第7話 レリアンの市 6章 ヤードローの小屋で 3

 『レーザー銃』、『生体認証』、ウルバヌス達には分からない言葉ばかりだった。それを言うとタギが答えた。


「説明するのは面倒くさい。それに正確に説明してもおまえ達には分からない。要するにそれは“敵”でなければ使えない物で、光の矢を撃つ武器だと思っていればいい」

「“敵”ってのは何なんだ?」

「“敵”が何者なのか私も知らない。でも私の国は“敵”を相手に何十年も闘っていた。私が十一の時に完全に負けて、私はこちらへ流れてきた」


 ウルバヌスがハンドレーザーをタギに返そうとしながら、


「こんな武器を使う国のことなど聞いたことがないぞ。タギ、あんた達もこんな武器を使っていたのか?」

「そうだ。この手の武器が主だった。だが遠い、遠い国だ。行こうとしても行くことはできないし、便りを受け取ることさえできない・・・」


 ウルバヌスの顔にとまどいの表情が浮かんだ。まだ手に持ったままのハンドレーザーをもう一度しげしげと見つめた。


「そんな国があるのか・・・・」


 タギがにやっと笑った。人の悪い笑顔だった。


「マギオの民といえどすべてを知っているわけではないってことだな」


 タギに言われてウルバヌスは頷かざるを得なかった。


「俺も見ていいか?」


 ヤードローが横から言った。タギが頷いて、ウルバヌスがハンドレーザーをヤードローに渡した。ヤードローは手にとってしげしげと見つめた。


「この武器をこの地でどうやって手に入れたんだ?」


 ウルバヌスが訊いた。今度はタギが説明する番だった。一通り説明して、


「拾ったのは一ヶ月ほど前だと言っていた。丁度セシエ公の襲撃と時期が重なり合うんじゃないか?おまえが撃った矢が当たっていたとしたら、あの辺りでくたばったのかも知れない」


 ハンドレーザーを持っていられなくなって落とした可能性が高い。武器をうっかり落とすなど、人間でも、“敵”でも滅多なことではやらない。


「矢でくたばるようなやつなのか?」


「“敵”は人間より刃物に強い訳ではない。矢でも剣でも殺すことができる。翼獣もだ」


 ただし、巨大獣には歯が立たない、よほどのことがなければこの地の武器で巨大獣を倒すのは無理だ、タギはそう思ったが口には出さなかった。


「これは・・・」


 ヤードローが声を出した。ずっとハンドレーザーをいじり回していたのだ。


「似てる」

「なに?」


 タギと、ウルバヌスが同時に反応した。


「何に似ているんだ?ヤードロー」

「やっと想い出した。見覚えがあるような気がして仕方がなかったんだ。こいつはキワバデスの神器にそっくりだ」

「キワバデス?」


 タギにはその名に覚えはなかった。しかしウルバヌスは知っていた。


「確か、オービ川の向こうの蛮族の神だな、その名は」

「そうだ。破壊と再生を司る神だ。いよいよこの世界が駄目になったときに出てきて、すべてを打ち壊して地を平らにし、その後に選ばれた民による理想の国を作ると言われている。地を平らにするためにものすごい火の玉を飼い慣らしている神だとな」


 なぜ知っている?と四人に促されてヤードローが話し始めた。


「俺は若い頃、蛮族相手の行商をしていた。綿でも絹でもガラス器でも、特に酒と茶なんか、こちらのものなら何でもありがたがるからな、やつらは。そんなものを持って行くといい金になる。どこでも神殿というのは一番人が集まるところだから、だいたいはそこで商売するのさ。砂金と引き替えに」


 蛮族の地には、こちらの人々が欲しがるものがとれない。彼らが支払いに使えるのは金と銀、金は主に砂金だったが、それに宝石の原石、くらいだった。


「そのときに見たことがあるのさ」

「何に使う神器なんだ、それは?」


 ウルバヌスが訊いた。ヤードローの答えは素っ気なかった。


「知らん、だいたいが神器なんてものは実用を考えたものじゃないだろう?祭日にキワバデスの神体を担いで練り歩くときに、巫女どもが腰に差しているのさ」


 破壊神の神器に武器の形をしたものがあり、それを腰に差す、タギの目にはこれが偶然であるはずがなかった。ウルバヌスはウルバヌスで考え込んでいる目をしていた。


「いいことを聞かせてもらった。これは少ないがお礼だ」


 ウルバヌスが懐から袋を取り出して、ヤードローに差し出した。


「ほう、最近はマギオの民も気前がいいんだな」


 ヤードローは悪びれもせず袋を受け取った。ウルバヌス達は小屋を離れた。タギとヤードローは去っていく三人から目を離さず、特にタギは三人の気配が完全に遠ざかるまで警戒を解かなかった。タギの感知域から三人の気配が完全に消えて、タギは緊張を解いた。


「中へはいるか?」


 ヤードローが警戒を解いたタギに声を掛けた。


「入っていいのか?」

「一回入ったことがあるだろう、今更遠慮するのか?」


 ヤードローが不器用にウィンクして見せた。どうやらもっと話すことがあるらしい。タギはヤードローについて小屋に入っていった。小屋の中は相変わらず散らかったままだった。





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