第15話 バルダッシュ攻防 2章 動員 2
セシエ公が言葉を継いだ。
「だからこの次はおまえ達の出番だが、いままでのようなことを繰り返してもどうしようもない」
セシエ公の親衛隊はもう一隊あるが、セネギナウスに率いられるその親衛隊はセシエ公の勢力範囲の西の守りからはずすわけにはいかない。セネギナウスはヴァドマリウス伯爵、ネセロ子爵と二つも油断ならない敵対勢力に対峙していた。タナイズス川の戦いの時に、カーナヴォン侯爵のついでにヴァドマリウス伯爵もつぶしておくべきだったかと思ったこともあったが、今更どうしようもないことだった。
セシエ公の言葉にサヴィニアーノも、ザナガン、アグマッシュも頷いた。
「ラディエヌスは野戦で、ファッロは市街戦でやられた。今のところやつらに対して有効な戦い方ができていない。ウルバヌスには考えがあるようだが・」
セシエ公がウルバヌスを見ながら、語尾を濁した。テーブルから一歩下がっていたウルバヌスが前へ出てきた。
「僭越ではありますが、ラディエヌス殿の戦いも、ファッロ殿の戦いも見てきた者として、申し上げます」
バルダッシュではウルバヌスとその配下はアティウスと別行動を取っていて、ファッロの手勢の中に加えられていた。あの混乱の中でもウルバヌス配下のマギオの民は上手く身をかわして大きな損害を受けていなかった。もちろん、戦いの後、ウルバヌスはアティウスからアティウス達があの戦いの中で何をしたか、そしてタギが何をしたか聞いていた。
サヴィニアーノはファッロのように、マギオの民の言うことに一々過敏には反応しなかった。役に立つのなら相手がマギオの民でも気にしなかったし、どんな経路でもたらされた情報でも有用な情報はきちんと評価した。だからこそカンガを攻略するときに、あらかじめカンガに入り込んでいたマギオの民を利用することにためらいを覚えなかったのだ。
先を続けろとセシエ公が眼で促した。
「ラディエヌス殿は何もできませんでした。野戦で正面から立ち向かっても勝ち目はありません。ラディエヌス殿の兵は鉄砲の射程に入ることもできませんでした。それに対して、ファッロ殿の軍はあの混戦の中で、何匹かのアラクノイを倒しています」
「そのことだ」
さらに言葉を続けようとしたウルバヌスをセシエ公が遮った。ウルバヌスは礼儀正しく口を閉ざして、セシエ公の次の言葉を待った。
「確かに何人かの兵が巨大獣の上からアラクノイが転がり落ちるのを見たと言っている。だが信用できる証言かどうかが分からない。マギオの民も見たのか?もしアラクノイを倒したのなら、いったい何匹を倒したのだ?」
アティウスの話では、マギオの民の鉄砲で五匹のアラクノイを倒し、タギが三匹の翼獣を撃ち落としたときにその背に乗っていた四匹のアラクノイを倒している。これはアティウスが見間違いをするという、考えられないことがない限り正確な数だった。しかしウルバヌスには、バルダッシュにアティウスとその指揮下のマギオの民が鉄砲を持って、入っていたなどとセシエ公に告げることはできなかった。ましてタギのことなど言えるはずもなかった。結局ウルバヌスのいた場所から見たといっても不自然ではないことしか口にできなかった。
「何しろ混乱しておりましたので、私も完全に把握しているわけではありません。しかし私も銃声とともに少なくとも二匹のアラクノイが巨大獣の背から転がり落ちるのを見ております。部下の見たことも勘定に入れますと四、五匹のアラクノイは倒したのではないかと思っております」
「一斉射撃の音がしたという者もいる。しかし、生き残った者に聞いても自分がアラクノイを撃ったという者はいない」
セシエ公がウルバヌスを見た。厳しい、容赦のない視線だった。ウルバヌスは表面上、まったく平静に答えた。
「ファッロ殿が戦死されても、セルギウス殿、サグス殿など、さすがに勇猛を持って鳴るファッロ殿の部下、懸命に戦っておられました。おそらくそれらの方々のどなたかが一斉射の指揮を執られたのではないかと考えました。残念ながら私にも部下にも、どなたが指揮されたものか確かめることはできませんでしたが」
セルギウスも、サグスも戦死していた。だからウルバヌスが何を言っても死人に口なしだった。しかも悪口ではなく、その勇猛さを称える言葉だったから、サヴィニアーノ、ザナガン、アグマッシュもウルバヌスの言葉に満足していた。セシエ公一人が疑念の交じった視線をウルバヌスに送っていたが、背中に冷や汗をかきながらでも、ウルバヌスはしらを切り通した。セルギウスやサグスがそれほど有能だったら、ファッロではなく彼らの一人がセシエ公の親衛隊の指揮を執っていたはずだった。セシエ公は自分の人物評価に自信を持っていた。ウルバヌスの言葉にそのまま肯けるはずもなかったが、それ以上の追求をするには材料不足だった。
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