公開SS

公開SSその①(読者審査対象)

※こちらのSSは読者審査対象です。


※※※※※※審査対象SS※※※※※※

 空気が少し冷たく、どこか寂しい色になれば新そばの季節だ。

暑くもなく寒くもなく、秋はただつまらない季節だと言う人もいるけれど、この季節の新そばを待ち続けている十人がいる。



 新潟県新潟市内のとあるホテルの最上階、新潟市内の夜景が一望出来る新潟市の富裕層しか入らないような高級料亭の一室。

 そこで新そばをすする十人がいた。

 ただのそば好き親父十人ではない。今や日本の北半分を支配する北部日本そば産業連合のトップ十人、通称「十割そば」である。


この時代の日本はうどんとそばの二つの勢力に別れていた。北の北部日本そば産業連合、南の南日本うどん製麺協会、両勢力は互いにいがみ合い小競り合いを繰り返していた。まさに第二次南北朝時代と後に呼ばれる時代であった。


 もちろんだが、この親父達が集まったのはただ新そばを楽しむ為ではない。

 部屋の壁には拡大コピーされた、半裸で焼きそばを食べる男の写真が貼りついていた。

「この男がベトナムマンだ」

 老紳士が困り顔で言った。

「この男が我々の最も恐れた男だと、何かの間違いでは」

 品の良さそうな優男が興奮して思わず立ち上がる。

「まだ若い君にはわかるまい、必ずやこの男は我々の脅威となる」

 老紳士は断言した。 

「それでその男の始末はいかに」

 眼鏡のビジネスマン風の男の問いに

「もちろん始末する。だが厄介な事にこの男は四つのクリスタルに守られており、それらを破壊しないと攻撃が通用しないタイプの男だ」

「爺様、結論は出ているのだろう。先に話されよ」

 前方後円噴みたいに尖った顔の男が結論を急かした。

「ああ、こいつも丸正三蔵に始末させる」

「ハハハ、それは適任だな」

 半裸で焼きそばを食べていた男が笑った。

「丸正は便利な男ぞよ」

 和服に烏帽子姿の男も嬉しさのあまり、木簡に今作の主題歌の歌詞を書き始めた。



「高機動甲殻類の増殖」

作詞 キャプテン平安京

作曲 モスラ


可愛い子のためならば


闇討ち辻斬り喜んで


情け無用のおやじかな


隣のおばばはすべからく


子供も大人も信ずべからず


今日の努力はずるい誰かに盗まれるから


高機動甲殻類から逃げる旅をしよう


旅は道ずれ世は情け無用のデスマッチ


これがお前たちのラブアンドピースか



 コブラ学園生徒会に新人が入った。

 いろいろな奴がいるコブラ学園だが、レッサーパンダを霊獣と言い張って連れて歩いている女子生徒はこの丸正三蔵くらいなものだろう。

 今回のターゲット、ベトナムマンはコブラ学園の生徒会にいる人物だ。この男を抹殺するための最初の一手が女子生徒に扮して生徒会に入る事だった。


 丸誠三蔵の仕事は常に緻密な作戦に基づいている。すぐにターゲットを抹殺するような不作法は彼の美学に反するようで。外堀を一つ一つ優しさと思いやりで埋めていかねばどうにも気が済まない性分なのだ。

 

 まずは生徒会の様子を観察、これに一週間と三日は費やした。

 この結果解った事といえば、生徒会の中で自分が少し浮いているという事だろうか。誰も近寄ろうとはしない、なんとなくの孤独だ。

 六花がいるから寂しくないんだ言い聞かせている自分に唯一声をかけてくるのは室生英人という男だけであった。


 室生が声をかけるのにもそこまで深い理由があった訳でもない。いつも生徒会室の片隅で暇そうにコピー機をいじる丸正の姿を見ると、なんとなく話かけてしまうのだ。

「そういえば丸正さんはよくコピー機を手入れしているな」


 室生が何気なく放った一言であったが、その一言が丸正の不安を駆り立てた。

 まさかこの男は自分の事を疑っているのではないか、そんな考えが頭に浮かんだ。ならば生徒会と学業の両立に悩む女学生を演じ切るまでだ。


「当然だろう、コピー機と言えば生徒会活動の花形ではないか」

 もちろん丸正は生徒会活動について十分に予習済みなのだ。そして、生徒会活動半年の室生もそれに乗っかる事にした。

「あぁ、コピー機在っての生徒会活動だ。っていうか生徒会活動なんて九割コピーを取ることだしな」

「おぉ、貴様なかなか解っているではないか。私は昨今の創作物に見られるような安易な権力者的キャラ付けの生徒会イメージをずっと嘆かわしく思っていた。実際の生徒会には何の権力も無い。我々がすべき事は先生が御膳立てしてくれた決定を文書化、それをコピーを以って周知する、ただそれだけだろう」

「うわぁ急にしゃべり出したなぁ」

 室生は少し引いた。


 丸正はそれから四十分くらいコピー機について語り始めた。その熱量はまさに冷蔵庫の裏側の様に膨大で、室生の心を動かすには十分な量だった。

「やはり用紙の選び方の時点での決定的な差を見落としがちという訳だ」

「なるほどな、プリントアウトだけがコピーではないということか」

「そういえば最近新しいパーツを買ったんだが、家に見に来ないか」

「あぁ是非とも見たい。丸正さん自慢の六色機を見せて貰おうか」


 コピー機談義は盛り上がり、丸正の家のコピー機を見に行く事になった。

 丸正の住居は学校近くのアパートだった。部屋には刀剣や銃器の類が散乱したままになっていた。勢いで室生を家に呼んでしまったのでつい商売道具を片付け忘れていたのだ。

「この武器は一体……」

「これはお洒落なインテリアだ」

「なんだお洒落なインテリアか」

「お洒落なインテリアなんかよりもこれを見てくれ」

 丸正は強引に話をそらして高性能コピー機を見せつけ、なんとかその場をしのぎ切った。



 やがて季節は巡り、全国高等学校コピー冬の選抜大会の会場に二人はいた。

「俺たちもついにここまで来たな」

「あぁ、こいつらの分まで頑張ろう」

 二人の腰の遺影ホルダーにはそれぞれ二つの遺影が装着されていた。いずれも最近行方不明になった生徒会構成員である。

行方不明になったもの達は全員が学園寮生であったのも不可解な点だ。


 丸正の勝手な推測ではあるが、行方不明になった者達はベトナムマンの手によって消された可能性がある。このままでは室生にまで危害が及ぶ可能性がある。そうなる前に至急ベトナムマンを暗殺しなければならない。

 しかし、丸正がベトナムマンを殺せない訳があった。今は全国大会直前の大事な時期である。そんな時にこれ以上、室生の身の回りで物騒な事件が起きたらどうだろう。必ずや室生に不要な心配をさせてしまう。無二の友の為、丸正はバターブレードを今しばらく納めるしかなかった。


12月4日、一回戦第三試合「コブラ学園対東急東横高校」

 試合開始直後に東急東横高校の先制攻撃で三点。その後の試合展開もコブラ学園のリードを許さないものとなるが、後半5分40秒の時点で室生英人選手のゴールデン阿波踊りが決まるとそれをきっかけにコブラ学園の巻き返しが始まった。結果としては時間切れで東急東横高校の勝ち。得点は4-5789。


 コブラ学園の短い冬が終わった。


 さて、それはそれで丸正はベトナムマンの暗殺に乗り出した。

 暗殺の第一歩はターゲットを呼び出す所から始まる。試合終了後、応援に来ていたベトナムマンに声をかけられた。

「試合は残念だったが、俺はいい試合だったと思うぜ」

「ご声援ありがとうございます。実はその私が生徒会に入ったのはベトナムマン先輩のコピーを取っている姿に憧れたからなんです。これからどうか二人だけで手合わせ願えないでしょうか」

「いいぜ、グラウンドに来な」

 いつものパターンでベトナムマンだけを呼び出す事に成功した。


 試合も終わり、丸正とベトナムマンとコピー機しかないグラウンドで本当の死合が始まる。

「ベトナムマン先輩、貴方を殺さなければいけません」

「なんでや」

「北の連中はマナーに厳しいようでね、あなたのそばの食べ方が気に入らないらしい、という事にしておこうか」

「つまりお前は北からの刺客だったか。うちの学園はブレザーなのにセーラー服とか怪しいと思ったんだ。いいぜかかって来な」


 ベトナムマンを守る四つのクリスタルが現れる。それらを無効化する秘策が丸正のバターブレイドだった。いざ抜刀、腰に手をやるがバターブレイドがない……

 さっきまで腰に下げていたはずの宝刀、一体どこに消えたというのか。バターブレイドがなければ丸正もただの剣豪。ごきげんな四つのクリスタルに轢かれて壁に叩き付けられた。


 致命傷である。

 傷は深い。丸正は自らの限界を悟った。理屈は解らないが完全な敗北。暗殺者としては心残りは無いが、一つ心残りがあるとすれば……


 その心残りだった友の顔を虚ろな視界に捕らえる。

「室生?」

「丸正!?」

 二人の動きを不振に思った室生はひそかに後をつけていたのだ。

 そして、全てを知った。


「これは一体」

「俺は暗殺者だからな……いつかはこうなると思ってたさ……」

「死ぬな丸正。俺とコピー機で世界を目指すんだろ」

「悪いな……暗殺者は約束を守らないんだ…………」

 それが丸正の最後の言葉だった。

「丸正、必ず敵はとる」



 それから三年後。


 新潟県新潟市内のとあるホテルの最上階、新潟市内の夜景が一望出来る新潟市の富裕層しか入らないような高級料亭の一室。

 そこでさっきまで新そばをすすっていた十の死体があった。

 その傍らにはベトナムマンがいる。

「もう終わりなんだよね、南北朝時代もさ」

「見つけたぞベトナムマン」

 そこには通信教育による修行の果てに剣豪となった室生英人がいた。

「君は南日本うどん製麺協会の室生英人だな」

「いや、今は違う。友に復讐を誓った美しくも名もなき剣豪、室生英人さ」

「剣豪だと、私のクリスタルの前には無力だ」

ベトナムマンの周りには四つのクリスタルが現れた。


「ベトナムマンよ、お前を殺すつもりだがその前に教えてくれ。お前の目的はなんだ、なぜ丸正は死ななければならなかった」

「俺は別に野心も思想も持ってないさ。ただ金さえもらえば誰でも殺す、お前の親友とそこは同じだぜ」

理解は出来たが納得は出来ない理由だ。


「金を求めたその先に何があると、そこまでして欲しい金がお前にはあるのか」

「俺はベトナムに行ってみてぇんだ」

今明かされる真実。

「お前はベトナムマンなんじゃないのか。行ったことなかったのか」

「あぁ、高校二年生の時だ、始めてアンコールワットってやつを写真集で見た。あまりの美しさに衝撃を受けたものだ。それ以来俺はベトナムに憧れている。俺はベトナムマンなんだ」

「アンコールワットってさぁ、カンボジアだよな」

「えっ」

「カンボジア」

「嘘だろ……」

四つのクリスタルは砕け散った。


「ベトナムに何の憧れも無くなったお前などもう怖くはない」

室生は刀を抜いた。

「まて、見逃してくれたら牛を二頭やるぞ」

「問答無用」

「いや、クリス樽あらへんてッ……」

ベトナムマンは死んだ。


この時、室生には始めて気づいた事がある。自分の探し求めていた機密情報、それは室生と丸正、二人の友情という名の宝だったのではないだろうか。



 人の世の無情さに疲れたからか、それとも本懐を遂げたからか、室生英人という存在はこの世界から消えた。


そして、秋の空だけが残った。


作者は疲れたから寝ます。


※※※※※※以下注意書き※※※※※※


 ここにコウベヤさん、ないしは東山ききん☆さんが両者のプロローグSSを踏まえた上で執筆したSSが公開されています。


 読者の皆さんは是非「どちらか良いと思った方のSS」にいいねをしてください。

 あなたのいいねの数でSSの勝敗が確定します。


 なお、公開SSその①がどちらが執筆したかについては結果発表時点で公開される予定です。

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