新学期
朝凪 凜
第1話
私、大葉まいかは高校2年の2学期に憂鬱としています。今も学校に向かう途中で友達と憂鬱な話をしているのです。
「学校始まっちゃったよ、どうしよう。もっと休みたい!」
「私もそうだな。まあ、お前は学校始まっても休みでもあんま変わらないだろ」
ざっくりとした性格の
「そんなことないよ。夏休みすごかったんだよ。もうね、ひと夏の大冒険って感じ」
ミステリアスな雰囲気を出しつつ興味をそそらせる。
「へぇ、そんなことあったんだ。どんなの?」
「うーん、まあ、なんていうかその、あんまりいい話じゃないけどそれでも聴く?」
ちょっと気乗りしないようにしつつでも話したい風を装う。
「ああ、いいよ。話したいところだけでもいいから」
「わかった、ありがと」
一呼吸おいて私は話し始める。あの夢だったかのような夏のお話を。
* * *
それは、夏休みが始まってしばらくしてのことだった。
私は長期休みを利用して一人旅をしていたのだった。
フェリーに乗って北海道へ向かう時のこと。
白いワンピースに麦わら帽子を被って甲板に出て
「風が気持ちいいですね」
同じく一人旅らしい男の人と船内で知り合い、こうして話をしていた。
「そうだね。僕は病気がちで一人旅は好きではないけれど、こうして君みたいな人と話ができるんだから、一人旅というのも意外と良いものなのかもしれない」
「一人旅は好きではないのにどうしてこんなところへ?」
「僕は、道内に一人置いてきた人がいるんだ。高校に入る時に一人で上京してきた。そう君みたいな子だった」
* * *
子供の頃はよく遊んでいてね、向日葵畑もたくさんあるところだった。秋が始まる頃に向日葵の咲く丘の上でその子とよく遊んでいたんだ。
それが、別れも言わずに高校に行ってしまい、その夏に戻ってきた時にはその子はもういなかった。いなくなってしまった。
その時ふと思い出した。
中学三年の時にいつものように向日葵畑で遊んで、そして僕はこう言ったんだ。
『僕がこの先もし何かあったとしても君は君でいてほしい』
彼女はにっこりと笑い、でもとても悲しい顔をしていた。あの時の表情が今も脳裏に残っている。結局そのあとも大した話をすることもできずに卒業してしまった。
それが今とても心残りで。一言さよならを言っておけばよかったと思っている。
でもそれを言ってしまったらもう2度と会えない気がして、逃げてきたんだ。逃げて逃げて今までこうしてきたけど、でもやっぱり向き合わないと先に進めないと思ったから、こうして戻ってきた。いや、戻っている途中なんだ。
* * *
そんな話をただただ聞いていた。
「突然こんな話をしても困るよね。ごめん」
「ううん。そんなことない」
「ところで君は何をしに行くのか聞いてもいいかな」
話題を変えようとしているのは私にも分かった。しかし
「私はね、体が弱くて、それでも自分のやりたいことをやろうと出て行った人のことを怒りに北海道に戻って来たの」
「それって……」
「うん。多分あなたのことかな。宮脇君」
そう言ってにっこりと笑った。
「いつもそうやって君は笑い、僕はどういう顔をして会ったらいいのかわからない……」
「ううん。そのままでいいんだよ。私もまさかこうして逢えるとは思ってなかった。君がいなくなってから私も居ても立っても居られなくなって勝手に飛び出してしまったの。でもこうして逢えたんだから大丈夫」
* * *
そんな話をしてたら憂がぽかーんとしていた。
私は走って通学路にある階段を昇って振り返る。
「どう? これが私のひと夏の思い出」
えいっと蹴った小石がこんこんと階段から転げ落ちて憂の横をも転がり続けていた。
それを憂がぼうっと見やりながら、我に返ったようにこちらを振り返る。
「え、何それ。初耳なんだけど。北海道出身じゃないよね。中学一緒だったよね」
我に返ってしまったので、そんな正しい事実を突き付けてくる。
「そうだっけ? あ、おーい、モモちゃんー」
横から歩いてきた竹井桃香が手を振り返してきた。
「おはよー。今日はね、憂ちゃんにいい話を持ってきたよ」
うきうきしながらまだ階段を登りきっていない憂に話かける。
「いい話?」
「旅行してたら中学の時の友達とたまたま会ったっていう話」
はっとした顔でこちらを見やる。
「それさっきまいかが話してたやつか?」
「えぇっ!? ちょっと何私より先に私の話しちゃってんの! 私のロマンを返して!」
ヤバいという顔で私はさっさと校門へ駆けていく。
「ごめんごめんちょっとかいつまんで話しただけだから、あとでまた話してよ。ね?」
「いやまてお前の話じゃなかったのかよ! なんだよあのもったいつけた話は!」
憂鬱な気分もどっかいって、また楽しい学校生活が始まりそうです。
新学期 朝凪 凜 @rin7n
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