第14話 翼獣襲来 2

 ランドベリの上空からアラクノイがレーザーを乱射した。人がかたまっていれば、それが兵隊であろうと、非武装の市民であろうと、無差別に射ってきた。たちまち死傷者が続出した。鉄砲を持っている兵はやみくもに翼獣めがけて引鉄を引いたが、高く飛ぶ翼獣に当たるはずもなかった。アラクノイが上空から何かを落とした。人の頭ほどの大きさのそれは、火縄の付いた爆発物だった。地面をごろごろと転がりながら火縄の火が爆発物に達すると爆発した。建物に落ちると建物を破壊し、火事を起こし、周囲の人々を傷つけた。三匹の翼獣から次々に爆発物が落とされ、人々が逃げまどった。二匹の翼獣が王宮へ向かい、一匹がセシエ公の館の上空へ向かった。王宮と、セシエ公の館の上空でまたレーザーを乱射し、爆発物を落とした。内宮、外宮、そして公の館に何発かの爆発物が当たり、壁を壊し、屋根を落とした。乱射されたレーザーのために多数の死傷者が出た。地上の人々はなすすべを知らなかった。


 空を縦横に飛び回る翼獣と、好きなようにレーザーを乱射し爆発物を落とすアラクノイを、セシエ公は身じろぎもせず、バルコニーから見ていた。危ないから屋内に入ってくださいと頼む部下の言など聞きもしなかった。

 翼獣がランドベリの上空にいたのは小半刻もなかった。短い時間だったが傍若無人に飛び回り、レーザーを射ち、爆発物を落として、飛び去った。


「手も足も出なかったな」


 セシエ公の言葉に、ファッロは蒼白な顔をして、握りしめた拳をぶるぶる震わせ、俯いていた。翼獣とアラクノイを主に迎え撃ったのはファッロの部下だった。ランドベリに残ったラディエヌスの部下もファッロの指揮下にあった。


「申し訳・・・ありません」


 ファッロはやっと声を絞り出した。敵の武器が圧倒的に優れていたからだとか、今まで知らなかった戦い方をする敵とどう戦えばいいのかとか、そんな言い訳はファッロの武人としての誇りが許さなかった。


「さて、ウルバヌス、何か考えがあるか?あいつにだって弱点があるだろう」


 ランドベリのセシエ公館の会議室の一つだった。翼獣からセシエ公の館に向かって落とされた三発の爆発物のうち建物に当たったのは二発だけで、それも館の重要な部分には当たらなかった。セシエ公は修理を許さず、爆発物の威力を詳しく調べるように命じていた。

 建物ではなく人間に向かって使われたらどのくらいの被害が出るのか、建物でも石造りではなく木造だったらどうなのか、これから戦う相手の武器についてよく知らなければならなかった。

 部屋の中にはセシエ公の他にファッロ、テカムセ、ラディエヌスの副官だったバルディティオ、それにウルバヌスがいた。ウルバヌスは一歩控えた位置にいたが、セシエ公に声を掛けられてファッロ達の位置まで進み出た。


「翼獣もアラクノイも武器の間合いに入れば、鉄砲でも弓、剣でも倒すことができます。この度は鉄砲の射程まで近づかなかったために、こちらからは何もできなかったのですが、空からの攻撃だけではたかがしれております」


 なんだと、とファッロ、バルディティオが気色ばむ気配が見えた。あの攻撃をたかがしれていると言うのかという思いだった。


「たかがしれているとは?」


 セシエ公がその思いを代弁した。


「空からの攻撃だけでは我々を一掃することもできませんし、ランドベリを例えその一部にせよ占領することもできません。そうするためには地上に降りてくるか、地上を進んでくる必要があります。先ほどの襲撃も見かけこそ派手でしたが、この館でも死傷者はせいぜい二十人です。建物の損壊も二カ所でしかありません。ランドベリの被害もこれから調べなければなりませんが、町全体から見るとごく一部です。」


 セシエ公が目を光らせて、ウルバヌスの言葉を聞いていた。先を言えと頷きで促した。


「もしランドベリに来るつもりなら、遅かれ早かれ、翼獣もアラクノイも我々の武器の間合いに入ってくることになります。もっともそのためにはそれなりの工夫が必要ですが」

「だから町の中に引きずり込んで戦えというのだな」

「御意、ただ、巨大獣には我々の武器が効きません。鉄砲でさえ効果がないと、そう考えております。ラディエヌス殿は銃騎兵に突撃させて鉄砲を射ちかけようとされましたが、それがうまくいっていても巨大獣を倒すことができたかどうか分かりません。フリンギテ族とアラクノイがもしランドベリまで来るなら当然巨大獣を先頭に立ててくるものと思われます」


 セシエ公の目が鋭さを増した。


「巨大獣に対してはどうすることもできないと、そう言うのか?」

「倒すことはできませんが、巨大獣の頭に付いている角のようなものを潰すことはできます。それを潰してしまえば、巨大獣の眼と耳を潰したことになります」

「ほう」


 どこでそんな情報を得たのだとはセシエ公は訊かなかった。もし訊かれれば、アトーリに潜伏しているときに知ったのだと、ウルバヌスは答えるつもりだった。




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