おっぱいの価値=卵焼き(もしくはから揚げ)
……一人で食うのは虚しいよな。
竜神君も登校してこないし……。風邪でも引いたのかな?
「おい日向、こっちに来ねぇ?」
クラスメイトの中村が手を上げておいでおいでをした。
十人ほどのグループだ。手近な椅子を引っ張って、避けてくれたスペースに弁当を置いた。
「さんきゅな」
「なーなー、胸でかいよな。何カップ?」
いきなりのセクハラ質問か!
「E」
母ちゃんがブラジャーを買うのに測って驚いてた。
「マジで? でっけーなー。よかったな、新しい体が可愛い女の子で。しかも超ナイスバディ」
「良いわけないだろ」
「いいじゃねえかよ。見放題だしよ」
「だよな~。俺も体が女になっていいから毎日見たいぜ」
お前ら、ほんと人事だよな!
「すっげー肌白いよな。って、うっわ、この傷なんだよすげーな」
中村が俺の左手を掴んで手首を上に向けさせた。
早苗ちゃんが縦に切り付けた傷が無数に走ってる。正直、自分で見るのも怖かったりする。
「やめろよ……」
失敗したな。リストバンドでもしてくればよかった。今日帰りに買いに行こう。
「なーなー、パンツも女物履いたりしてんの?」
なーなーが口癖らしい加藤は、興味津々にスカートから伸びる足を見下ろしてきた。視線で撫でられてるみたいで、ちょっと気持ち悪い。
「なーなー、胸触らせて」
「う」
加藤が距離を詰めてきて、弁当箱ごと後ろに下がった。
「冗談やめろよ」
「いいじゃねえかよ、減るもんじゃなし。玉子焼き分けてやるからさ」
俺の胸は玉子焼きと同列レベルなんですか!?
「俺にも触らせろよ、から揚げやるからさ。憧れのEカップの感触にあやからせてくれ」
「やだよ、気色悪い」
「いいじゃねえかよ、男同士だろ」
「男だと思うなら触りたがるな」
「いいだろ」
隣に座っていた奴が、逃げ場をふさぐように俺の椅子の背もたれに腕を置く。
「――――――――!」
下から掌が迫ってきて、反射的に立ち上がった。
「あんま洒落になってねえよ。目がマジすぎだろ」
弁当の包みを鷲掴みにして、背を向けた。大学生に絡まれた時に痛感したことだけど、男たちがやたらとでかい。
もともと俺の体はでかい方だった。身長は二十センチも縮み、体重も二十五キロ近く少なくなった。そのせいで余計そう思うのかもしれないけど、怖い。
「どこで食おう……」
教室を出てトボトボとしかいえない力ない歩みで、ひとけの無い場所を探す。
あ、校舎裏のベンチなら誰も来ないよな。
靴を履き替え外へ出て裏へ周る。
誰も居ないだろうと思ってた場所に先客がいた。
クラスメイトの浅見虎太郎(あさみこたろう)だった。
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