第24話 シス・ペイロス遠征 3章 巫女3

 セシエ公が冷たく神官長と巫女長を見た。


「訊きたいことはいくつもあるが、先ず、巫女どもはなぜアラクノイのレーザー銃を使えた?それになぜ死んだ?」


 聞き慣れぬ言葉にシュラシアが首をかしげた。すぐに思い至ったように、


「レーザー銃とは雷光を撃つ武器のことでしょうか?」


 と訊き返した。


「そうだ」

「フリンギテ族の中で巫女だけが雷光を撃てます」


 どこか自慢そうに胸を張るような感じで巫女長が答えた。


「しかし、雷光を撃つのは命と引き替えです」

「命と引き替え?」

「はい、命を削りながら撃ちます。そして撃ち始めると自分の意思では止めることが出来ません。命が尽きるまで撃ち続けます」

 

カバイジオスがびっくりしたような顔でシュラシアを見た。


「そんな!そんなことは言わなかったではないか。雷光を撃てば死ぬなんて私は知らなかったぞ」


 シュラシアがカバイジオスの方に顔を向けた。無知を憐れむような表情があった。


「巫女には巫女だけに伝わる伝承があるのです。特に巫女は直接にキワバデス様とつながっているのですから。キワバデス様の言葉を直接聞き、その力を感じることができるのです。信仰の階梯において神官の方が上だというのはあなたたちの思い込みに過ぎません」

「そんな!しかし巫女達が死んでしまうのならこんなことは命じなかった」

「あなたに命じられたから雷光を撃ったと思っているのですか?」

「違うのか?私は確かにそう命じたぞ」


 シュラシアとカバイジオスの口論になりそうなところにセシエ公が口を挟んだ。


「巫女長、死ぬと分かっていてなぜ雷光を撃たせた?」


 シュラシアがセシエ公の方に向き直った。


「キワバデス神殿はもう終わりだったのです。キワバデス様と巫女のつながりは年々希薄になっていました。以前は巫女になったらすぐにつながりを感じることが出来たのに、近頃は最年長の私でさえ、ときにつながりが切れてしまいます。若い巫女の中には可哀相に一度もつながりを感じられなかった者もいます。おそらくはキワバデス様がだんだんと遠くの世界に移られているのか、弱られているのかどちらかでしょう。特に今回アラクノイ達がこの地に来てキワバデス様がシス・ペイロスを、そして私たちをお見捨てになったことがはっきり分かったのです」


 カバイジオスが激高した。


「なぜだ?アラクノイ様はキワバデス神の眷属だぞ。アラクノイ様が顕現されたことがなぜ見捨てられたことになる?」 


 シュラシアがカバイジオスを見た。完全に憐れむ視線だった。


「神官には分からない。巫女なら分かります。あのアラクノイ達はキワバデス神とのつながりが完全に切れていました。キワバデス神の制御を受けていなかったのです。だからセシエ公を暗殺しようなどという行動に出ることができたのです。キワバデス神ご自身とは何の関係もない行動に」


 カバイジオスが目を見開いた。わなわなと震える指でシュラシアを指しながら、


「そんな!そんなことは一言も言わなかったではないか!我々をだましたのか?」


 シュラシアはむしろ悲しそうに、


「言えば信じてくれましたか?アラクノイがこれまでになく多数顕現したと単純に喜んでいたあなたたちが、そう言われて信じましたか?」


 カバイジオスがうっと詰まった。確かに信じなかっただろう、そんなことは。


「私たちの作ったアラクノイがキワバデス神とのつながりを切られている。見捨てられたと考えるしかありません」

「キワバデス神は私たちに約束の地を与えるとおっしゃった。そうではないか?」


 巫女長の顔がくしゃっとゆがんだ。初めて感情を表に出した顔で、


「あなたは、・・・あなたはたとえば可愛がっている犬と何か約束をして、何があってもその約束を守りますか?あなたの都合で約束を破っても、多少の後ろめたさはあっても、余り気に掛けないでしょう?そうではありませんか?」

「我々はキワバデス様にとっては、可愛がっている犬にすぎないと、そう言うのか?」

「可愛がっていただいただけ、ありがたいと思わなければなりません。私たちにとってはキワバデス神が唯一の神であっても、キワバデス神にとっては私たちは唯一の民ではなかったのです」


 シュラシアが真っ正面からセシエ公に向き直った。


「ですから、雷光を撃つように巫女たちに言ったのです」

「神に見捨てられたら死ぬのか」

「外の方たちにはばかばかしく思われるでしょう。でも私たちは、キワバデス神の巫女たちは、キワバデス神とのつながりが切れれば生きてはいけないのです。ですから最後に、キワバデス神から与えられていながら今まで一度も使ったことのない『雷光を撃つ』という技を使ってみたかったのです。それで死んでも本望だと、皆が思っていました。私を含めて」

「なぜお前は使わなかったのだ?」

「年を取り過ぎていました。雷光を撃つには私の命の力が足りませんでした。逝き遅れました。どうかこの婆を皆のところに送ってください。伏してお願い申し上げます」


 最後は泣き声に近かった。シュラシアは膝を突き、上体を投げ出した。


「ほかに訊くこともないようだ。お前たちはお前たちの都合で我々を迎え撃ったと言うことだな。もうよい、連れていけ」


 セシエ公が命じた。


「処分は後で決める」


 直衛隊の兵が二人を連れて行った。シュラシアは二人の兵に両腕を取られて引きずるように連れて行かれ、カバイジオスは呆然とした表情のままふらふらと兵士に付いていった。











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