第11話 撤退 1章 ラスティーノ 5

 旋回している二匹の翼獣の背中から時々青い光が地上に向かって奔るのが見えた。一定方向に短い距離を飛んでその先をめがけてレーザーを撃つこともあった。ひとしきり何条も続けて青い光条が奔ると、レーザーを撃つのを止めてまた旋回にはいる。その様子がタギやアティウスからも見えた。


「おそらくラスティーノでマギオの民とフリンギテ族が闘っているのだろう。その上空を奴らが旋回していると考えるのが自然だ」

「そのとおりでしょうね」


 アティウスが答えた。タギとアティウスが立ち止まっている間に、ベイツとクリオスが追いついてきた。二人とももう息が上がっていた。タギとアティウスに追いつくと上体を折って膝に手をついて大きく息を継いだ。


「ア、 アティウス様・・」


 息を切らせながらクリオスが言った。アティウスに負けずに走れるタギを見る目に、賛嘆の光があった。マギオの民の中でもそれができるのは何人もいなかったからだ。


「やっと追いついてきたか。もう一息でラスティーノだぞ」


 アティウスが上空を待っている翼獣と木の間越しに望見されるラスティーノの集落を指した。クリオスとベイツが息を呑むのがわかった。口をあんぐり開けて、流れる汗が、走ったためだけのものではなくなった。遠目にもマギオの民の劣勢ははっきり分かった。

 二人が追いついてくるのを待っていたように、タギとアティウスはまた走り出した。息を切らせながらクリオスとベイツが続いた。

 ラスティーノの集落に近づくにつれて戦闘の音が聞こえてくるようになった。武器が打ち合わされる音、男達のわめき声と悲鳴だった。彼らの敏感な耳にはかすかな音も聞き分けられた。さらに近づくと戦闘の様子が見えた。男達が斬り結んでいた。マギオの民が不利なことがさらによく分かるようになった。複数のフリンギテ族と戦っているマギオの民が多く見られた。それでも何とか持ちこたえているのは、マギオの民の一人一人の技量がフリンギテ族の戦士より優れていたからだ。息を切らせながらもベイツとクリオスは剣を抜いて、すぐにでも戦いの場へ駈け入ろうとした。


「待て!」


 タギに言われて、二人は足を止めて、不満そうにタギを振り返った。クリオスが叫んだ。


「味方が押されている!助けに行かなければ!」

「おまえ達三人が加わったところで形勢をよくすることなどできない!」

「なんだと!」


 クリオスとベイツが気色ばんだ。何を言い出すのだと言いたそうにアティウスがタギを見た。


「それより翼獣を何とかしよう」


 三人ともきょとんとした顔をした。タギの言っていることが理解できなかった。


「待ってろ」


 そう言い残すとタギは手近の木の枝に飛びつき、体を持ち上げるとするすると登っていった。四ヴィドゥーはある高さの枝に無造作に飛びついて上っていったタギを、三人はあっけにとられたように見ていた。しかし若いクリオスには味方の苦戦をじっと見ていることなど出来なかった。タギが何をしようとしているのか見当もつかなかったが、こんな所からなにか有効なことが出来るとは思えなかった。


「私は行きます!」


 クリオスが叫んで集落の方へ駈け出した。ベイツはちょっとクリオスの背中を見ていたが、アティウスに向かって軽く会釈するとクリオスを追って駈けだした。

 アティウスは二人が集落の方へ駈けていくのを見て、じっとはしていられない思いを抱いたが、それを押さえつけた。タギが何をしようとしているのかにはるかに興味があったからだ。

 タギは十ヴィドゥーほどの高さにある太い枝まで登ると幹に背中をもたせかけて体を固定した。ホルスターからハンドレーザーを取りだし、両手で構えた。アティウスの目から見ても安定した見事な射撃姿勢だった。慎重にねらいを定めると、タギはほとんど間をおかず続けて二発、発射した。

 アティウスはレーザーの青い光が奔った方に顔を向け、その光がラスティーノの上空を舞う二匹の翼獣の頭に吸い込まれるように当たるのを見た。距離を考えるととんでもない腕だった。鉄砲の射程距離の五倍はあるだろう。しかも的は空を飛び回っている。

翼獣とその背中から振り落とされたアラクノイが落ちてくるのをアティウスが呆然と見ているうちに、タギが木から飛び降りてきた。


「行こう」


 タギに促されて、アティウスも走り出した。フリンギテ族の男たちが戦闘の場から逃げ出し始めたのが見えた。






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