第11話 斎藤織田同盟
後に加納口の戦いと呼ばれる織田信秀の襲撃を最小の被害で乗り切った斉藤家稲葉山城内。
戦勝の宴となる一夜が明けて新たな局面へと状況は動き始めていた。
戦勝気分が抜けきらない中、斉藤道三は改めて家臣団を集めて今後の方針を考え始める。
「此度の戦で織田は大きな被害を被っております
織田を攻めて尾張を手中に収めるのが得策かと」
「馬鹿を言うな
国内では未だ土岐勢が虎視眈々と美濃奪還を狙っているぞ
まずは国内の安定のため土岐勢を責めるのが上策だ」
「しかし土岐を責めるとなると手を組んでいる朝倉を相手とすることになる
それだけの敵との戦いを織田が指をくわえて見ていると思うのか?」
軍議はまとまる様子を見せない。
さらに昨日の圧倒的勝利の余韻のせいもあってか、斉藤家家中の重臣達はこぞって領土拡大や早期戦争を矢継ぎ早に提案する。
「なるほど、皆の意見はわかった
今我らが考えるは織田を攻めるか土岐を攻めるかの二択というわけだな」
斉藤道三も皆の意見に耳を傾ける方針のようだ。
そしてその選択は間違いではない。
美濃国の主権を握っているとはいえ、斉藤家は国内外に敵が多い。
国内には土岐、隣国には織田、土岐の後ろ盾に朝倉。
総勢を相手にして戦えるほどの力の余裕は斉藤家にない。
敵をどこかに絞って戦うのは正しい選択である。
「・・・帰蝶、そなたはどう思う?」
斉藤道三の言葉に軍議の場がしんと静まり返る。
先の戦いでの完全勝利は濃のおかげだ。
故に彼女の発言には斉藤家家中の重臣達も無視はできず、その雰囲気は瞬く間に彼女は一目を置かれる存在となった証でもあった。
「私は・・・まずは国内の安定を目指すのが先だと考えます」
「ほぅ、ならば攻めるは織田ではなく土岐か?」
「はい」
濃の言葉に土岐攻めを進言した重臣は頷きを見せ、織田攻めを進言した重臣は表情をややしかめる。
「ですが、今すぐには動きません」
しかし次の濃の言葉に軍議の場に集まった重臣全員が一瞬眉をひそめた。
攻めるのは織田か土岐か、その二択に土岐を選んだ濃にはその選択に勝算があった。
濃が知る史実では稲葉山城を攻めてきた織田勢を辛くも撃退した後、斉藤家は国内の安定を守るために土岐と戦うことを選択する。
その裏側には苦戦を強いられた織田との戦いを避けるなどという意味合いもあったが、そもそも隣国である織田と国内にいる土岐とでは斉藤家がさらされる危険の度合いに大きな差がある。
ましてや土岐の背後には朝倉がいる。
その状態の土岐を放っておくことはどう考えても得策ではないとの判断だろう。
さらに言えば痛み分けとなった織田と斉藤はその後大きな争いを起こすことはなかったのだ。
それは一言でいえば苦手意識のようなものだと推察される。
苦戦した相手に再び戦いを挑むとなれば勝因と考えられる項目が多くなくては挑めない。
織田と斉藤は今川義元に飲み込まれるまでお互いに牽制以上のことはしなかった、その歴史が作り上げた未来からやってきた濃はその轍を踏まず、しかし新しい未来を切り開く工夫が必要となる。
濃が知る史実の中にある斉藤家の選択は国内の安定の為に織田と事を構えることを避けるというもの。
大勝か辛勝かの違いだけで歴史通りに事を運ぼうとしている。
それは織田に大勝したことにより苦手意識を持たなくなっても、それ以上に国内の安定が重要だと説くことで飲んでもらえる可能性が高いと読んだからだ。
しかし、それには準備期間が必要となる。
「土岐の背後には朝倉がいますので、朝倉が引き返すまでこちらは静観していましょう
朝倉が帰った後もしばらくは現状維持でいいかと考えます」
敵は多いより少ないに越したことはない。
よって朝倉が土岐の元を離れるまで待つということは十分理解できる。
しかしその後もしばらく現状維持とはどういうことなのか、重臣達は先の戦いでの濃の先見の明等も踏まえて何を考えているのか、その次の言葉を待っていた。
「まずは織田の襲撃により被害を受けた国内の町や村の立て直しに尽力することが大事です
国内の民衆を確実に味方につけておくことはこの上ない地盤固めです」
今急いで領土拡大に乗り出すよりも、美濃国内の覇権を握っているという現在の地位にしっかりと腰を落ち着けることが重要だと濃は説く。
「織田は先ほどの損害もあるのでしばらくは美濃へと攻め込んでくることはないでしょう
ですが油断や隙は禁物ですので最低限の備えはしておきます
あとは国内の安定の地盤となる民衆への善政を中心に据えた足場固めに力を注ぐべきだと思います」
攻めるのは後回しにして、まずは国力の向上を第一にするべきだという濃の言葉はもっともだ。
「しかし今なら織田を攻めとれる
今川と手を結べば織田を攻めるための助力も受けられる
織田を攻めとればその背後も安泰ではないか」
「それは早計かと思われます
今川も度々織田を攻めています
尾張を手中に収めようとする野心があるのでしょう
その今川と手を結んでもいつ寝首をかかれるかわかりません
今は多少の外敵に揺るがない確かな国内の安定を手に入れることに注力するべきです」
濃の力説に重臣達も異論が出て来なくなる。
しかしこの時代、少しでも選択を誤れば命はない。
そんな時代にまだ幼い少女である濃の自信満々な様子は家臣団をも圧していた。
そしてその自信は濃の頭の中にある。
現在、美濃国内を脅かす土岐一族の中心人物は織田の庇護を受ける土岐頼芸、そして朝倉の庇護を受ける土岐頼純の二人である。
加納口の戦いで土岐頼芸は現在危険な存在ではなくなる。
よって問題は朝倉の庇護を受ける土岐頼純なのだが、朝倉の大規模な支援を受けながらも土岐頼純が美濃攻略に至らなかった最大の要因、それは急病にて病没という天命であった。
現段階で土岐頼純が病没することを知っているのは濃のみ。
それを知っているからこそ、彼女は重臣達を相手取っても自信満々で自らの考えを力説できる。
なぜならその選択肢は未来に種を蒔きつつも、現在選択することができる方針の中でもっともリスクが低いからなのだった。
先の戦いで活躍した頭脳という功績、そして未来を知っているという自信。
その二つを兼ね備えた濃の意見を曲げられるものはこの軍において斉藤道三当人以外にいない。
しかしその斉藤道三は濃のことを高く評価している。
よって彼女の意見がむげにされることはない。
濃が重臣達に異論をはさませなくなった時点で、斉藤家の選択は決まったも同然であった。
「皆の異論がなければ今は地力をつけることに注力することとしよう」
斉藤道三が最後に軍議を終わらせて今後の方針が決定した。
濃の知る歴史では織田との死闘で辛勝した斉藤家はやむなく自力回復を迫られることになる。
しかし今は大した被害もなく、自力回復ではなく地力をつけるという一つ上の選択肢を選ぶことが可能になっていた。
それは濃が目指す最終目標、今川義元の天下統一を阻むのに有力な一歩となる。
その一歩が踏み出せたことに濃は大きな喜びを感じていた。
軍議が終わり自室へと引き上げようとする濃。
その彼女の前に一人の男が立ちふさがった。
「帰蝶、少しいいか?」
「これは兄上様
いかがしましたか?」
声をかけてきたのは斉藤道三の嫡男、斉藤義龍だった。
「ずいぶんと父上に気に入られているようだな」
「いえ、そのようなことはございません」
「いや、以前も帰蝶が男であれば斉藤家の跡継ぎにするとも言っていた
どうやら父上は嫡男よりも突如現れた養女の方が有能と見たようだ」
「買い被りでございます
私は人の上に立ってものを言えるような人間ではございません
それに兄上も非凡な才能をお持ちかと存じますが?」
濃のその言葉に斉藤義龍の繭は一瞬だけ動く。
しかしそれ以上の大きな反応は見られなかった。
「それこそ買い被りであろう
この身はただ斉藤家の嫡男に生まれただけに過ぎぬ」
斉藤義龍はそう言うと濃に道を譲り、そのまま濃の前から歩き去っていく。
「ただおとなしいだけの性格なのかと思いましたが・・・
想像以上に負けず嫌いなところがあるようですね」
濃は義兄となった斉藤義龍の評価と分析を改める。
体格は大きく目立つ彼だが、大きなことを構えることや大それたことにはあまりかかわらないタイプだと思っていた。
しかし彼の反応や態度や言動から、それは誤りであるという評価に落ち着いた。
物静かに見えて自信と野心が垣間見えた。
それは斎藤家の将来、斎藤道三の後継ぎとしては良いことなのかもしれない。
自信が判断した内容に数度頷き、少女は止めた足を再び進めて、当初の目的地である自室へと引き上げていった。
加納口の戦いが終わってから一か月ほどが経った頃、濃は稲葉山城内の一室で斉藤道三の二男孫四郎と三男喜平次と共に多くの書物を読んでいる時だった。
全力で稲葉山城内へと山道を走り抜けてきた伝令は城内全体に聞こえるほどの大声で急を要する一報を叫んだ。
「申し上げます!
土岐頼純が病死致しました!」
その報を聞いて喜ばない斉藤家の人間はいない。
美濃国内を脅かす土岐一族の中心人物が病死したのだ。
そしてその人物は朝倉家とのつながりが深い。
たった一人の病死で拮抗して動くに動けなかった美濃国内の情勢が大きく変わる瞬間であった。
当然二男の孫四郎と三男の喜平次もその報を聞いて斉藤家が美濃国内において圧倒的優位に立ったことがわかる。
その二人が喜ぶさまを見つつ、濃は手にしていた本をぱたりと閉じて一息つく。
「これでまた一歩・・・」
目標に確実に近づいていく。
これほど嬉しいことはない。
しかし濃はその喜びを噛みしめている暇はない。
今川義元の上洛作戦の時間はまだ近くはないとはいえいずれやってくる。
その時までできることを全てやらなければならないのだ。
そしてその最中で最も難しいのが今川家と対峙する際に戦える戦力を保有すること。
そのためには斉藤家は美濃を完全に平定し、尾張を完全に手中に収めた織田と手を結ぶのが最も効率が良い。
濃の頭の中にある理想図。
それは斉藤と織田の連合軍が尾張で今川義元を迎え撃つというもの。
斉藤家は美濃を戦場にしないという点で軍を引き出させることができる。
織田は手を結んでさえいれば援軍を尾張に送り込むことを拒否することはしないだろう。
まずはその二国が強固な関係で結ばれることが重要になる。
そのために先の軍議で濃は織田攻めを回避した。
最悪の場合、斉藤家単体であっても地固めをした稲葉山城があれば戦えるという保険を残しつつ、少しでも勝率を上げるために多くの要因を上乗せしたいがためだ。
そんな濃が最も頭を悩ませる事案。
それはついこの前戦ったばかりの織田家との和睦、そして大軍の上洛に対抗出来うるだけの強固な同盟関係の構築であった。
二男孫四郎と三男喜平次と共に部屋にいた濃。
そこに侍女が濃を呼びにやってくる。
「帰蝶様、殿がお呼びです」
「先ほどの伝令ならばここでも聞こえました
その件についてですか?」
濃はすでに斉藤家の中ではある程度名の知られた存在でもある。
重臣相手に言葉を発することができることは、斉藤家の行く末を担う一人として認識されていることになる。
その濃に声がかかったということは、土岐を相手取った何らかの行動に対する相談だと考えるのが普通である。
「いえ、私が帰蝶様を呼ぶように言われたのは伝令よりも前でしたので、殿はおそらく別件でお呼びだと思われます」
「別件?」
濃にとって現在の斉藤家が濃を必要とする事態は対土岐戦略以外に思い当たる節はない。
「はい、殿は急ぎ呼んで参れと」
「わかりました
では急ぎ向かいます」
濃は手に持っていた本を部屋の床に置き、二男孫四郎と三男喜平次を部屋に残して斉藤道三の元へと向かった。
斉藤道三が待つ部屋に着くとそこには見慣れない顔があった。
上座に座る斎藤道三と対面するように座る一人の見慣れない男。
どうやら斉藤道三は客の相手をしていたようだ。
濃は来客に深く頭を下げ、そして部屋の中へと入り腰を下ろす。
「帰蝶、急に呼び出してすまぬな
孫四郎と喜平次の様子はどうだ?」
「知識の吸収に精を出しているようです
書物は知性を磨きますので今後の成長は父上様の喜びとなるかもしれません」
「それは頼もしいな
お前と共に孫四郎と喜平次に学問を学ばせるのはやはり間違いではなかったようだな」
斉藤道三は満足げに大きな笑い声をあげる。
その間、ずっと部屋の中にいる来客は放置されたままだ。
失礼にあたるのではないかと思いつつも、道三の様子から何かあると察した濃はそのことに触れることはなかった。
そしてひとしきり斉藤道三は笑い終えると、一息ついて濃に来客を紹介する。
「この者の名は平手政秀という
織田から送られてきた使者じゃ」
「織田の・・・使者?」
濃にとって最大の悩みであった織田家との和睦と同盟。
そのチャンスが思わぬ形で舞い込んできたのだった。
織田家からやってきた使者、平手政秀は濃に深く頭を垂れて挨拶をする。
ご機嫌取りの言葉などをいくつか並べた後、その口から今回斉藤家の元へとやってきた理由を話し始めた。
「主君、織田信秀様は斉藤家との和睦を考えておいでです
その際に強固な同盟関係を築くために婚姻はいかがかと提案に参りました」
「婚姻・・・」
濃にとって予想外の展開ばかりで頭の中の整理が追い付かない。
しかしそこは鍛え上げられた頭の回転の速さが高速で処理していく。
平手政秀の言うことと、濃が知る歴史との相違などを考えた現状をできるだけ早く照らし合わせて全てを把握する。
・斉藤家は先の織田家との争いで大勝した
・織田家は斉藤家が攻めてくるかもしれない恐怖がある
・そこで斎藤家の足枷となる朝倉側の土岐の中心人物の病死で衰える
・織田家に迫る危機が増えたことで和睦の提案に使者を送った
・濃の歴史との相違点は痛み分けではなく勝敗が明確に分かれたこと
・そして本来ならいないはずの斉藤道三の娘帰蝶が存在すること
これらのことを総合的に判断すると、現在の織田の状況は想像以上に芳しくないのかもしれない。
そして織田家滅亡の危機が迫る前に仇敵であろうが宿敵であろうが、生き残るために手を結ぶことができる相手とは手を結んでおきたいという考えだろう。
濃は平手政秀の顔をまっすぐ見据える。
その顔からは真剣な様相が見て取れる。
現在の織田家の状況が使者の様子から見てとることができたことにより、濃は平手政秀にいくつか問いかけることにした。
「織田家はそこまで厳しい状況なのですか?」
「いえ、ですが先月の戦の傷は浅くはありませんな」
「国境では今川との争いがいつ起こってもおかしくない状況だと聞いています」
「争いはいつ起こってもおかしくないのがこの戦国の世でございましょう」
「平手様はこの婚姻には前向きですか?」
「はい、両家の縁談がまとまれば両国にとって利があるかと思います」
濃の問いかけに素早く対応する平手政秀。
彼の有能さはこの受け答えの速さと正確性、そして腹を割って見せているように見えて国内事情は完全には見せないという点で十分察することができる。
「どうか此度の縁談のお話、お考えいただきたく存じます」
平手政秀が濃に深々と頭を下げ、これで使者との面会は終わった。
濃にとっては渡りに船の話。
即座の返事こそ避けたが、織田家と手を結ぶことができる確証が手に入ったのはこれ以上ない幸運だ。
織田との和睦と同盟の話が来たことは濃にとってうれしい限りだ。
前向きに考える旨は伝えたが、その直接了承する返事を避けたのにはいくつか理由がある。
まずは織田家との婚姻によりどれだけのメリットとデメリットが出るかの精査が必要になることだ。
即断即決は美徳とされるかもしれないが、誤った判断をすれば命を簡単に落としてしまう時代だ。
細かい点の精査は必要である。
次に美濃国内の各地の様子を把握して危険が少ないかの確認をしておく必要があること。
美濃を離れてしまっては何かあった時に即座に手を出すことができなくなる。
濃が美濃を離れることになる時は、美濃の安全がある程度確保された状態になっている時に限る。
そして最後に自身が結婚するということだ。
「・・・まさか、元の時代ではまだ一度も上がらなかった結婚の話がこちらにきてこんなに短い期間で出てくるとは思いもよりませんでした」
戦国時代の寿命は濃が生きていた時代の寿命と比べても短い。
故に早く結婚するというのはそれほどおかしなことではない。
よってこの時代の価値観では幼いころに結婚することに抵抗がある者は少ないのだ。
しかし濃が生きていた時代の価値観はこの時代とは異なる。
さらに寿命も変わっていることから、結婚適齢期や適性年齢などがどうしても頭をよぎってしまう。
そして何より夫となる人物のことを濃は全く知らないのだ。
「ずっと国定奉公人として修業ばかりしてきてこの手の話は初めてなので恥ずかしいですね
それより結婚すると当然同衾や子作りなど・・・」
自分で言っていて自分の頬が赤くなるのがわかった。
「くっ、命を懸けると決めたはずです
今更結婚如きで何を悩んでいるのですか」
濃は自分に言い聞かせるように言うが、根本的に恥ずかしいことには変わりなかった。
濃は異性に自らの肌を見せる機会など今までなかった。
その機会がいきなり目の前にやってきて、さらに夫婦として子作りに発展し、それを回避すれば濃が望む結果につながらなくなる可能性が高くなる。
まるで悪魔の取引を持ちかけられているような気分であった。
濃に婚姻の話がきてからしばらく時が経った。
美濃国内の地盤固めは順調に進んでおり、土岐勢の援助をしていた朝倉家は年が変わり新年を迎える頃にはいったん越前へと引き返していた。
加納口の戦いを迎える頃の斉藤家とは打って変わっていい状況となっていた。
しかしその一方で織田家の状況は日増しに悪くなっていた。
斉藤家との戦いに大敗したことで織田信秀に対して反旗を翻す者が現れ、尾張国内は内戦状態に突入した。
これを何とか鎮圧するも尾張国内での争いの火種は消えることはなく、その混乱に乗じて今川が兵を差し向けるなど苦境が続いている。
さらに国境では平静状態にない織田軍と牽制策をとっていた斉藤軍が小競り合いをするなど、織田家はまさに四面楚歌状態になりつつあった。
織田家の危機的状況がかなり進んだ時、織田家は再び平手政秀を稲葉山城へと送り込んできた。
やってきた内容は考えるまでもなく婚姻による和睦と同盟を確たるものにしたいという申し出であり、その予想は見事的中した。
それどころか今回は以前とは大きく違い、内情の苦しさを隠す素振りを一切見せない。
織田の置かれた厳しい状況を言葉にして、そして助けを請うかのように婚姻同盟を申し入れる。
あえて全てをさらけ出してでもこの苦境を脱しようとしているようだった。
「・・・わかりました
此度の婚姻のお話、お受けいたします」
濃の言葉に一瞬安堵の表情を浮かべたのは平手政秀のことを見ていればわかる。
今の織田家にとって一つでも味方ができることがどれだけ救われる状況なのかということがひしひしと伝わってくる。
そんな状況の織田家と手を結ぶ必要があるのかという異論が家臣団の中にないわけではない。
しかしこの苦境の相手を救うことに強固な同盟関係という結果が存在する。
まだ美濃国内には勢いこそ衰えたものの土岐一族がいる。
それを理由に濃は全ての異論を真っ向から打ち崩し、織田家との婚姻による和睦と同盟を了承するという返事を斉藤道三が平手政秀を通して織田信秀に伝える。
これにより濃が最難関だと考えていた斉藤家と織田家の和睦と同盟が思いの外簡単に実現に至ったのだった。
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