アシンメトリー.1

槍仙プロジェクト

1.サンダーガール

登場人物

白楼閣 境谺...幻世学園高等部第二学年、樂園で二人しかいない「雷電無双」使用者のうちの一人、十年前両親を殺されており、唯一の肉親である姉は、家族を守れなかった自分の弱さを憎み幻世学園へと境谺を置いて旅立った、境谺は姉を探すことを目的としてこの学校へ入学する

リリィ・ハーミット...幻世学園高等部第二学年、生徒会長であり悪魔でもある姉を恐れ自身が悪魔だということを隠す、境谺の思いに心を打たれ姉の捜索を手伝うため協力する

プロローグ

「境谺、おはよう。今日も変わらず清々しい朝日だね。いきなりこんなこと言うのは変だと思うんだけどあなたは私の一番でたった一人の妹です。お父さんもお母さんもいなくなっちゃったけどあなたは私の一番です。そこで突然なんだけどお姉ちゃん遠くに行こうと思います!場所はあそこ!樂園で一番大きいって言われてる幻世学園だったっけ?に行きます。そこに行けば私が今まで守れなかったものも守れる気がします。境谺はもうお姉ちゃんなので私は一人でもしっかり出来ると信じていますなのであなたも私を信じてください。手紙を書くのは久しぶりなので長文になってしまいました、てへへ」

机の上にきちんと封までされていて置かれていた手紙を見て少女「白楼閣 境谺」は半ば十二歳ながら全てを察した

「やだよ...なんで行っちゃうの...やだやだ一人なんてやだよ!お姉ちゃゃゃゃん!!」


すっかり昼になり窓を反射して差し込んで教室に入り込む光。それをいま、全身で感じている一人の少女がいた

「境谺、ねぇ境谺」

「はっ!?」

「そんな堂々と昼寝してないで早く講義室行こ」

と境谺の絶対的理解者であり親友の「リリィ・ハーミット」は優しく彼女の肩をポンッと叩き起す。その時境谺の、髪が風になびきサラサラと揺れた。以外にも境谺の髪の毛が綺麗なことに気づきリリィは不思議な嬉しさを感じた。きっと学校ではこんなだからもしかしたらとも思ったが私生活がきちんとしていることに気づき感心したのだろう。

「わかったぁ、あと五分で起きるぅ」

「それ、絶対起きないフラグだからね。ていうかあと二分ちょっとで講習始まるからっ!早く!」

そんな会話をして二人はすぐさま講義室に向かう。講義室は彼女らの教室から結構な距離があるため二分では恐らく着かないと考えられる。もちろん、境谺は半寝のためリリィが手を引いていくしかない。境谺は意識が朦朧(もうろう)としてはいるもののこうやって手を引かれることはどこか懐かしい感じがしてとても心地よくなる。それもそうだろう。幼い頃、彼にはその弱く小さかった手をたった一つの年の差にも関わらず引っぱってくれた人がいたのだから。そして今その人を探しにここへ来ているのだから。

この世界は一度終わりを遂げている。これは例や比喩ではなく本当にこの世界は一度終わったのだ。今の人々の中では薄れてきているがそれは恐ろしい出来事だった。この地「樂園」はかつて「日本」と呼ばれていた。西暦2140年、その時も世界は平常運転で誰しもが平和を歌うことなくとも争いの起きないものだった。しかし、唯一この世界で危険と思われていたものが異常なまでの科学の進歩である。その科学が解明しようとしていたのがおとぎばなしや創作物の中でのみ存在を許された「魔法」である。そう、この世界は妄想の産物とされていた絶対に改名してはいけない禁忌に触れてしまったのだ。そしてあと少しというところ、人々の意志に逆らいこの世界そのものが危険と判断し全ての動植物、自然、人工物など万物のものの活動を停止させた。僅かに生き残った人々は、変わり果てた日本の景色を見てこれ以上悲劇を繰り返さないようにこの地を「樂園」と改名し、新たな一歩を踏み出すことを決心した。

それから時は流れて数十年、かつての日本の面影は残っていないものの少しずつ技術は進歩しており、人々はそれなりに幸せな日々を送れる環境を授かった。そして、再び動き出した世界にもう一つ与えられたもの。それが「魔法」という概念である。これはかつての日本で解明されていたら未来を革新的に変える出来事だったが樂園では魔法が最初からあったものとして認識されているためその事実を知るものも知ろうとするものもほとんどいないだろう

そう、この世界はそのまま皆が言う「異世界」と化したのだから。

広いミュージカルの舞台の様な大きなホール。その部屋の手前に陳列された長机へ生徒が続々と着席していく。午前には一学年がここで同じく講習をしていたため少し椅子などが乱れてはいるものの全体的に片付いており全ての生徒が集中した環境になりやすい事がよく伝わる。そして生徒達の列の最後尾では二人が疲れきった表情で列に流されていた。

「いやー、大変だったね」

「他人事みたいに...でも間に合ったから良かったね」

「リリィが飛ばなきゃ間に合わなかったなー」

「あまり翼はほかの人に見せたくなかったんだけど」

リリィは少し後悔したように頬を赤らめる

「でもモテたんじゃない?あの姿見て」

「止めてよー、決め手が翼って...どこの物好き?」

「なんか最近あるじゃんそういうジャンルが」

「ないよー」

リリィ自身この姿が嫌いという訳では無いのだが、強いて言えば自分の種族が「悪魔」だということが少し彼女自身の積極性に鎖のようなものをかけているのである。

「リリィさーん?リリィさーん?」

「っ!?はい!」

先ほどの境谺との会話からもう十分近く経とうとしていたのにリリィはずっと悪魔のことを考えていたため彼女らの担当教師である「岸田」からの注意が入りやっと意識が戻った。

「大丈夫ですか?医療室に行きますか?」

岸田は日頃からリリィが真面目で成績も優秀のため彼女がいつもと違うことよっぽどの不調だと思っているようだ。

「いえ!全然大丈夫です!」

リリィも教師に注意されることは無かったため少し焦り気味に否定する。その後う恥ずかしがりうつむく横顔を境谺は横目で眺めることしか出来なかった。

講習も終わり放課後。彼女らふたりはとある場所へ向かう。その足は歩き慣れた道を行くように早い。

それもそのはず。彼女らは学級 いや、学園全体でも相当顔が立っておりその一番の理由が彼女らの創設、所属している「超常部」でありかれこれ一年間活動してきているからである。

部室である化学準備室二の扉を疲れているのか、雑に開く境谺。

中には壁一面に紙や新聞などの記事が切り取られて貼り付けられている。

おそらくこれまで調査した学園又は付近の事件だろうか、かなりの枚数が貼られている。リリィは中心にある円形のテーブルを囲むようにして置かれたソファの一つに腰掛ける。

「はぁ」

一日が多忙過ぎたため溜まっていたストレスを溜息で吐き出すリリィ

「講習中どしたの?」

「いや、考え事が...」

すると境谺は眉を垂らしてリリィに問いかけた。

「...お姉さんのこと?」

「...うん」

「な、なんかごめんね」

「ううん!境谺のせいじゃなくてね...全部受け入れない私のせいなの」

境谺は「そんなことない」と言おうとするが、そこで扉を優しくノックする音が聞こえる。

「はーい、どうぞ!」

その声が聞こえて二秒ほど経ってからガラガラっと扉が開き一人の少女が入室する。

「失礼します」

そう、少し緊張気味に話してはいるもののしっかりと前を向いて入室する。

その少女は全てが白く清い姿をしていた。

「えーと、それじゃあお名前から」

「あっはい!」

リリィは少女がオドオドして一向に話し出さないため先に口を開いた。

「わっ私は、桐乃...桐乃 柚葉です!」

と柚葉はぎこちなくではあるもののきちんとフルネームで答える。

「二年生かな?」

境谺は一番窓側のソファから彼女のネクタイの色を見るなりにっこり笑って尋ねた。

「はい...」

「あーそれなら、敬語とか全然気にしないでいいから」

境谺はもうすぐ沈みそうな太陽を見上げて微笑みながら手をヒラヒラさせて言った。それで柚葉は安心したのか。境谺はいつもネジが外れたように脳天気な女だが他人には人一倍気を使う所をリリィは一年前にもう分かっていた。

「あっ忘れてた、それで依頼の方は?」

とリリィ。

「あのっ、実はですねその事なんですけど…」

柚葉はそう言うと自分の懐(ふところ)から一枚の手紙を取り出した。

その手紙は綺麗に真ん中で折りたたまれておりいかにもという空気を漂わせていた。

「お、青春ですかぁ?」

「こら、境谺」

手紙を見てすぐに二人共察したが先に境谺が口に出したため呆れた感じでリリィが言う。

「あのっ、見てわかる通りこれラブレターらしいんですけど。あっ!ちゃんと中も確認しましたよ!」

柚葉は自分から持ってきた依頼にも関わらず顔を真っ赤にして答えた。

「あー恥ずかしがらなくて大丈夫ですよ!私も...」

「ないでしょ、リリィ」

話のノリ的に自分も経験者の様に言おうとしていたリリィに境谺がいち早く反応し嘲笑うかの様に半笑いで指摘する。それによりよく考えたら今まで自分には全くそのような経験が無いことに気づいたリリィが柚葉と同じように顔を赤くし静止する。

「なんか今日、恥ずかしがってばっかだねー」

他人事のように言う境谺に疲れを見せながらもリリィは本題に戻る。

「それで、そのラブレターが...」

「あのですね、このラブレター名前が書いてないんですけど、もらった日からなんかいつも誰かに見られている感じですごく不安なんです…あ、いやっ!もしかしたらというか多分私の勘違いなんですけど...!すみません、なんかこんな事で来ちゃって...」

リリィは、自分のことをいつでも自重する謙虚な子なんだと涙が出るほど感心するが今はフォローが優先だと判断し、必死にフォローにまわる。しかし境谺はお構い無しに先に進める。

「ま、そういうことならお任せだね!それが超常部だから!」

「そうだね」

「ありがとうございます、私嬉しいです!」

「それじゃあ、調査は明日の放課後からだね!」

この時、まだ彼女達はこの依頼が思わぬ結果に終わることを知らなかった。

依頼から一日明けた日の放課後、境谺達は彼女に頼まれたように下校中、後ろからあとを付けることにした。

「私達は家まで見届けてあげてそれで出なかったら様子見にするらしいよ」

彼女達の学園は全寮制なので比較的安全なものの、完全とは言えない。生徒間の問題も起こるのである。境谺達第二学年の総合寮は本校舎から少し距離があるため、この様なケースの場合危険を伴う。二人は柚葉から三メートル程の距離をとり少しずつ進んでいく。

「もう少しで寮に着くね」

「うん、特に問題がなくてよかった」

二人はひそひそ声で話しながら先程から変わらない間隔で見送るつもりだった。しかし、何故か彼女は寮を過ぎていく。不思議に思いつつも黙ってついていく二人。しかし学園都市の端にある密林に入ろうとする柚葉。流石におかしく思ったのか境谺が柚葉に話しかけようと距離を詰めようとする刹那、足に衝撃が走る。

「っ!?」

謎の衝撃が走る足元を見るとよく見慣れた紫色の文様が彼女の視界にとどまった。

呪術魔法「拘束」の魔法陣である

境谺はその鎖の模様を見ながら立ち尽くしていると柚葉がこちらを向かずにこれまでとは見違えるように声を荒らげて言う。

「あーあ、疲れた。このキャラ貫くのにどんだけ体力をつかえばいいんだかねぇ」

柚葉はゆっくりと近づき話を続けようとするが状況を曖昧であるもののある程度察しの付いた境谺が先に口を開く。

「ちょっと、何のつもり?」

境谺のその質問を聞いて柚葉は予想通りのように笑を浮かべる。

「なーんだ、こんな状態でまだ分かんないんだ。やっぱ人間って馬鹿だなぁ。」

「なっ!目的は」

すると柚葉は境谺達に見せなかった鋭い牙を見せて言う。

「食べるんだよ、人間を」

樂園内で人間を食すなどという人型の生き物は一つしかないため境谺はすぐに検討がついた。

「あんた...食人(マンイーター)だったとはね」

食人は楽園で新しく発生した種族であり、通常は人間と同じ食料を摂取しているのだが。やはり彼らにとって人間は絶品でありこのように違法行為へ走ってしまう者も少なくない。

「それで、こんなことして私達をどうするつもり?」

「それはもちろん後で頂くつもりだよ...でも、とりあえずはあっちにいるうさぎちゃん達をじっくり味わってからね」

そういって柚葉の指した先には学生寮の方であった

「なっ!?」

「邪魔だったんだよねー。すぐに動きたかったんだけど、アンタらみたいな厄介なやつがいるから二週間も待っちゃった...でもこれで自由に動ける」

「あんた...こんなことしてどうなるか分かってる?」

「...あははははははは!この終わりきったこの世界で誰が私を裁くって言うんだよぉ!!」

柚葉は、それからまだ拘束状態で身動きの取れない境谺に背を向けてゆっくりと歩き始め、言い放った

「樂園はもう日本になれないんだよ」

そしてまた、歩こうとしたその時、誰かが腕をガッと掴んだ

「忘れてもらったら困るよ」

その腕は禍々しい長い爪を持ち完全な悪魔へと変わったリリィのものであった。目は鋭く瞳は真紅に染まり見るものに威圧感を与えるようだった。

「ごめんね境谺、いつ出ようか分かんなくて」

「いや、全然大丈夫だよ」

リリィは境谺が拘束魔法を受けてから物陰にみを隠し、いつ助けようかずっとタイミングを伺っていた

腕を掴まれた柚葉は食人種特有の爪を立て振り向きざまに襲ってきた

「そんなに早く食われたいのかなぁ!」

その爪をリリィは慣れた手つきで素早くかわし、柚葉の背後に回る

「残念だけど捕えさせて貰うよ...境谺っ!」

「はいよっ!」

リリィは、背後に回ると同時に境谺の拘束魔法を解除していた。大きく飛び上がった境谺は、空中で腕を構えるとそこに電撃を集中させる

「あんたの作戦、なかなか良かったけど一つ盲点があったわね」

「っ!」

境谺の手に集中した雷電は太陽のように眩い光を放っていた

「私達、物凄く強いから」

その事を聞いてリリィは少し笑みを見せその場から離れた

「シビれなさい!!」

明るい部室の窓際で、境谺は一人空を見上げる

「境谺っ」

「わっ、リリィか」

「あれから三日だね」

「まあ私達はこんなこといっぱい経験してんだけどね...あの時言っていた言葉が...」

境谺は、柚葉の言っていた樂園は日本に戻れないという言葉にずっと疑問を抱いていた

「...日本ってどんな所だったのかな?」

「うーん、今とあまり変わりは無かったと思うけど...私もよく分かんないな」

境谺もリリィも日本があった頃の人では無いため普段考えもしなかったことだった。すると部室のドアがゆっくり開く

「あ、カイド!あんた最近顔出さないから大変だったじゃない」

そこには一人の長身の男が立っていた

「いやいや悪い、別件が忙しくてな」

「どうせ、忙しいってコンパかなんかでしょ!学生の身分でえらっそーに」

カイドは超常部のメンバーであり情報収集をメインとする重要なメンバーであるが、彼自身自分のことをかなり溺愛しており少々痛いところが見える。その割、女子生徒からはかなりの好評で密かにファンクラブができている。リリィは二人のこのような状況を見ていつも通りの毎日だと、ほっとするのだった。

同日午後四時、A棟某教室にて

「準備は出来ているかしら?」

「順調に進んでいます、明日の夜には実行できるかと」

「そう」

境谺たちはこの時、まだこの学園に起きようとしている異変に気づくことが出来ていなかった

「この学園は、私達のものよ」

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アシンメトリー.1 槍仙プロジェクト @paruchizan

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