第12話 撤退 2章 翼獣・巨大獣 7
そしてアラクノイとその使役獣の他にフリンギテ族の男達がいた。全部で約二百人、そのうち三十人ほどが馬に乗っていた。森の中では馬の有用性は低い、だから飼育に手間と費用のかかる馬はあまり飼われていない。三十頭余の馬というのはフリンギテ族の飼っている馬のほぼ全部に近い。その中にラビドブレスの姿を認めた。その他にもラビドブレスの館で見た長老達のうちの何人かもいた。しかしクルディウムの集落の長のキンゲトリックの姿は見えなかった。戦士たちは完全武装のようだ。腰に剣をつり、槍を持っている者、弓を持っている者、戦斧を持っている者がいたが、皮鎧や兜の形、模様はさまざまだった。同じような模様の兜と皮鎧の戦士たちが一塊になって進んでいた。つまりいくつもの集落からの混成部隊ということだろう、とタギは思った。完全武装した戦士の他にキワバデス神の神官の姿をしている者が六人、それぞれ巨大獣のそばに馬を進ませていた。祭司長のカバイジオスの姿はなかった。戦士たちの後ろに荷車が続いていた。彼らの遠征用の物資だった。セシエ公の軍に比べれば少なかったが、これだけの人数をまかなうためのものだったから、かなりの量の物資になっていた。長期の遠征を考えているのだろうか?このために速度が鈍っていた。荷車を馬に引かせてもそれほどスピードを出すことはできなかった。
マギオの民を追いかけていくのだろうが、これでは追いつくのは無理だろう。後を追ってオービ河を渡るつもりだろうか?それにこれで全部だろうか、それともアトーリにはもっと多くのアラクノイが居るのだろうか?何とかして今見ているアラクノイを全部片づけてから、もう一度アトーリへ確認に行かなければならない。
タギに見られているのに気づかず、アラクノイ、巨大獣、翼獣、フリンギテ族の男達は通り過ぎた。でこぼこの土地を荷車の車輪が転がる、やかましい音がタギの隠れているところまで聞こえた。フリンギテの男たちががやがやとしゃべっているのが風向きによってタギの敏感な耳に聞こえた。タギの目の前で、空を舞っていた翼獣が降りてきて巨大獣の背に留まり、交代に一匹が舞い上がっていった。やはり一匹のアラクノイを乗せていた。降りてきた翼獣の背に乗っていたアラクノイが巨大獣の横を騎乗して進んでいる神官に何か話しかけているようにタギには見えた。この距離ではタギの耳でもその会話を聞くのは無理だった。
アラクノイ達が通り過ぎ、一里以上離れてからタギは身を隠していた岩陰から出た。距離を保ったまま後を付け始めた。アラクノイ達に気づかれないためには上空で舞う翼獣に乗っているアラクノイに見つからなければいい。今のところ上空にいるのは一匹だけだし、その一匹も前を見張ることで精一杯だった。タギはそれでも巧みに身を隠しながら、馬に乗った男達に負けないスピードで動いた。
アティウスはウルバヌスと並んで馬を駆けさせていた。アティウスとウルバヌスの後ろをヤンとベイツが固めていた。全速で走らせるには馬がばてていたため、気が急きながらもスピードを抑えめにしなければならなかった。しかし、追いかけてきているに違いないアラクノイやフリンギテ族の姿を確かめることは、ヤンやベイツが後ろを何度振り返ってもできなかった。アラクノイ達があきらめたわけではないことは、翼獣の姿を上空に認めることで分かっていた。翼獣はアティウス達から一定の距離をとって付いてきていた。腐肉をあさる禿げ鷲のように、獲物を決してあきらめないと言っているようだった。
「ウルバヌス」
アティウスが並行して走っているウルバヌスに声を掛けた。
「何でしょうか、アティウス様?」
「タギのことだ、あいつは何者なんだ?」
「私も存じません。十年以上前にグルターヌ男爵に雇われていたときに会っただけですから」
「あいつは俺たちに近い奴じゃないかと思っていたんだ。あの体術といい、ナイフの腕といい、気配の消し方といい、マギオスの法を習得していると言われても信じられるぞ。まったく、巨大獣の鞭毛は剣や盾では防げないと言っておきながら、自分はナイフで切り落としている。確かにあのナイフの使い方は驚異的だ。実のところ私は、マギオの民と同じような集団がどこかにあるのかもしれないと思っていた。ところがあのレーザー銃だ。あれはアラクノイが使っている武器と同じ系統の武器だろう?」
アティウスが珍しく能弁になっていた。それだけ確かめたい疑問が多かったのだ。
「しかもタギはレーザー銃を使い慣れている。あれだけ離れて一発も的を外してない」
「あの武器は、光の矢は真っ直ぐに飛びます。鉄砲の弾のように距離が離れるほど落ちていくわけでもないし、風の影響を受けるわけでもありません。それに鉄砲と違って反動がほとんどないようです。我々だってあれを使い慣れれば遜色ない腕を示すことができると思いますよ」
ウルバヌスは少々むきになっていた。確かにレーザー銃を扱うタギの腕には驚かされたが、自分たちにできないことだとは思わなかった。あの武器の扱いに習熟すればタギには及ばなくてもそれなりのことができる自信はあった。
「ウルバヌスは負けず嫌いだな。だが同じような武器を使っているのに、アラクノイ達の腕はタギより遙かに下だったぞ。現に先ほどだってアラクノイ達があれだけ光の矢を撃って、そのうち一発がおまえの腕をかすっただけだ。その間にタギは巨大獣の感覚柄を全部潰して、アラクノイを一匹撃ち殺したんだ。だれでもタギのようにレーザー銃を使えるわけではないと思うぞ」
「すくなくとも、アティウス様や私なら、あんなアラクノイのような下手くそではあり得ません」
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