第24話4-3.全体会議
それに比べると、五人目の少女は世間から縁遠い感じがする。年齢は十代前半ぐらいだろう。身長は低い。ウニカほどではないが、150センチもないはずだ。
身につけているのは茶色いメイド服で、スカートにこれでもかというほどドレープが入っている。眼鏡をかけているのも印象的だ。悪魔化した時に、視力を矯正しなかったのだろうか?
メイド服の少女は〝過書町〟と書かれている卓上用名札のある場所に座った。麻衣からは聞いたことが無い名前だ。
背の低い少女の次に現れたのは、彼女と正反対の女性だった。恐らく上背はクレアを超えている。ただし、クレアと違って体が分厚く筋肉質で、一見するとプロレスラーにスイカのような巨大な乳房をくっつけた感じだ。
ピンク色のスポーツブラにショーツという姿だが、色気は微塵も感じない。首から白いタオルがぶら下がっているせいだろうか?
熊のような体格をした女性は志光を見るとにやっと笑ってから〝大工沢〟と書かれている卓上用名札のある場所に座った。麻衣から聞いている名前だ。
最後にバーベルシャフトを改造した槍を持った麗奈が現れると、執務室を見回して異常が無いかどうかを確認した上で段を上って志光の傍らに立った。
どうやら、これで会議の準備が済んだらしい。麻衣の話によると、魔界日本の重要人物は十人を超えるという話だったが、この会議に現れたのは六人。麻衣と麗奈を合わせても八人だ。恐らく、何人かは会議に呼ばれなかったのか、あるいは来るのを拒否しているのだろう。
「そろそろ始めるよ」
麗奈と目で合図を交わした麻衣が演説台に立った。彼女は壇上から参加者一人一人に視線を送りながら、ゆっくりと噛んで含めるような口調でしゃべり出す。
「全体会議を開始する。みんな、よく集まってくれた。残念ながら、今回の会議に配松と湯崎の二名が参加しない旨を私に伝えてきた。二人の仕事を考えると本来は参加すべきなんだが、性格的にこういうピリピリしそうな場は好きではないって事なんだろう」
赤毛の女性はそこで言葉を区切り、もう一度参加者を見回した。
「本日の議題は、前棟梁である地頭方一郎氏の後継問題だ。一郎氏は一年前に失踪し、魔界の慣例に従って一週間前に死亡したと断定された。その間に、我々は様々な不利益を被った。特に喫緊の課題となっているのは、東京都豊島区池袋につながっているゲートがある島、通称〝池袋島〟を白誇連合に占拠されていることにある。白誇連合は白人優位を唱える集団で、彼らが日本国内に直結するゲートを保持するのは我々にとって非常に厄介な事態だ。早急に取り返したい。そこで……」
魔界日本の現状を説明し終えるた麻衣は、彼女の斜め後ろに座っている志光を手で指し示した。
「一郎氏の遺言に基づき、新棟梁としてご子息の地頭方志光氏を迎え、我々の体制を立て直したいというのがアタシの提案だ。志光氏は半日ほど前に悪魔化したばかりだが、既に白誇連合が送り込んだ魔物を二体倒している。ビギナーとしてはまずまずの成績だと思う。また、彼には一郎氏の遺言執行人としてアソシエーションから派遣されたクレア・バーンスタイン氏がサポートする事になっている。クレア氏の仕事は、志光氏のアドバイザー兼、アソシエーションに加盟している他国との調整になる」
麻衣がクレアを紹介すると、参加者の間から拍手が上がった。志光はその音を聞きながら、隣の女性が魔界では尊敬される対象なのだと実感する。
「以上がアタシからの簡単な説明だ。これから質疑応答に入りたい。質問がある者は挙手して欲しい」
麻衣が質疑応答の開始を告げると、出席者は互いに顔を見合わせた。それから十数秒後に、ヨレヨレのスーツを着た中年男性が手を上げる。
「大蔵君か。どうぞ」
赤毛の女性に指名された大蔵は椅子から立ち上がって質問する。
「我々に対する事前説明では、地頭方志光氏は十八歳と言うことでしたが、間違いありませんか?」
「間違いない」
「人間世界では高校三年生か大学一年生だ。彼には一体どんな経験やスキルがあるんですか?」
「現実世界の高校三年生や大学一年生と同じ程度だろう。志光氏は本を読むのが趣味と仰っておられるので、同年代に比べれば多少は知識が多いかも知れない」
「それは結構だが、要するに志光氏には社会人として何の経験もなければ、国家認定レベルの資格もない、ということじゃないんですかね? ここの組織が小所帯だとしても、いきなりトップを任すのはおかしな話じゃありませんか?」
志光は平静を装って大蔵の話に耳を傾けた。予想通り、この男は自分の経験の無さを批判し始めた。残念だが、彼の言い分は筋が通っている。
大企業が十八歳未満の未成年をいきなり社長に抜擢することがあるだろうか? 親族経営で父親の後を息子が継ぐケースですら、最初の数年は下っ端として使って会社の仕事を習わせるのが通例だと聞いたことがある。
もちろん、未成年のスポーツ選手がレギュラーとして抜擢されることはある。しかし、それは中学や高校の大会で飛び抜けた成績を上げるなど、選ばれるだけの結果を残している場合だけだ。
自分には他人に己の価値を証明できる客観的な証拠が無い。全くないのだ。同じ学校の生徒とは折り合いが悪かったし、まともに部活動もやっていなかったのだから当然だろう。
本当は、自分に才能があると大蔵に言ってやりたい。根拠など無いが、お前が理解できないだけで、秘めた資質があるのだと宣言したい。
だが、そんなことをしたら物笑いの種になるだけだ。単行本を一冊も出したことがない漫画家や作家、公式戦に出場したことがない自称スポーツ選手を、一体誰が認めてくれるのだろう?
我慢だ。ここで感情的にならず大蔵の言い分を認め、協力して欲しいと「お願い」した方が確実に良い結果が出る。
志光は下を向いて中年男の正論をやり過ごそうとした。ところが、彼の矛先は少年から麻衣へと向きを変える。
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