第4話 遠い昔の話

 高木 心

それが私の名前だ…

心って言う名前の由来は知らないけれど、私には似合わない名前だと思う。


誰にも親切にできないし、要らないし。

そんな私を見つけてくれたあの子はみんなに人気で私と正反対。

なのに私と こんなに汚い私と居てくれる。

嬉しいけれど、どうしても何か裏があるのではないかと感じてしまう。


 あの子の周りにはいっぱい人がいて、

友達だっていっぱいいっぱい作れるはずなのに、なぜか私といつも一緒に居ようとする。

なぜだと聞いても笑顔で「秘密」と言うだけなのだ。


 いつだって私と一緒にいる人なんていなくて…

避けられるだけなのに。


でも、裏があっても嬉しいものはうれしかった。

あの子は悲しそうに大丈夫?と言うもんだから私はこう言う。


「幸せだよ。私は、今一番幸せだから 気にしないで。」と

あの子は日に日に増えていく私の腕や体の痣や傷を見て顔をしかめた。

あの子は何か言おうとしたけど、私は聞かずに階段を下りた。

今日は陽炎が見える熱い暑い日だった


階段を下りると、小さな笑い声が聞こえてきた。

みんなの目線が痛い。

私は居たたまれなくなり目線を下に移した。

そこにはとても細く、あざだらけの腕が見えて鳥肌が立った。

大きい鏡を見てみると頬はこけていて見て居られない。


 でもそれは私のせいだから仕方ないと思う。

お母さんを怒らせたから。

お父さんが死んでしまってから、お母さんは変わってしまった。


それでも、お母さんには私しかいないから

それに私が笑っていたらいつか いつかお母さんも…

心から笑ってくれるかな。


 だから、私は笑顔で言うのだ。

「幸せだよ。私は、今一番幸せだから 気にしないで。」

そう、仕合せ[[rb:仕合せ > しあわせ]]。

仕合せが悪かった。

私が生まれたのが悪かった。

そう思うと涙が毎回こみあげてくるのだった。


 死んだ方がましだってことは分かっているけど、お母さんや学校に最後の希望を置いていたりする私がいてなかなか踏み切れない。

「一緒に帰ろう。」

急に話しかけられてびっくりしたが、嬉しさが込み上げてきた。

「うん」



 2人での下校は本当に久しぶりで何を話せばいいか戸惑った。

「勉強 どう?」

考えているとそう質問された。

「まぁまぁだよ、そっちは?」

「私理科が心配…

あと少しで定期テストでしょ、また1位にならなきゃお母さんに怒られちゃう。」


 あの子は良いな。

お母さんがやさしくて。

「向日葵ちゃんは頭良くていいな、いつも1位じゃない。」

そう言って空を見上げるとまぶしい太陽と青空に少しさびしくなった。


 もう1年か。

___お父さんたちが亡くなってから。


 あれは8月のことだった。

海水浴に家族で行った。

私とお母さんは左側に

お父さんと14歳だったお兄ちゃんは右側に座っていた。

「あぁ~眠いな…」

お父さんが嘆く。


 「ちょっと、気をつけてね~」

お母さんが笑う。

隣を見るとお兄ちゃんが起きたところだった。

「うぅん?今どこまで行った?」

眠いためかいつもより低い声でしゃべったため私たちは笑いに包まれた。

「ねぇ、お父さん」


 私が話しかけた瞬間のことだった。

「「キっキー!!」」

車のタイヤがこすれ叫んでいる。

横を見ると車が突っ込んできている。


 バンッッ 

大きい音が聞こえたのち私は気を失った。

次起きたのは救急車のサイレンでだった。

ゆっくり目を開けるとそこは地獄絵図の様だった。

バンパーはひどくゆがみ、ガラスは飛び散り血にあふれていた。


 横を見るとお兄ちゃんはぐったりしていた。

理由は頭に刺さった太く大きいガラスのせいだろう。

「お兄ちゃん、お兄ちゃん…」

自分の出した声がいつもと全く違く聞こえてこれは夢なんじゃないかと何度も疑ったが

そのたびに血の匂いだと思われる異臭が漂ってくる。


 なんでなんでなんで…

少しの希望を求めお父さんにすがるが

もう息は無かった。

お父さんは一番衝撃がひどかったようで顔をひどくゆがませていた。


 恐怖とともにひどい罪悪感が襲ってきた。

私が話しかけなければこんなことにはならなかったと。

バンと言うドアを開ける音に振り向くと救急隊員が大丈夫ですかと言っている。

急に涙が止まらなくなった。

私は病院に連れて行かれ生き残ったのは私とお母さんだけだと告げられた。


 数日たちお母さんに再開するとお母さんの目は冷たかった。

「お前のせいだ」

そう言われた気がした。



 道を抜けるともう私の小さい家が見えてくる。

その近くには向日葵ちゃんの家が見える。


 家がきれいでいいな…

お母さんが死ぬ気で私を育ててくれていることは知っているが、

お父さんたちと住んでいたあの大きな家がどうしても忘れられないのだ。


 「あっ、そういえば私桜ちゃんに東京に遊びに行こうって誘われてるのだけど、心ちゃんも行く?」

「えっ?」

急なお誘いに胸を弾ませるが、お母さんに聞いてみないと…

「お母さんに聞いてくる」


 私は自分の汚らしいアパートに駆け出した。

「お母さん!」

私が呼ぶとお母さんは低い声で「なに」と言った。

「私、今度の休日に友達と東京に行きたいのだけれど…」

次の瞬間その場の空気が凍りついたのが馬鹿な私でも良く分かった。

「お母さんが毎日死ぬ気で頑張って貯めた貯金をお前は…

「「ふざけるな!!」」


 次の瞬間目の前が真っ白になった。

唯一覚えているのは二階から見た向日葵ちゃんの絶望した顔と鈍い痛みだけ。

次に起きた時見たのは雨にぬれる錆びた屋根だった。

階段の下を見ても向日葵ちゃんはいない。


 何時間も雨に打たれた私の体は芯から冷え切っていて、涙があふれてくる。

腕を見るとさっき殴られたため出来たと思われる痛々しい痣が出来ていた。

でもその痣よりも心がずきずき痛んでたまらない。


 こんなことがあったのであっちも家に入れたくないらしく

リュックやら教科書、制服が無造作に捨てられている。

私はリュックを持ち上げ土砂降りの中歩き始めた。

しばらく歩いていると誰も使っていなさそうな大きい倉庫を見つけた。

「蜘蛛の巣が張ってるけど、住めなくはなさそう。」

私はここに住むことに決めた。


 

 私は日に日に痩せてきた。

友達は前以上に減って、いじめが始まった。

朝行くと下駄箱の靴の中にすごい量の画鋲が入っていたり、自分の机に落書きがされていたり、

私が見ていない隙に筆箱が捨てられていたり…


 どんどん、いじめはエスカレートしていった。

頭から水をかけられたり、ジャージがびりびりに破られていたり。

先生も気づいているが、給食費を払わない私の家庭のことがやっぱり気に食わないようで

見て見ぬふりをしているようだ。


 向日葵ちゃんもこのごろは私と目を合わせないようにしたりと避けているようだ。

でも、向日葵ちゃんは全然悪くないし、こうしないと向日葵ちゃんもいじめられかけないからだ。

だから私は逆に良かったと思った。


 だれかを巻き添えには絶対にしたくない。

それよりは私一人が犠牲になった方が良い。

でも、これ以上は…

毎日毎日辛くて苦しくて。

この前大きい倉庫の借りている人が来て、私を家に戻したのだ。

それでまたお母さんと暮らす毎日が戻ってきた。


 もう、心も体も終わりに近くて痛くて怖くて。

____終わりにしようかな。



 明日の朝…





 私はいつもより早く起き、お母さんを起こさないように学校に行った。

別に学校で死にたいわけではないけど、ほんのちょっとだけ学校に復讐したかったりもするのだ。

荷物を落書きのひどい自分の机に置き最後の教室を見渡す。

いつもの痛い目線がない教室は怖いぐらい静かで、でもすごく居やすくて。


 私の目に一つの机がとまった。

向日葵ちゃん…

これまでいろいろ誘ってくれたりしたし、仲良くしてくれていた。

私が世界で一番幸せになってほしい人。

 さようなら



 私はゆっくり上に上がる。

屋上のドアを開けると蒸し暑い空気が入ってくる。

今日には合わないほどの青空と太陽に少し罪悪感がある。

どうせなら雨だったらよかったのに。

こんな気持ちの良い日にいろんな人の気持ちを悪くさせて、テレビの餌食に会うのだろう。


 ごめんなさい

でも、どうせ死ぬのなら…

最後にあなたたちを困らせたい。

最後に逆襲したい。


 お母さんも私を育ててくれたのはありがたいけど、でも正直

嫌いだ、

みんな嫌いだ。

正直言うと向日葵ちゃんも嫌いだ。

私を助けてくれなかったから。

嫌いだ。


 でも、向日葵ちゃんだけだよ。

私がまだ死にたくないってほんのちょっと思わせてくれたのは…

「「心ちゃん」」


 でも、ごめん

「私は  幸せだったよ…」


























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貴方にこの命を 柴犬&モナカ @shelliemay_nakayoshi

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