第1話 アルヴォン飛脚 6章 サナンヴィー商会
ネッセラルのサナンヴィー商会はニア街道の西のはずれにあった。正確にはニア街道に面したネッセラルの東市門を入ったところにあった。市壁の内側に沿って広い環状道路がある。また市門から市の中心に向かって大きな縦貫道路が走っており、環状道路と、縦貫道路の交差点の右側にサナンヴィー商会の看板が出ていた。石造りのがっしりした三階建ての建物で、専門は小麦や雑穀、油、酒、塩、砂糖、雑貨といったものを商っていたが、アルヴォン飛脚のネッッセラルでの元締めでもあった。
タギは東市門をくぐるとまっすぐにサナンヴィー商会に行った。裏手に回り、商会の敷地に入ると馬の背から荷を降ろして、建物の看板の下の入り口を入った。入ったところに広い土間があって様々なものが置いてある。大きな小麦の袋の山や、油の瓶、酒瓶などがひとまとめになっている。小麦だけでも相当な量だった。倉庫に運ぶまでの一時的な貯蔵に過ぎないことを考えると、商会の扱い量の多さが分かった。土間を過ぎると一段高くなった木張りの床があって、奥に続いている。何人かの人間がそこで働いていた。タギはランを連れて土間を横切って、板間の上がり口に立った。すぐにタギを認めて声がかかった。
「よう、タギ、今着いたのか?」
「やあ、ヨヒム。ザガロスさんは奥かい?」
「呼んでくるよ」
ヨヒムという若い男は身軽に奥へ入っていった。タギは木の床の上に荷を置いて解き始めた。人の背で運ばれるものだから、大きなものや重いものはない。一番多いのは手紙や小さく包まれた荷物だったが、次々と取り出されるものの多さにランはびっくりしていた。タギは、手紙は手紙、荷は大きさによって分けて、並べた。奥から五十がらみの男が出てきた。でっぷり太った男で、細い眼の奥の光が鋭い。
「こんにちは、ザガロスさん」
タギの方から挨拶した。ザガロスと呼ばれた男は鷹揚に頷いて近づいてきた。後ろにもう一人付いてきている。
「今回はどれくらい運んできたんだ?」
「手紙が百六十七通、荷が大小併せて二十二個だ。九日で着いた。」
タギがレリアンのサナンヴィー商会の支店から持ってきた証書をザガロスの後ろにいる男に渡した。証書にはタギに託した荷の中身と出発日が記してある。運んだ荷の中身だけではなく、どれくらいの時間で着いたかが運搬料にひびく。その点でもタギは腕のいい飛脚だった。
ザガロスと一緒に出てきた男が、証書と荷の中身を突き合わせた。二回確かめて、
「証書通りで間違いありません」
とザガロスに報告した。同時に手紙が開封されていないか、荷に解かれた跡がないかも確かめている。タギから荷を受け取ったらその先は商会の責任になる。だからこの確認はいつも慎重に行われる。複数の人間が繰り返し確認することもある。タギもこの仕事を始めたばかりはそういう扱いを受けた。一人が二回確認しただけで受け取ってくれるのは、タギがもう五年この仕事をしていて、その間一度も間違いがなく、それだけ信用されているからだった。
「相変わらず正確だね、ご苦労さん、じゃあこれを帳場で受け取って」
ザガロスが小さな紙をタギに渡した。ザガロスの印章を押した受取証には今回タギが運んだ荷の運搬料が書き込んである。これを商会の帳場へ持って行けば金が払われる。
タギはランを促して、板間の横にある通路を通って表に回り、帳場へ行った。表はサナンヴィー商会の扱いの主流ではないが、様々な雑貨や布、装身具などを売っている。帳場を預かっている男は受取証の内容を確かめて、金をタギに渡した。受取証を半分に切って、一方に商会の印章を押してタギに渡し、もう一方にタギのサインを求めて保管した。帳場の男はタギがサインした受取証の半券を受け取りながら、
「タギ、もう一回レリアンへ行けないか?」
「今回は無理だな。こっちに用事があるし、今年は雪が早そうだ」
何も無ければもう1回レリアンに行くつもりだったが、ランをカーナヴィーに連れていかなければならない。それで今年の仕事は終わりにするつもりだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます