第2話 2✖✖✖年の現状と派遣される少女(2✖✖✖年編)

はるか東にある東洋と呼ばれる地域、その東の果てにある島国、日本。

広い世界から見ればごくごく小さな島国であり、世界の主導権を握る白人国家からも程遠い場所にあるアジアの小国。

そのごくごく小さな島国に住むアジアの人種、日本人。

彼らはこの現代における白人絶対主義世界で、白人に次ぐ民族階級を得ていた。


それは圧倒的な工業力と軍事力を背景に勢力を拡大し、世界を手中に収めた彼らを近代以降急速な近代化と文明の進化速度で驚かし脅かした唯一の民族としての評価であった。

そして国家を守り存続させるために国益を捨てて臣従を選択した英断に対する褒美の様な意味もそこにはあった。


大英帝国を中心とした世界における第一位となる一等民族の地位を持つのは基本的には欧米人である。

しかし十九世紀に起こった世界大戦、さらに二十世紀に起こった欧州戦争によって、欧米諸国の中でも格付けや線引きがされていた。

二度の戦いに敗れたドイツを中心に、欧米諸国でありながら敗戦国となった国籍の者達。

彼らは戦勝国に准ずる二等民族と定められている。

それは屈辱か、はたまた寛大か、それは彼らにしかわからない。

しかし中には屈辱に思うものもいるだろう。

何故ならば、白人でもない東洋の小国の島国と同じ等級に甘んじることになるからである。


二十世紀に起こった欧州戦争は初めこそドイツの一方的な優勢であった。

しかしドイツをはじめとした欧州の一部の国々を除く世界の全てが敵とならないことが確定した瞬間、アフリカやアジアや南米などに出払っていた欧米諸国の植民地支配のための軍隊が一斉に帰還。

さらに序盤は府参戦を表明していたアメリカなども参戦し、これにより戦力差は歴然となり戦況は一変した。

世界大戦、欧州戦争の二度の大きな戦争に敗れたドイツをはじめとした敗戦国は二等民族の烙印を押されることとなる。


そして戦後は白人至上主義世界、とりわけ一等民族の絶対支配が世界を席巻した。

その時に白人達主導により国連で作り出された世界各国、世界中の全民族の等級制定制度。

世界中の民族が生まれや育ちで一生のほとんどが限定されてしまう世界が確立した。


そのような戦争も終わってから長い時が経ち、戦争の現実を知る者がいなくなる。

しかし脈々と民族等級制度は受け継がれ、一等民族生まれながらに絶対的な権力と軍事力を有した恵まれた存在となり、下等民族は生まれた瞬間から上等民族に服従するのが決められている存在となる。

そして長い年月が経って、その世界常識を誰もが当然と解釈して疑わなくなって久しい時代。

一人の少女が二等民族、日本人として生を受けた。


生まれた少女の名は『吉野濃』と名付けられる。

彼女は幼少の頃から高い学習能力を発揮し、日本国史上最年少でとある国家試験に合格して国家資格を取得した。

彼女が取得した国家資格、それは『国定奉公人』という資格である。

二等民族である日本人が首を垂れるのは基本的に一等民族となっている白人の人達のみ。

その彼らとの友好的な関係を築き、さらに自分達を売り込んで高い評価を得ることで現在の地位を最低限維持しようという、実に政治的な思惑から制定された国家資格である。


国定奉公人に必要な技量は多数の言語を専門用語まで使用可能であることから始まり、料理などの炊事から洗濯に掃除などの家事、さらに一等民族で中でもとりわけエリートとされる上流階級の人々と話して失礼のない教養と知識など多岐に渡る。

何十回と試験を受けても受からない人がいる一方、吉野濃という少女は史上最年少で一発合格を勝ち取った。

それにより彼女は国定奉公人制度導入後最高の才女として、一等民族の上流階級のもとへと奉公に出ることが決まった。


更に彼女が派遣されることが決まった一等民族の上流階級は、世界最大の支配地域を保有する大英帝国の中でもとりわけ力を持つ一族のもとであった。

政治的発言力の大きな一族で古くは名門貴族の血を受け継ぐ名家の末裔。

発言一つで下等民族数十万人の処分も可能とされるほどの力を持つ人物の家へと奉公に出る少女。

日本国の命運が彼女の働きに託されていると言っても過言ではない、それだけの危機感を持って日本国は少女を大英帝国へ派遣することを決めたのだった。

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