第7話 レリアンの市 6章 ヤードローの小屋で 2

「こいつらが大きな鳥のことを聞かせろって言うのさ。そんなものは知らねえっていくら言っても聞かねえんだ」


 ヤードローが横から口を出した。タギはウルバヌスから視線をはずさないままでヤードローに聞き返した。


「大きな鳥のことを?」

「そうさ」


 タギはどういうことだと目でウルバヌスに訊いた。また殺気を込める。タギとヤードローのやりとりにウルバヌスは驚いていた。タギも大きな鳥のことを知っていそうだった。思いもかけない成り行きだったが、タギからも情報を取らなければならないととっさに心を決めた。


「そうだ。大きな鳥のことを聞きに来た。森番の男がそんなことを話していたと酒場で聞いたからな」

「なぜそんなことを聞きたがる?」


 タギの声と雰囲気には好意のかけらもなかった。


「大きな鳥のことを知る必要があるからだ。マギオの民に大きな影響を与えかねないものだからな」


 ウルバヌスはある程度正直なところを話すことにした。手の内を少し見せた方が多くの情報をとれるかもしれない。


「知ってどうする?マギオの民の手先にでもできると思っているのか?」

「いいや、できればあんなものは無いものにしてしまいたい」

「なぜだ?」

「マギオの民と相容れないものだからだ。あんなものの上に乗って空を飛び、光の矢を打つようなやつはマギオの民にとって存在させてはならないものだ」


 ウルバヌスの言葉はタギをびっくりさせるのに十分だった。この世界の住人から先に翼獣や“敵”のこと、それにレーザー銃のことまで聞くとは思いもしなかった。


「“敵”が翼獣に乗ることまで知っているのか?それに“敵”が使う武器のことも」

「翼獣っていうのか、あれは?」

「あれは・・、翼獣も、翼獣を使う“敵”もマギオの民だけではなく、人間と相容れないものだ。―だがなぜお前が知っている?」

「見たからだ。あの鳥も、上に乗ったやつも」


 タギがウルバヌスを正面から見た。ウルバヌスでさえぞくりとするほどの殺気がタギの視線に籠もっていた。ナイフを構えてウルバヌスに近づいてきたときの殺気とは質が違うものだった。


「聞かせてもらおう、そうすれば私の知っていることを話してやってもいい」


 タギの殺気の籠もった視線を受け止めながら、表面上平静にウルバヌスが答えた。


「長い話になるんだ、その前に二人を起こしてきてもいいかな?」


 ウルバヌスはタギに倒されてまだ気を失っている二人に視線を走らせながら訊いた。


「雪も降っているし、あのままじゃ体が冷えてしまう」

「そんな柔なやつらじゃないだろう。でもまあいいか、起こしてやっても」

 翼獣のことから話が逸れた所為でタギの殺気がすーっとおさまった。


「礼を言う」


 ウルバヌスは手早く二人に活を入れた。小柄で小太りの男はまだぼーっとしながら、中肉中背の若い男は頭を振りながら起きあがった。はっきりしない頭でタギを認めて、はっと体を硬くするところをウルバヌスになだめられた。ウルバヌスの後ろに控える形でタギとヤードローの方へ近づいてきた。若い男の方のタギを見つめる眼にわずかに賛嘆の色があるのにタギは気づいた。


「ヤンとベイツだ。今は私の差し配で動いている」


 ウルバヌスが紹介した。若くて中肉中背の方がヤン、三十前後で小柄で小太りの方がベイツだった。

 小屋の外に立ったままウルバヌスが話し始めた。ヤードローがマギオの民の三人を中へ入れるのを嫌ったからだ。

 ウルバヌスはセシエ公を何者かが襲ったこと、そのときに光の矢が使われたこと、そいつが翼獣の背に乗っているのを見たことを話した。もちろん話さないことも多かった。ファッロとの諍いも話さなかったし、セシエ公の指示とガレアヌス・ハニバリウスの指示が異なっていることなどおくびにも出さなかった。タギは途中でウルバヌスの話を遮ったりせずに終わりまで黙って聞いていた。光の矢がゴンザーノを貫いたこと、ウルバヌスの放った矢の一本が翼獣か翼獣の上に乗って光の矢を放った奴に当たった可能性があることを話したときに、タギの眼が光ったのにウルバヌスは気づいた。マギオの民でさえ背筋がぞっとするような酷薄な光だった。

 ウルバヌスが話し終わるとタギがごそごそと懐を探ってゴドから手に入れた“敵”のハンドレーザーを出した。マギオの民の三人とも目を丸くしてそれを見つめた。


「こいつがその光の矢を撃つ武器だ」


 タギはハンドレーザーをウルバヌスの方へ差し出した。ウルバヌスは少しためらって、それからハンドレーザーを手に取った。あちこちを掴み、いろいろな角度から見てみた。それまで全く見たことのないもの、どうやって使うのか分からないもの、それがウルバヌスの結論だった。そんなウルバヌスにタギが言った。


「どんなにいじってみても、我々には使えない。人間にはという意味だが。多分それを使用するには“敵”の生体認証が必要なのだろう。だがそれを調べた我々の技術者は、レーザー銃に間違いないと言っていた」






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