第8話 髑髏神と風之神
刹那――男子生徒は懐に隠していた小刀を取り出すと、大きく振りかざす。そして小刀の軌道から一筋の風の刃が生まれ、咲夜に向けて放たれた。
風の刃は彼女の首元に吸い寄せられるかのように収束していき、首元を斬り裂こうとしていた。
おおよそ人間の目では
しかし、ただの人間である咲夜にそれを避ける術など持ち合わせていなかった。
「――――ッ!!」
まさに風の刃が当たろうかと思われた瞬間――動いていたのは――秋人だった。
時間にしてコンマ数秒。
咲夜の元に駆け寄ると、抱きかかえ、窓ガラスをぶち破って外へと飛び出す。咲夜にガラスの破片が当たらないように
その瞬間――秋人の後方を猛烈な風の刃が襲う。男子生徒がすかさず攻撃してきたのである。
それをうまく
「え、ちょ、ちょっと何!?」
突然の事に頭が追い付いていないのか、困惑を隠せない咲夜。そんな彼女に秋人は軽く息を切らしながらこう言った。
「敵だ。後一歩遅れていたら、お前木っ端微塵だったぞ」
「木っ端微塵……!?」
物騒な単語が聞こえてきたため
咲夜を抱えたまま時おり後方を振り返りながら、住宅街を右往左往に駆け回る。
「いいか、死にたくなければ今は俺のいう事を聞いてろ」
普段とは違う、少し切羽詰まった声色に、咲夜はゴクリと息を
「もしかしてあいつ後継者なの?」
「ああ……とりあえず、学園内だと他の人達も巻き込む可能性が高い。だから戦いやすい場所に誘導させてもらう」
「まさか……倒す気?」
「ああ。そうしないとお前が殺される。相手の狙いは柊、お前だ。さっきの攻撃も首元目掛けて仕掛けてきていた」
「そんな、全然気づかなかった……」
「これでわかったか? お前には護衛が必要であるという事を」
「…………」
その時、二撃目が秋人達を襲った。かなり距離を離しているのにもかかわらず、初速が速すぎるせいか風の刃は瞬時に秋人達の元へと到着する。
「ちっ……問答無用か」
それをしゃがむことで
隣に建てられていた家に電信柱がのしかかり、電線からバチバチと火花が散った。その光景に、周囲の人達は目を見開かせて驚く。
「一発でも貰ったらお
「そんな
「俺はそれなりに場数を踏んでるからな。この程度の事でビビってては護衛の仕事なんかできねえよ」
「あんた本当に高校生……?」
幸い、風の刃は
秋人は敵がどこにいるか、視線をさまよわせながら、やがて河川敷へと敵を誘導した。
そのまま川の近くにまで行くと、咲夜を降ろす。
「俺から離れるなよ」
「え、ええ……」
さっきの相手の攻撃を見ていたのか、咲夜の体は少し震えていた。普段どれだけ気丈に振舞っていても、やはり目の前で障害物が真っ二つになるところを見れば、怖がるのも無理はない。
「――――
秋人がそう叫ぶと、何もない空間から突如黒く光った円陣が現れ、そこから一本の黒く染まった禍々しい細身の刀が姿を見せた。
「ぐっ…………」
その瞬間ちくりとした痛みを感じるが、それもすぐに治まり、刀を抜く。
神気が頭部にまで届いた瞬間、メキメキという音が聞こえて来たかと思うと、秋人の顔に髑髏の仮面が覆いかぶさった。
『護衛を初めて2日目で後継者か。とことん運があるなお前は』
「ああ、俺もそう思う」
そう言って刀に話しかける秋人。
この刀――即ち
「何の神かわかるか?」
秋人が言うと、髑髏神がこう告げた。
『…………風之神だ。周囲の大気を圧縮して三日月状にすることで殺傷力をあげている。喰らえばただでは済まないぞ』
「なんだビビってるのか?」
『たわけ。あの程度の下級神に後れを取るはずがないだろう。さっさと倒してこい』
そう言ったきり髑髏神は喋らなくなった。
とはいえ下級神と言えど、あの威力。油断すれば命はない。
「こっちは命がけだっつーのに他人事だと思いやがって……」
そう悪態をつくも、髑髏神からの返事はない。
――と、そこで咲夜の視線に気が付いた。秋人を見て目を真ん丸にしている。
「あ……あんたその姿……」
「柊は俺が実際に戦うところを見るのは初めてだったな。言っておくが、お前の持ってる模造刀とは違って真刀だ。絶対に触るなよ」
「…………気付いてたのね」
視界の端からこちらに向かって歩いてくる男子生徒に気を付けながら、秋人はこういった。
「髑髏神――そいつが俺を後継者にした神だ。後で言うが、今は説明している余裕がない」
秋人が男子生徒と対峙する。
「――くひ、くひひッ……。驚いた。まさか僕のかまいたちを避けられるなんてなぁ」
口元を歪ませ、奇妙な笑みを浮かばせながら、男子生徒は一本の小刀を取り出した。そのリーチの短さに、疑心の目を向ける。
『後継者が所有する刀は持ち主の戦闘スタイルに合わせて変化する。そんなことも忘れたのか?』
「なんだよ、お前黙ったんじゃなかったのか」
『貴様が疑問に思ってたから答えてやったんだろう!!』
後継者とその神の心はリンクしているため、秋人が疑心に思ったことも筒抜けだったのである。
戦闘中にも関わらず、不毛なやり取りをかわす秋人と髑髏神。
すると、その様子を見ていた男子生徒が興味深い視線を向けていた。
「まさか君、神と会話をしてる……? 」
「あん?」
男子生徒の困惑の声に、秋人は眉をひそめる。
「僕達は本来、神とは意思疎通ができないはずだ。それなのに君は会話をしている。一体どうして…………?」
「羨ましいだろ?」
挑発するような笑みに男子生徒もまた笑いを受かべていった。
「…………くひひ!! そうだね……。確かにその通りかもねッ!!」
瞬間、男子生徒が小刀を大きく振りかざした。そこから風の刃が現れ、秋人を襲う。不意をついたつもりだったのだろうが、秋人はその風の刃を
「おい、お前何者だ? なんでこいつを狙う」
柊を庇いつつ、秋人は男子生徒を睨みつけて言った。
「そんなこと、どうして君に教えないといけないんだい?」
からかうようにして首を傾げる男子生徒。答える気は毛頭ないようだった。
「そう簡単には教えてくれねえよな……。ま、それは別にいいんだ。
ただな」
瞬間――秋人が夜叉髑髏を持ち構え、戦闘態勢に入った。
瞳が不気味に赤く光る。
「俺の主を殺そうとした罪は重いぞ」
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