第54話9-5.反撃
「ソレルさんの話、伝わりましたか?」
「ええ。ありがとう、ハニー。こちらはもう準備が終わるわ」
「どうしますか?」
「ソレルの言うとおりにしましょう。駐車場側を正面として、建物の右か左に張り付いている敵を倒したら、建物の反対側に移動して敵を倒す。これで四体と一人の敵が、二体と一人まで減るからイーブンの条件になるわ。こちらの有利な点は銃弾の装填数ね。確かダネルは三発までだったはずよ」
「こちらは?」
「一〇発よ。ただし、こちらのライフルはダネルの倍近くの重さがあるけど」
「量が三倍近く違うと有利ですよね?」
「相手が一カ所に集まらなければね。志光君はモップとヘルメットを用意して」
「何をするんですか?」
「囮役よ。モップの先にヘルメットをつけて掲げるのよ」
「怖っ」
「グダグダ言わない。信川さん、モップと災害用のヘルメットと建物の見取り図をお願いするわ」
「分かりました」
信川があたふたと部屋を出て行くと、大蔵と茜も彼の後に続く。
「我々は信者の誘導を行います。後はよろしく」
中年男がそう言って姿を消す間にも、クレアと麗奈は黙々と弾倉に二〇ミリ弾を装填する。
手持ち無沙汰になった志光は、何となくウニカを見た。ところが、自動人形は何故か着ていた服を脱ぐと、陸上選手のように伸脚を開始する。
「あの、ウニカは何をしているの?」
志光が首を捻っていると、弾丸を装填し終わったクレアが立ち上がる。
「ウニカも戦うつもりなんでしょう。私達もソレルの情報を元にして作戦を変えないと」
「はい」
「私、見附さん、志光君にウニカは、地下を通って建物の前方部分に移動するわ。そこから階段を上がって、私、見附さん、志光君は一階、ウニカは三階に移動します」
「はい」
「準備ができたら、志光君にはモップの先端にヘルメットをくくりつけて、廊下の窓から出して囮役をやってもらうわ。もしも敵が狙撃してきたら、私と見附さんが断続的に撃ち返すのよ」
「それで、相手を倒すんですか?」
「まさか。相手は十分に対策を練っているでしょう。だから、この銃撃戦は相手の位置を特定するための罠よ。私達と敵が撃ち合っている間に、ウニカが敵の位置を正確に判断して、攻撃をかけるのが狙いよ。そうね……こちらの銃声が六発聞こえたら攻撃を始めて欲しいわ」
「……」
ウニカは横目で志光を見た。少年はクレアの作戦に同意する。
「ウニカ。作戦が始まったら、敵の攻撃を避けつつ三階で待機。クレアさん達が弾丸を六発撃つまでに、敵の位置を把握して上から攻撃してくれ」
「…………」
自動人形は少年の命令に深く頷き、片手を差し出した。すると、彼女の意を汲んだ麗奈が、自分用にとっておいたRKG-3を渡す。
「どうぞ」
対戦車手榴弾を受け取った自動人形は、安全ピンを抜く動作をして見せた。
「合ってます」
ポニーテールの少女は親指を立て、RKG-3の作動方法が正しい事を保証する。そこに息を切らした周が駆け込んできた。彼の手にはモップと防災用の黄色いヘルメット、そして建物の見取り図が握られている。
「持ってきました」
「ありがとう。志光君に渡して」
クレアから指示された老人は、持ってきた道具類を志光に手渡した。
「ありがとうございます」
少年は周に礼を述べ、ヘルメットの顎紐をモップのT字部分に巻き付ける。
「できました」
「じゃあ、行きましょう。志光君はアモカンも持ってね」
「はい」
クレア、麗奈、志光、ウニカは、準備が整うや否や白髪の老人に見送られつつ、教祖用の寝室を後にした。通路の奥からはざわめきが聞こえてくる。どうやら避難は順調に進んでいるらしい。
クレアは彼らを避けるように廊下を歩き、やがて人気の無い階段に辿り着いた。彼女はそこで立ち止まると、残りの二名と一体に語りかける。
「ここは集会場に通じる一般信徒用の階段よ。昇ると一階の廊下に着くわ。廊下はガラス張りで、外から丸見えだから気をつけて。ウニカはそのまま上へ行って頂戴」
背の高い女性の言葉に全員が頷くと、彼女は移動を再開した。階段の踊り場あたりまで来ると、陽光が差し込んできているのが見える。
「志光君。囮を出して」
「はい」
クレアの命令を聞いた志光はアモカンを踊り場に置き、見取り図を見て自分のいる場所を確かめてからヘルメットつけたモップを掲げ、ゆっくりと階段を上った。やがて彼は緊張した面持ちで足を止め、日の光が当たる位置までヘルメットを上げる。
その状態で数秒経つと、轟音と共に黄色いかぶり物が粉々になった。狙撃だ。
志光は銃弾の衝撃でモップを取り落とした。そこにウニカが現れると、ピンを抜いた対戦車手榴弾を投擲する。
廊下のガラス窓に当たったRKG-3は爆発し、炎と白煙を噴き上げた。その隙に自動人形は階段を駆け上がる。
「今よ!」
クレアも狙撃されないギリギリの位置まで上がると、廊下に対戦車ライフルを置き、当てずっぽうで引き金を引いた。麗奈が彼女の後に続き、少し離れた場所にラハティを設置する。
銃撃された敵も、ひるむこと無く撃ち返してきた。頭を下げた志光は階段を降り、アモカンを拾ってクレアの近くに置く。
二人の女性の射撃数が合計で六発になると、雨のように割れたガラスが落ちてきた。恐らくウニカが窓から飛び出したのだ。
志光は狙撃されづらい位置でその様子を見ると、腰袋に手を入れ、中からドリルビットに偽装したタングステン弾を取りだした。麗奈とクレアは射撃を止める。
沈黙が訪れる中、少年は両手に視線を落としつつ、指先の感触に意識を向けた。彼の両手が青く輝き出すと、対戦車手榴弾が破壊した窓からウニカが姿を現した。自動人形は片手に金髪のカツラを持っている。
「それが戦利品? 魔物は倒したの?」
階段を降りてきたウニカに対して、クレアが問いかけた。
「……」
踊り場に降りてきた自動人形は小さく頷き人工的な髪の毛を放り出す。
「ありがとう、ウニカ」
志光はウニカに近寄ると頭を下げた。しかし、彼女は首を振り、反対側の廊下があるはずの場所を指で示す。
「行きましょう!」
自動人形の意図を察したクレアが立ち上がった。麗奈も銃を構えたまま廊下まで階段を駆け上がる。
志光もアモカンを拾うと彼女達の後を追った。三人と一体は集会場の扉を開き、舞台の前を横切って、反対側の廊下に移動しようとする。
ところが、その途中で向かい側の扉が開かれた。そこには、奇妙な容姿をした白人男性が立っている。
男の上半身と下半身は真逆の方向を向いていた。しかも深く膝を曲げているせいで、その形状が鳥類の脚に見える。
マネキンのように整った顔立ちをした男は、両手に大型のライフルを抱えていた。おそらく魔物だ。最初に出会ったタイプがカニ男だとすれば、今度の相手は鶏男と言うべきだろうか? いずれにせよ、低い姿勢で銃を構えられる格好なのは間違いない。
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