第15話 バルダッシュ攻防 3章 二回目の戦い 3

 代官館の門前の広場から三つの門へ広い道が付いている。隊列は真っ直ぐに東門に向かって急いだ。この前の戦闘の後がまだ片づけられずに残っていた。破壊された建物の残骸、腐乱の始まった死体、壊れた武器、瓦礫の山が馬車の通行を妨げた。フリンギテ族の幹部達は懸命に速度を上げようとしたが、彼らの思い通りにはならなかった。馬車の通れる隙間を作ってゆっくりと通らないと、瓦礫に乗り上げて乱暴に揺すられる馬車からは、荷が落ちてしまうのだ。巨大獣がその体と肢で瓦礫を押しのけ、そうやって作った通路を馬車ができるだけの速度を出して進んでいった。


 そのときセシエ公の軍は既にバルダッシュに入っていた。門の外を埋めている大軍は陽動だった。囲んでいるのはアペロニアとマンディブローから動員された一般兵が主で、サヴィニアーノの親衛隊から選抜された精鋭三千人は、鉄砲を持って夜のうちに町中に入り、まだ残っている建物に潜んでいた。マギオの民に先導されての侵入だった。サヴィニアーノには敵が西に向かうか、東に向かうか分からなかった。だから三千の兵を二つに分けて、それぞれの門に通じる道沿いに配置していた。西門に通じる道に配置した部隊の指揮は自分が執り、東門に通じる道の指揮はザナガンに命じていた。西の指揮を自分で執ることにしたのは、西に向かう可能性の方が高いと思ったからだし、やつらが西に―ランドベリの方角に―向かった方が、重大な結果に結びつくと考えた所為だった。戦闘が起こったら全部隊がその場に駆けつけるように命令していた。


 フリンギテ族の隊列は、町の東側に配置された千五百の兵の潜んでいる辺りへさしかかった。ザナガンの周りに直属の二十人ほどの鉄砲隊がいる。彼らが火蓋を切るのを合図に、一斉射をするように命じてあった。目の前を通っていく巨大獣、その背に乗ってレーザー銃、レーザー砲を構えているアラクノイを見ながら、ザナガンはごくりと唾を呑んだ。

 ザナガンの手が上がった。手を振り下ろすと撃て!の合図になる。まさに手を振り下ろそうとした瞬間、巨大獣の背に乗っていたアラクノイがレーザー銃とレーザー砲を周囲の建物に向かって乱射し始めた。空から見張っていた翼獣に乗ったアラクノイが屋根に潜んでいるセシエ公の兵を見つけたのだ。

 レーザー砲の最初の一撃が偶然、ザナガンの潜んでいた建物に向かって放たれた。ザナガンと直属の兵はレーザー砲に建物ごと吹き飛ばされた。

 だが、撃て!の命令は必要なかった。一瞬遅れて、建物や屋根に隠れていた鉄砲隊の鉄砲が一斉に火を噴いた。アラクノイの方が先手を取ったと言っても、数が違いすぎた。千五百丁の鉄砲のほとんどが生き残っていた。


 アラクノイを狙えという命令は忠実に守られた。銃声が収まった後、巨大獣の背に乗っていた六匹のアラクノイは全て、銃弾を受けて倒れていた。そして巨大獣の背にとまっていた四匹の翼獣もそれぞれ何十発もの銃弾に蜂の巣になっていた。

 二匹の巨大獣がいきなり咆哮した。バォオオ~ンと聞こえる咆哮が町中に響いた。そして、巨大獣はその前肢をむちゃくちゃに振り回しながら、暴れ始めた。操縦者のアラクノイを失い、致命傷にはならないといえ、無数の銃弾を体に受けた痛みに激怒していた。前肢が当たると頑丈な石造りの建物でさえ、簡単に崩れ落ちた。アラクノイのコントロールから外れた巨大獣は、フリンギテ族とセシエ公の軍の区別をしなかった。フリンギテ族の戦闘員達を踏みつぶし、セシエ公の兵が隠れている建物を崩壊させ、巨大獣は荒れ狂った。二匹の巨大獣のうち、大きい方の巨大獣は東の門に向かって駆け、小さい方の巨大獣がその場で暴れ回った。感覚柄をつぶされていたので、操縦者のアラクノイを失えば大きい方の巨大獣の行動がわからず、付いていくこともできなかったからだ。

 二匹の中では小さいとはいっても胴の高さは大人の背丈の四倍はあり、振り回す前肢は次々に建物を崩壊させた。瓦礫が雨のようにセシエ公の軍、フリンギテの戦士達に区別なく降り注いだ。

 逃げ腰になりそうな所を、セシエ公が見ているというそれだけでセシエ公の兵達は踏ん張った。彼らは荒れ狂う巨大獣に構わず、隊列が乱れ、命令系統が混乱したフリンギテ族に襲いかかった。そしてまさにそのときに、西側に配置されていたサヴィニアーノに指揮された部隊が到着し、ザナガンの部隊の生き残りに合流した。フリンギテ族の周りに分厚くセシエ公の軍兵が群がり、たちまちフリンギテ族の戦士達を飲み込んでいった。

 

 セシエ公は北の門の外に待機していた。サヴィニアーノの隊と一緒にバルダッシュに入ろうとするのを、サヴィニアーノ、ザナガン達が必死に止めたのだ。セシエ公はしぶしぶその説得を受け入れ、市外にとどまった。ウルバヌスもその配下のマギオの民をバルダッシュに入れながら、自分はセシエ公の側にとどまっていた。


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