第33話 決戦 中
「な……」
秋人の変化に、竹中は思わず顔をひきつらせた。
「なんだよお前、それは……!?」
竹中が秋人を見る目は、明らかに異質な何かをみるものだ。
神気は自身を護るためにも存在している。つまり、他の後継者に対する防御の強さの指標ともなるのだ。そして、まとっている神気が強いものほどダメージを与えるにはより強い神力で攻撃しなければならない。
そんな自身を護るべきはず神気が、あろうことか宿主に牙を向け、腕に突き刺さるという事は全く想定していなかったのだろう。
秋人は、両手で夜叉髑髏を持ち替えると、
「これは警告だ。その刃を今すぐ降ろし、投降しろ。でないと斬るぞ」
そういう秋人の声色は先程までとは違い、冷酷なものが含まれていた。
髑髏神には慈悲というものはほとんどない。だからこそ、秋人もそれに感化されてしまっているのだ。
「……はっ。何を言うかと思えば……投降しろだと? そんな事に今更応じると思ってるのか?」
「ま、だろうな。だが、これで俺は心置きなくてめぇをぶっ殺せるということだ」
秋人は初めから竹中が要求に応じるとは到底思っていなかった。
しかし、できることならば戦いを避けたかった彼は、
咲夜は、2人が睨みあっている状況をただただ見ている事しかできなかった。ここで下手に自身が動いたところで、それがかえって秋人の迷惑になる可能性も十分に考えられるからだ。
秋人の変貌には驚いていた様子だったが、そこに嫌悪といったものは感じられない。
首元にぴたりと押し付けられた冷たい刃が、少しでもひかれればその瞬間死は確定。彼女を助けることができるのは、この場では秋人唯一人のみ。
そんな秋人は視線を竹中一点に集中させ、ひたすらチャンスをうかがっていた。
(チャンスは1回……。失敗すれば柊は死んでしまう)
さっきはああいって
(あの少女ならそれも容易くできるんだろうが……)
あの少女とは即ち牧瀬の事である。秋人に全く気付かれずにゼロ距離にまで近づけた彼女ならば、この状況を打破するのはそう難しくはないかもしれない。
お互いに一歩も動かないという状況が数分間続く。
このままだと痺れを切らした竹中が咲夜を殺すと言った事も考えられる。その前に何としても手を打っておきたい。
(ん……? あれは――)
――と、そこへ視界の端にダニエルがいたのを確認した秋人。
車の陰に隠れ、ちょうど竹中から見えない位置に、彼はいた。
ダニエルは車をここに突っ込んだ際の衝撃で一時的に気を失ってしまっていたのだが、どうやら目を覚ましたようだった。
とはいえ、ダニエルができることなど限られてくる。
せいぜい相手の気を逸らし、その隙に攻撃するということぐらいだろう。
(……いや、待てよ。そうだ、その方法があるんじゃないか)
秋人は、ダニエルに目配せした。
(ダニエル……一瞬だけでいい。あいつの隙を作ってくれ!!)
秋人のその言葉が彼に直接伝わることはない。視線だけを彼に向ける。しかし、髑髏の仮面を被っている以上、ダニエルにその意図が伝わることはない。
「…………」
しかし、流石は何度も修羅場をくぐってきたとだけあってか、ダニエルはすぐに状況を察すると、音をたてないように拳銃を取り出した。
そして、こちらを向いて一度多く頷いたのち大きく深呼吸した後
「竹中っ!!」
車の陰から身を乗り出し大きな声をあげたかと思うと、
――パァンッ!!
竹中に向けて発砲した。
銃弾は猛回転しながら竹中の眉間に正確にヒットし――
「いつ……」
しかし、大したダメージもなく竹中は不快そうに顔をしかませただけだ。
とはいえそのおかげで気を
「ダニエルさん……? こんなものが俺にきくと思ってるのか」
と言ったが、
「ふっ……」
ダニエルはただ不敵に笑っただけだった。
――そしてその瞬間を秋人は見逃さなかった。
「ダニエル、ナイスだッ!」
地面をバネにし、えぐれるほどに強く一歩踏み込んだ秋人は竹中に向かって直進した。
ダニエルに気を取られていた竹中は、一瞬反応が遅れる。
「しま――」
慌てて咲夜をてにかけようとしたが既に遅く、気付いた時には彼の目の前には秋人がいた。
剣を持っている竹中の腕を掴み上げると、思い切り握りしめる。
「ぐああぁっ!!!!」
竹中を覆っていた神気はガラスのように砕け落ち、続いてメキメキと骨が粉砕されるような音が鳴った。竹中は激痛に思わず持っていた刀――
秋人は、
「ぐっ……クソォ!!」
秋人から逃れようと、竹中は必死に身じろぎしつつ秋人を殴りつける。甘い仮面を被っていた以前とは程遠い、痛みで苦渋にまみれた必死な表情をしていた。
「……鎖を解除する方法は?」
「あぁ? 知るか、そんなこと――あああぁぁぁっ!!」
強く握り締めると、竹中は苦痛に喘いだ。
「今の俺は、髑髏神に精神を感化されていてな。お前の腕を潰すぐらい何とも思わない。
だから、大人しく言う事を聞かないと次はどうなるかわからんぞ。
……もういちど聞くが、鎖を解除する方法は? お前が鎖を作ったのなら、解除する方法も知っているだろう」
顔を近づけ、再度警告する。
竹中は、額に大量の汗を流しながら息を切らし、絞り出すようにしてこう言った。
「はぁ……はぁ……。こ、これだよ」
そう言うと、竹中は懐から何かを取り出そうとして――
プシュー―――ッッ!!
秋人の目に、竹中はあろうことか催涙スプレーを掛けたのである。
すぐに目を閉じて回避しようとした秋人だったが、仮面の目元に正確に発射されたためか、全てを防ぐことはできず目に入ってしまう。
「ぐっ……!!」
特殊なものを使用しているのか、少量でもその効果は絶大で、秋人は激痛に思わず竹中の手を離してしまう。
更に竹中は煙玉を使い完全に視界の自由を奪いにかかった。
「ゴホッゴホッ……! ちっ、また同じ手を……!」
煙によって遮られた視界の中、目の痛みをこらえながら必死に竹中の気配を探る。
しかし
――そこで咲夜の声が聞こえて来た。
「な、何をするの!! やめなさいっ」
それは強い拒絶の声色。竹中が彼女に何かしたのだろう。
なりふり構わず手に掛けようとしているかもしれない。
「はあああああっ!!」
秋人は夜叉髑髏を振り、その風圧により煙を完全にはらした。
これで竹中を捉えることができると、思いきや彼の姿はそこにはない。
「な――柊っ!?」
更には鎖につながれていた咲夜までもが姿を消していた。
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