払うと、倉庫の扉に手をかける。

ガチャガチャという音を立て、倉庫の扉は開かない。

鍵はかかっているようだった。

俺は鍵を差し込み、扉を鍵を外す。

カチッというわずかな音だったにも関わらず、妙に大きく聞こえた。

扉をゆっくりと開ける。

中は真っ暗で、何があるのかさえも、わからない。

懐中電灯で中を照らすと、草刈機や箒などがあった。

ゆっくりと中へ入っていく。

倉庫の中は広く、懐中電灯の灯りも一部しか照らせない。

「向井さん! いますか! いたら返事をしてください!!」

大きめの声で問いかける。

そして、俺は耳を澄ませた。

静かにしていると、木々が揺れる音がはっきりと聞こえる。

やはりここじゃないのか?

そう思った時、ガタガタという音が聞こえてきた。

聞き間違いだと思った。

だが、その音は次第に大きくなり、その場所を伝えた。

「やっぱりここだったか!!」

俺は音がする方へと向かう。

そして倉庫の一番奥。

大きめの箱などが積まれたその場所に、向井さんはいた。

「向井さん!」

彼女は目隠しをされ、猿ぐつわをかまされ、手足を縄で縛られていた。。

俺は、懐中電灯を足元に置くと、向井さんの拘束を解いた。

「大丈夫ですか?」

「あ、ありがとうございます……」

「一体、だれが……」

「わかりません、いきなりのことだったので……」

「どうしてこうなったかに心当たりは?」

「きっと、これだと思います」

そういうと、向井さんはポケットからある物を取り出した。

「これは?」

「3階の廊下で拾ったものです」

「えっ!?」

「……九十九様、お願いがあるんです」

俺の顔を、しっかりと見つめる向井さんの顔は、悲しげな表情をしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る