第13話 ダングランの戦い 2章 壊滅 1
タギのことを考え始めると結局この疑問に行き着く。同じことを何度も考え、結論のでないまま、また同じことを考えている。タギに関する情報が少なすぎるのだ。
「ずっとそのことを考えていたのだが、こんな疑問はアラクノイやアラクノイの使役獣に対する疑問と同じものだ、ということに気がついた。つまり、私たちにとってはタギもアラクノイも同じ範疇に入るものだということなのかな?」
「タギもアラクノイも自分たちの世界で勝手にやってくれていれば良かったと、そういうことですね。我々とは関係なく。私も同感です」
アティウスが腕を組んで、一度窓の外に目をやり、それからもう一度ウルバヌスを見て、
「やつらがこの世界のものでないことは明らかだ。あんな武器があって、あんな獣がいれば、いくら世界が広いといっても我々に知られずにいるはずがない。だがこの世界でない世界というのはどんな世界なんだ?どこにあるんだ?タギやアラクノイがしているようにこの世界と行き来できるのか?解らないことだらけだ。いずれにせよ『やつら』のことはできるだけ早く片づけたいものだな」
『やつら』とはどの範囲を指すのだろう。タギも含めるのだろうか?タギも含めて片づけるとアティウスは言っているのだろうか?ウルバヌスはとっくにアティウスの気持ちを推測するのを止めていたが、考えずにはいられなかった。
ドアにノックがあった。アティウスとウルバヌスは口をつぐんだ。
「入れ」
アティウスが答えるとシレーヌが入ってきた。盆とポットを持っていた。シレーヌはアティウスとウルバヌスの前にカップを置き、茶を注いだ。茶の香りが部屋に立ちこめた。
「シレーヌ、酒はないのか?もう十日も干上がっているんだぞ」
ウルバヌスが美味そうに茶を飲み始めたとき、アティウスが情けなさそうな声を出した。
「申し訳ございません」
ちっとも申し訳ないと思っていない口調でシレーヌが答えた。
「ネッセラルの館ではございませんので」
自分たちの思い通りに使える場所にいるわけでも、アティウスに近い民ばかりがいる場所でもない、と言外に意味を込めた。ウルバヌスもシレーヌに比べるとアティウスに近いわけではない。しかしウルバヌスがこんな詰まらないことをガレアヌス・ハニバリウス・ハニバリウスに告げるようなことはしないと、アティウスもシレーヌも知っていた。
ラディエヌスが千の兵を率いて、ランドベリを出発したのは二日後だった。ラディエヌスの配下にある親衛隊の四分の一だった。行程のほとんどがセシエ公の勢力範囲だったし、その外もセシエ公と一応の友好関係にあるダングラール伯爵領だったので、弾薬類は十分に用意したが、食糧も馬糧も最小限にした行軍だった。それでも出発まで二日かかったのは千の兵を、銃兵でしかも騎射に慣れた者から選んだからだった。輸卒や雑用のための小者が二百ついていたが通常よりずっと少ない数だった。銃騎兵を先頭に立て、少ないとはいえ、何台もの荷馬車を率いて、意気軒昂にラディエヌスもその配下もランドベリを出て行った。
テセウスからの報告を受けて、アティウスもウルバヌスも少数のマギオの民を率いて後を追った。シレーヌとクリオスもその中に入っていた。
ラディエヌスの隊は、千二百という人数を考えると、非常な速度で進んだ。小物も含めて全員が馬か馬車に乗り、荷が少なく、しかも野営でなく、セシエ公が整備した街道網を利用したからだ。五日目の朝にはもうダングラール伯爵領へ入った。
ダングラール伯爵の元へ先発させた斥候隊の報せを受けて、領土の境まで百人ほどの伯爵勢が出迎えていた。出迎えの伯爵勢と合流したラディエヌス隊は、ダングランから十里ほど離れた寒村へ案内された。
アダの村には幕舎を並べて二千ほどの伯爵勢が野営していた。ラディエヌス勢は伯爵勢とは少し離れた場所に幕舎を張るようにと、出迎えに来た伯爵の重臣の一人が言った。野営の準備にかかる部下達をおいて、ラディエヌスとその四人の中隊長達はダングラール伯爵のもとへ案内された。血走った目をした兵達が屯している村はずれの牧場を通って、ラディエヌスは村長の館に向かった。負傷者を収容している幕舎からのうめき声が耳に付いた。ラディエヌス達を見つめる兵達の眼は殺気だっていた。セシエ公の軍だというささやき合う声があちらこちらでしていた。
何人もの兵士が空を見つめているのに、ラディエヌスは気づいた。兵士達の視線の先に小さく何かが浮かんでいた。ラディエヌスも中隊長達もそれを見た。ざわめきが彼らの間に広がった。
「あれが・・・」
「翼獣なのか?」
その形を確かめるには遠すぎたが、ラディエヌス達の疑問にダングラール伯爵勢の兵士が頷いた。二匹の大きな“飛ぶもの”が悠然と旋回していた。もう何日も前から空からああやって見張られているのだ。
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