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 子どもの内は、友のありがたさが、本当のところ、理解できなかったのだ。毎日、内面の怒りや、葛藤を乗り越える術ばかり探していた。


 自分自身のことでさえ、怪しい状態で、他人に向けられるものと言えば、その場しのぎの笑顔だけ。本物ではないと見破られても、大した傷にはならなかった。必死さの向かう場所が、本当のところ、僕には存在しなかったから。


 そういう態度をとり続けることで、無視できるものを、無視しようとしていただけ。見たくないものを、見ないで済ませ、早く大人になりたかった。『私たちのおかげで、あなたは生きていられるのだ』と、そんなことを身内に、毎夜言われ続ける自分が、嫌だった。


 たかだか、この命一つを生かすためだけに支払われるものが、僕の中にあるすべてだというのなら、生き残った末に、僕が獲得するものは何なのだ。僕は正直、それを彼らに問うてみたかった。

 

 就職を前に家を出て、僕は、ようやく家族のもとを去ったけれど、友人はそのまま、友人だった。


 不安定になった僕は、数年に渡って、自分の中に閉じこもったけれど、友人も、似たようなものだったらしい。しかしそれは、親しい人や大事な家族を失うような、そんな大変なことを経験したから、そうなったのであって、僕のような、ぼんやりとした逃避ではなかった。


 そんなことも、彼女は薄々気付いているのだろう。何もかも、きちんと応える必要はないのだと、力を抜けと、言ってくれる。


 僕は今日、彼女を前にしていると、普段抱えている怒りの感情から、自由になる自分に気付いた。こざかしい様な方便も、回りすぎる思考も、遠いものになる。



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