第13話 ダングランの戦い 1章 王都にて 4

 セシエ公がレーザー銃を取り上げた。ずんぐりした円筒にくっついているいびつな球形のもののうち、一番大きなものを握って、いろいろな角度からレーザー銃を眺めた。握った球形のものの、丁度人差し指が当たる部分に小さな突起があるのに気づいた。セシエ公はその突起を押してみたが、それはまったく動かなかった。

 ウルバヌスが、セシエ公がしていることに気づいて言った。


「その突起が多分、鉄砲の引鉄ひきがねに当たる物だと思われます。そしてそのガラスのように見えるところから光の矢が飛び出すのも見ております」


 不思議な感触だった。円筒も球形の部分も、冷たくて固い、しかし金属の持つ固さ、冷たさではない。円筒の先端のガラスのように見えるところが、ただのガラスではないことはすぐに分かった。透明で光を屈折して宝石のようにきらめいている。角度によって赤く見えたり青く見えたりした。レーザー銃全体がこれまでセシエ公が知らなかった物でできていることは確かだった。


「奇妙な物だな。とても武器には見えないが・・」


 セシエ公が戸惑いを口にして、ウルバヌスが軽く頭を下げた。


「ファッロ、持ってみろ、不思議なものだぞ。少なくともこれまで触れたことのないさわり心地がするぞ」


 セシエ公が差し出すアラクノイのレーザー銃をおそるおそるファッロが手に取った。こんな物を手に入れたマギオの民の功績は認めたくなかったが、レーザー銃そのものには興味があった。ファッロが手に取ったレーザー銃を、ラディエヌスが横からしげしげと見つめた。ラディエヌスも手を出して指先でレーザー銃に触ってみた。これまでに経験したことのないさわり心地だという点には同感だった。どんなに奇妙に見えてもこれが、ウルバヌスの言うとおりのものだろうということはファッロにもラディエヌスにも分かっていた。




 ダングランへ、アラクノイ、巨大獣、翼獣とフリンギテ族を引き入れたのはマギオの民だった。オービ河を渡った舟を河岸に隠しておいたため、シス・ペイロスに入った道を逆にたどっただけなのだが、結果としてそうなってしまった。

 そして、ダングランの領主、ダングラール伯爵の軍が蹴散らされるのをマギオの民は見ていた。アラクノイやフリンギテの男達がオービ河を渡りきるのに時間がかかったために、それを目撃した村人からの報告でダングラール伯爵は兵を出したのだ。押っ取り刀で急ごしらえの軍だったが、伯爵自慢の重装騎兵を主力とした堂々たる軍だった。河を渡っていくらも行かない畑地で伯爵の軍はフリンギテ族の戦士とアラクノイを迎え撃った。マギオの民はいつの間にか戦を見物をする方に回っていた。

 人数で遙かに勝る領主の軍が、巨大獣の背に乗ったアラクノイの撃つレーザー銃に手も足も出なかったのをマギオの民は見た。巨大獣や翼獣の背に乗ったアラクノイの乱射するレーザー銃にダングラール伯爵軍は為す術もなかった。あっという間に数百人の兵を倒されて、ダングラール伯爵軍は蜘蛛の子を散らすように逃げてしまった。マギオの民が何より目を見張ったのは、大きな方の巨大獣の背に乗せられている、大口径のレーザー砲の威力だった。ダングラール伯爵の軍を蹴散らしたあと、アラクノイはそのレーザー砲を使ってダングランの城壁を切り裂き、伯爵館の塔を崩してしまった。

 今アラクノイとフリンギテ族の男達は、住民が全部逃げ去ってしまったダングランにとどまっている。これからやつらがどうするつもりなのか、町の外に潜んでいるマギオの民が息を詰めて見張っていた。




「怖ろしい武器でございます。アラクノイはおよそ二、三十匹くらいしかおりませんが、その全部が光の矢を撃つ鉄砲を持っております。ダングラール伯爵勢は手も足も出ませんでした」


 ウルバヌスの声は真剣そのものだった。あれを倒すにはかなりの覚悟が必要だ。ある程度の犠牲はやむを得ないというアティウスやタギの意見に今は賛成だった。どの程度の犠牲が必要かは分からないが、それに耐えられるだけの戦力を持っているのはセシエ公だけだろう。だからセシエ公にも同じ覚悟を強いなければならなかった。


「ダングラール伯爵はどのように戦ったのだ?おまえ達は見ていたのだろう」

「伯爵ご自慢の重装騎兵を先頭に立てて、真っ直ぐに突っ込みましたが、何もできぬうちに総崩れになりました。弓など届かぬ距離で光の矢と、この巨大獣の鞭毛にいいようにやられました」

「鉄砲はどうだった?ダングラール伯爵は鉄砲も持っていただろう?」

「鉄砲の届く距離まで進めた者は一人もおりません。光の矢と鞭毛に阻まれました」


 実際は重装騎兵の後ろに控えていた鉄砲隊は、騎兵が手もなく打ち倒されるのを見て、怖じ気づいたのだ。ほとんどの者が一発も撃たず逃げてしまった。あの距離では撃ったとしても届かなかっただろう。







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